◇SH3143◇経産省、20代から30代の産学官の若手による議論を取りまとめた報告書「企業・大学・官庁の若手が描く未来のたたき台」を公表 武藤雄木(2020/05/14)

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経産省、20代から30代の産学官の若手による議論を取りまとめた報告書
「企業・大学・官庁の若手が描く未来のたたき台」を公表

岩田合同法律事務所

弁護士 武 藤 雄 木

 

1 報告書「企業・大学・官庁の若手が描く未来のたたき台」の位置付け

  経済産業省は、2019年10月より、20代から30代のイノベーションにかかわる産学官の若手が集う「官民若手イノベーション論ELPIS[1](エルピス)」[2]を開催し、①若手が描く2050年の未来、②未来に向けた価値観、③価値観を反映した政策・ビジネス案をテーマに計5回のディスカッションを実施した。経済産業省から本年4月22日に公表された報告書「企業・大学・官庁の若手が描く未来のたたき台」(以下「本報告書」という。)は、これらのディスカッションにおける議論の取りまとめてとしての提言であり、「ベテランと若手の双方が共創することの重要性」や「未来を形づくる大きな価値変化」などについて記載されている。今後、官民若手イノベーション論ELPISは、同月に経済産業省の審議会(研究開発・イノベーション小委員会)の下に設置された「若手ワーキンググループ」と連携し、オープンイノベーションへの取組みとして政策やビジネスに繋げていく活動を行うこととなっており、本報告書は、経済産業省が推し進める研究開発・イノベーションの支援・促進に向けた施策に一定の影響力を有するものと考えられる。

 

2 本報告書の概要

⑴ 本報告書が提言する5つの価値変化

 本報告書は、2050年の未来像をディスカッションする中で、個人・事業・社会に未来に向けた5つの価値変化が起きていることが見えてきたと述べ、それぞれについて変化する価値観の詳細と変化前後の価値観を組み合わせることによって生まれる事例を紹介している。以下では本報告書が提言するこれらの価値変化について概説する。

【5つの価値変化】


(本報告書8頁より抜粋)

⑵ コミュニティのあり方:フォルダ型からハッシュタグ型へ

 本報告書は、従来は、「株式会社XX YY部ZZ課の〇〇」といったフォルダの階層のように自分のポジションが決まっていたが、これからは自分の想いやスキルに基づき、SNSのハッシュタグ(#)のように組織を超えて様々なプロジェクトに参加することが主流となり、組織ではなく個人が社会を動かす時代になると提言する。そして、大企業の代表が業界・社会のニーズを把握し、政策も組織同士のコミュニケーションで形成されていた時代から個人やその集合体であるコミュニティをベースにした政策が機能していく社会になっていくと述べる。

⑶ マインドセットのあり方:取得・所有から貢献・共有へ

 本報告書は、従来は、モノを取得・所有することに価値(幸せ)があり、まず所有した上で何を提供するかという思考の順番だったが、AIやロボットの技術代替で余暇が生まれ、個々人がやりたいこと・好きなことで自由に活躍できる社会に変わっていくなかで、これからは帰属意識や社会貢献などに価値(幸せ)を認め、モノや情報をまず共有することで誰でもそれらを選び、活動し、貢献することが主流になると提言する。その具体例として、モノの観点からはシェアリングエコノミー、寄附が、活動の観点からはボランティア、兼業・副業が、知識の観点からはオープンソース化、体験型・問題解決型(PBL型)の能動的な教育が浸透していくと述べる。

⑷ 研究のあり方:真理探究志向から社会変化までの研究へ

 本報告書は、従来は、研究室と社会の接点が少なく、研究者同士の密なネットワークによって遠い未来に資する真理を探究する研究が中心であり、人・予算・知識が研究者の周りで留まりがちであったが、これからは真理探究志向の研究だけではなく、研究者が社会課題解決に携わる企業や機関と交流して知識をオープンにしていき、企業や大学の人材・資金が循環することが当たり前になると述べる。

⑸ ビジネスのあり方:機能性からストーリー性へ

 本報告書は、従来は、プロダクトやサービスの価値は、機能性や効率性で図られ、その価値は金銭によって評価されていたが、これからはそれらの裏にあるストーリーやユーザーの体験が差別化要因となり、価値評価も金銭だけではなくレビューやランキングなど多様な軸によって行われる時代になると述べる。

⑹ 社会のあり方:経済大国から持続可能な社会へ

 本報告書は、従来は、高度経済成長期、GDP世界第2位、「失われた30年」などの経済指標が社会を表現してきたが、これからはグローバル化が進み、経済・環境・思想がボーダレスになるに伴い、気候変動や人口減少に直面する中で国を超えた協調により持続可能な社会を築くことが重要になると提言する。

 

3 本報告書の活用

 本報告書は、企業内部と外部のアイディアを有機的に結合させるオープンイノベーション、多様で柔軟な働き方を実現する副業・兼業、社会・地球の持続可能な発展に貢献する取り組み(SDGs)など、多くの企業が直面するこれらの経営課題に対処することが求められている時代背景を産学官の若手の視点で取りまとめたものといえる。経済産業省が主導する法改正の方向性を把握するうえで参考になるということに留まらず、これらの課題解決のなかで、企業経営者・事業責任者などのベテランと若手のコラボレーションの活性化に取り組んでいる企業担当者においては、本報告書の提言内容を理解することがその実現の一助になるものと思われる。

以 上



[1] ギリシャ神話の希望の神の名。Engineers and Leaders Picture Innovative Societyの略。

[2] 官民若手イノベーション論ELPISは、「失われた30年」の中で生まれ育った平成生まれの若者は、上の世代と違う価値観を持っているのではないか、という経済産業省の審議会(研究開発・イノベーション小委員会)の委員の発言をきっかけに、未来の社会について議論する場として発足し、20代~30代のイノベーションに関わる大学・企業・スタートアップ・ベンチャーキャピタル・官庁から延べ168名、実数105名が参加している。

 

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