◇SH3089◇厚労省、職場における新型コロナウイルス感染症の拡大防止に向けた取り組みを要請~経済団体に対し、改めて労務管理上の留意事項などを周知~ 池田美奈子(2020/04/03)

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厚労省、職場における新型コロナウイルス感染症の
拡大防止に向けた取り組みを要請

~経済団体に対し、改めて労務管理上の留意事項などを周知~

岩田合同法律事務所

弁護士 池 田 美奈子

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 厚生労働省(以下、「厚労省」という。)は、令和2年3月23日、一般社団法人日本経済団体連合会、日本商工会議所、全国中小企業団体中央会等の経済団体に対し、職場における新型コロナウイルス感染症の拡大防止に向けた取り組みを要請(以下、「本要請」という。)した。厚労省では、従前より、ウェブサイトにて、企業向けに労務管理上の留意事項に関する周知を図っているところであるが[1]、本要請は、改めてこの取り組みの趣旨を伝え、傘下団体・企業などでの拡大防止の取り組み促進に向けて、協力を求めることを目的としたものである。以下、要請内容のポイントについて解説する。

 

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 厚労省のまとめる本要請内容のポイントは以下の3点である。

  1. ① パートタイム労働者、派遣労働者、有期契約労働者などについても、法令上求められる休業手当の支払いや年次有給休暇が必要となること
  2. ② 年次有給休暇は、原則として労働者の請求する時季に与えなければならないこと
  3. ③ 上記に関連し、厚労省では、労働者の雇用を維持した場合の休業手当等の助成や新型コロナウイルス感染症による小学校休業等対応の助成を行っていること

 

①休業手当の支払い及び年次有給休暇の付与の対象について

 労働基準法(以下、「労基法」という。)26条は、使用者の責に帰すべき事由による休業の場合、使用者は労働者に対し、平均賃金の6割以上の手当(休業手当)を支払わなければならないと定める。また、労基法39条1項は、使用者は、一定の要件を満たした労働者に対して有給休暇を与えなければならないと定める。

 このように労基法を含む労働法の法規制は、「使用者」と「労働者」が当事者となる関係を適用対象としているところ、これらのうち「労働者」への該当性が労働法の適用範囲を画定するための重要な概念となっている。

 本要請において、厚労省は、パートタイム労働者、派遣労働者及び有期契約労働者にも労基法が適用されるとして注意喚起をしているが、使用者としては、自らと関係があるその他の多様な働き方をする者について、労働者性が肯定され、その者との関係について労働法が適用されるのか、今一度確認する必要があろう。

 どのような場合に休業手当を支払う必要があるかは、厚労省のウェブサイト[2]を参照されたい。

 

②年次有給休暇等、休暇の付与について

 使用者は、一定の要件を満たした労働者に対して、所定の日数の年次有給休暇(以下、「年休」という。)を、事業の正常な運営を妨げる場合でないかぎり、労働者の請求する時季に与えなければならない(労基法39条1~3項、5項)。このように年休日は、労働者の時季指定によって特定されるのが原則[3]であり、使用者が一方的に取得させることはできない。したがって、新型コロナウイルスに感染している疑いのある労働者について、一律に年次有給休暇を取得したこととする取り扱いは労基法違反となる。

 厚労省は、また、本要請において、労働者に発熱などの風邪症状がみられる際や臨時休校等により子供の世話をすることが必要となった際に、労働者が休みやすいように、労使で十分に話し合った上で、有給の特別休暇制度を設けることを奨励している。

 このような法定外の特別休暇を従業員に付与する場合は、就業規則に定める等により、労働者に周知することが重要であり、また、対象者、付与要件の他、年休の出勤率との関係で出勤とするか否か等についても明確に定めておくことが望ましい。なお、特別休暇を有給とするか否か、有給とする場合の賃金の支給率については法律上の定めはない。

 

③助成金について

 事業主が受給することができる助成金の一つである「雇用調整助成金」とは、経済上の理由により事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、労働者に対して一時的に休業等を行い、労働者の雇用を維持した場合に、休業手当、賃金等の一部が助成されるものである。厚労省は、新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえ、この雇用調整助成金の特例措置を実施し、助成対象を拡大する等している。詳細は厚労省のウェブサイトを参照されたい[4]

 また、厚労省は、新型コロナウイルス感染症による小学校等の臨時休業に伴う保護者の休暇取得を支援するために、新たに「小学校休業等対応助成金」を創設した。具体的には、臨時休業した小学校や特別支援学校、幼稚園、保育所、認定こども園などに通う子どもを世話するために、令和2年2月27日から3月31 日の間に従業員(正規雇用・非正規雇用を問わず)に有給の休暇(法定の年休を除く)を取得させた事業主に対し、休暇中に支払った賃金全額を助成(1日 8,330 円が上限)するものである。詳細は厚労省のウェブサイトを参照されたい[5]

 

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 令和2年3月29日時点における日本で新型コロナウイルスの感染が確認された人数は、1,893人にのぼっており[6]、特に東京では感染者数が急激に拡大している。依然として収束への兆しが見えない中、誰もが不測の事態への対応を迫られているが、事業主においては、このような状況下においても、適切な労務管理の実施・維持が求められており、厚労省のウェブサイト等で随時発表される情報に加え、必要に応じて、専門家の意見も入手する等して、対応されたい。

以上

 

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