内閣官房、新しい資本主義実現会議(第14回)
リ・スキリング・労働移動・構造的な賃上げの方向性
岩田合同法律事務所
弁護士 豊 岡 啓 人
1 はじめに
昨年10月3日の第210回臨時国会の衆院本会議における所信表明演説にて構造的な賃上げの実現を目指すことや個人のリ・スキリングに対する公的支援が表明されたことを受けて、2023年2月15日に開催された新しい資本主義実現会議(第14回)(以下「本会議」という。)において、構造的賃上げに必要な取組や課題等が整理、議論された。本稿ではその概要を説明した上で、想定される今後の企業への影響について簡単に触れる。
2 構造的賃上げの概要
⑴ 構造的賃上げの根本的な考え方
本会議では、日本の賃金構造に関し、ここ30年の実質賃金上昇率が他の欧米諸国と比較して低水準であること、特に高いスキルが要求される分野(IT等)では、同じ職務で諸外国と比較すると日本の賃金は著しく低いこと、日本では獲得したスキルに応じた賃金差が小さい(スキルの高い人材に対する待遇が相対的に悪い)ことが問題点として指摘されている。
これを前提に、本会議は、大要、労働者の自律的なスキル獲得・向上を促す制度を構築することで、労働者の全体的なスキルが上昇し、さらに上昇したスキルに見合う待遇の会社・職務に任意に移動してもらうことを容易にすることで、全体的な賃上げにつなげるという整理を行っており、これが「構造的賃上げ」の根本的な考え方である。
⑵ 具体的な内容
ア リ・スキリング
構造的賃上げの文脈では、リ・スキリングとは、成長分野に移動するための学び直しを意味する(前述の所信表明演説)。具体的には、労働者が希望する職務に必要なスキルと当該労働者が現在有するスキルのギャップを埋めるための研修の受講等が該当する。
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(とよおか・ひろと)
岩田合同法律事務所弁護士。2014年東京大学法学部卒業、2016年同大学法科大学院修了。2017年弁護士登録、2018年から2022年まで石嵜・山中総合法律事務所勤務。人事労務分野を中心に企業法務全般を取り扱う。
岩田合同法律事務所 http://www.iwatagodo.com/
<事務所概要>
1902年、故岩田宙造弁護士(後に司法大臣、貴族院議員、日本弁護士連合会会長等を歴任)により創立。爾来、一貫して企業法務の分野を歩んできた、我が国において最も歴史ある法律事務所の一つ。設立当初より、政府系銀行、都市銀行、地方銀行、信託銀行、地域金融機関、保険会社、金融商品取引業者、商社、電力会社、重電機メーカー、素材メーカー、印刷、製紙、不動産、建設、食品会社等、我が国の代表的な企業等の法律顧問として、多数の企業法務案件に関与している。
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