◇SH2944◇経産省、「AI・データの利用に関する契約ガイドライン 1.1版」を策定 森駿介(2019/12/20)

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経産省、「AI・データの利用に関する契約ガイドライン 1.1版」を策定

岩田合同法律事務所

弁護士 森   駿 介

 

1.「AI・データの利用に関する契約ガイドライン」の策定と改訂経緯

 経産省は、2018年6月、①データの利用等に関する契約、及び②AI技術を利用するソフトウェアの開発・利用に関する契約の主な課題や論点、契約条項例、条項作成時の考慮要素等を整理し、データ編とAI編からなる「AI・データの利用に関する契約ガイドライン」(以下「本ガイドライン」という。)を策定した。本ガイドラインは、データ利活用やAI技術開発に関する契約作成の手引きとして、国内でのビジネスや研究開発の実務において、広く参照されている。本ガイドラインの概要や策定後の展開等については、過去の記事[1]をご参照いただきたい。

 経産省は、2018年12月より、AI・データ契約ガイドライン検討会作業部会を開催し、本ガイドラインの利便性を向上させるための検討を行ってきたところ、2018年の不正競争防止法(以下「不競法」という。)改正(2019年7月施行)によって、「限定提供データ」の不正取得や使用等に関する民事措置が創設されたこと、また、それに先立つ同年1月に「限定提供データに関する指針」が公表されたこと等を受け、2019年12月9日、本ガイドラインのデータ編を改訂した「AI・データの利用に関する契約ガイドライン1.1版」(以下「改訂版ガイドライン」という。)を公表した。

 

2.不競法改正と改訂版ガイドライン

 取引により一定の流通を予定されているデータは、「営業秘密」(不競法2条6項)として保護されない場合があり得るため、2018年の不競法改正において、一定の条件下で相手方を特定して提供されるデータの保護を図るべく、「限定提供データ」(同条7項)に係る「不正競争」行為(同条1項11号~16号)が創設された。下図は、限定提供データに係る不正競争行為をまとめたものである。

出典:改訂版ガイドライン21頁
https://www.meti.go.jp/press/2019/12/20191209001/20191209001-1.pdf

 限定提供データに該当するための要件は、①業として特定の者に提供する情報であること(限定提供性)、②電磁的方法により相当量蓄積されていること(相当蓄積性)、③電磁的方法により管理されていること(電磁的管理性)、④技術上又は営業上の情報、⑤秘密として管理されていないことである(不競法2条7項)が、他方、⑥無償で公衆に利用可能となっている情報(オープンなデータ)と同一の情報の場合、不正競争行為に該当しないものとされている(同法19条1項8号ロ)。

 ①の限定提供性の要件を満たすためには、契約において、提供データの第三者提供の禁止の規定を置くなどの工夫が重要になる(改訂版ガイドライン22頁)。また、③の電磁的管理は、特定の者に対してのみ提供するものとして管理するというデータ保有者の意思を第三者が一般的かつ容易に認識できる管理でなければならず、かつ、ユーザー認証などのアクセス制御技術が施されている必要がある(同22頁)。⑤は、「営業秘密」の保護との重複を避けるための要件であるところ、契約上、データ受領者に提供データを秘密情報として管理する義務を課していても、客観的には秘密情報として管理されていると評価できなければ、「限定提供データ」として保護される可能性があるとされる(同23頁)。

 その他、改訂版ガイドラインでは、主な契約条項例の解説等が一部改訂されている。

 

3.今後の議論の行方

 AI・データ契約ガイドライン検討会作業部会では、改訂版ガイドラインに盛り込まれた事項以外にも、①データ共用型契約(プラットフォームを利用したデータの共用を目的とする類型の契約)に関するモデル規約の検討、②AI技術の進展等を踏まえた、AI編のモデル契約条項の見直し、③事業者ヒアリングを通じた課題やユースケースの抽出、④AI開発及び実装に係る損害に関する責任論の整理・精緻化について議論・検討が行われており、今後、改訂版ガイドラインの更なる改訂に向け、引き続き議論されることとなっている。

以上



  1. [1] SH1840 経産省、「AI・データの利用に関する契約ガイドライン(案)」に対する意見公募 冨田雄介(2018/05/16)
    https://www.shojihomu-portal.jp/article?articleId=6144655
  2.   SH2676 経産省、「AI・データの利用に関する契約ガイドライン」の展開・活用 関口彰正(2019/07/18)
    https://www.shojihomu-portal.jp/article?articleId=9435529

 

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