SH3595 父母の離婚に伴う子の利益確保等に向けた法制度改正に関する要項とりまとめに向け、 法制審議会・家族法制部会の第1回会議が開催 工藤良平(2021/04/23)

家族・相続・成年後見そのほか

父母の離婚に伴う子の利益確保等に向けた法制度改正に関する要項とりまとめに向け、法制審議会・家族法制部会の第1回会議が開催

岩田合同法律事務所

弁護士 工 藤 良 平

 

 令和3(2021)年3月30日、法制審議会・家族法制部会の第1回会議が、法務省内で開催された。家族法制部会は、令和3(2021)年2月10日に開催された法制審議会第189回会議(総会)において、法務大臣から、「父母の離婚に伴う子の養育への深刻な影響や子の養育の在り方の多様化等の社会情勢に鑑み、子の利益の確保等の観点から、離婚及びこれに関連する制度に関する規定等を見直す必要があると思われるので、その要綱を示されたい。」との諮問がされた(諮問第113号)ことを受け、その調査審議のために設置されたものである。

 未成年の子を持つ父母の離婚に伴う子の養育の在り方について、従前から面会交流の円滑な実現、継続的な養育費支払い等の点について、国会でもかねてより検討の必要性が指摘されていたところである(平成23年民法等の一部を改正する法律案に対する衆議院・参議院法務委員会における附帯決議)。

 平成23年の民法改正に伴い、面会交流や養育費の取決めを促進することを目的として、民法第766条第1項に面会交流(「父又は母と子との面会及びその他の交流」)や養育費(「子の監護に要する費用」)の分担が、父母が協議上の離婚をする際に定める「子の監護について必要な事項」の例示として明記された。しかし、面会交流や養育費の取り決め率は低調な水準に留まっており、 また、取決めがされた場合であっても、その後、養育費が不払いとなったり面会交流が困難となるケースが少なくない。

 また、現行民法では、親権行使のほとんどの場面において、子の意思や意見を反映するための具体的な規律はなく、離婚時の親権者の指定や面会交流、養育費に関する取決めといった離婚後の子の養育の在り方を決定する場面においても、子の意思や意見を反映させるための規律は設けられていない。

 さらに、父母の離婚後の子の養育に係る取り決めにおいて、父母の具体的な関与を定める際にどのような事情を考慮すべきか、現行民法では具体的には規定されておらず、様々な観点や課題等が指摘されているところである。

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 そして、現行民法における「親権」(民法第818条)、「子の監護をすべき者」(民法第766条第1項)、「父又は母と子との面会及びその他の交流」(同項)、「子の監護に要する費用」(同項)などの法的概念について、より適切な用語や定義の見直しを検討すべきとの指摘もされている。

 財産分与制度についても、特定の財産が財産分与の対象財産に当たるか否かが実務上問題となることが多いことから、対象財産の範囲やその判断基準を明示すべきとの指摘や、2年の期間制限(民法第768条第2項ただし書き)について、未成年の子を持つ監護親が、DVを受けていた等の事情によって期間内に財産分与を請求することができなかった場合に、経済的に更に困窮してしまうなどの指摘がされている。

 未成年養子制度についても、実際には養親となる者が養子となる未成年者(いわゆる「連れ子養子」)を養育する意思がおよそないといった、必ずしも未成年者の養育のためではない目的でされることがあるなど、未成年者の利益に適うことが十分に担保されないまま縁組がされることがあるのではないかとの指摘がされている。

 部会では、以上のような検討事項につき、今後関係者や専門家等へのヒアリングや意見交換、実態調査等を経て、民事実体法や手続法の改正に向けた議論・検討が行われる見込みである。

 離婚後の養育費請求権について、子が親に対して扶養義務に基づき扶養料を請求できる「子自身の権利」であることを明確にする民法上の規定の新設も検討される予定である。部会での検討を受けて改正が実現すれば、昨年施行の民事執行法改正により新設された裁判所を通じた「第三者からの情報取得手続」の利用により、養育費の支払い義務を怠る親につきその勤務先や銀行口座の把握が行いやすくなったという手続面の制度改正と併せて、勤務先企業に対する給与債権の差押えも今後増加するものと見込まれる。債権差押通知を受ける企業としては、過誤払いが発生しないよう適切・慎重な対応を行うことが求められることになろう。

以 上

 

【図:第1回会議資料(法務省・養育費不払い解消に向けた検討会議取りまとめ)(22頁)】

 

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(くどう・りょうへい)

岩田合同法律事務所アソシエイト。日本及び米国(NY州)弁護士。2002年東京大学法学部卒業。2006年コロンビア大学ロースクール(LL.M.)修了。2010年東京大学法科大学院修了。2013年シンガポール国際仲裁センター出向。国内外における紛争解決に加え、企業法務全般(特に国際商取引)に係る助言を行う。

岩田合同法律事務所 http://www.iwatagodo.com/

<事務所概要>
1902年、故岩田宙造弁護士(後に司法大臣、貴族院議員、日本弁護士連合会会長等を歴任)により創立。爾来、一貫して企業法務の分野を歩んできた、我が国において最も歴史ある法律事務所の一つ。設立当初より、政府系銀行、都市銀行、地方銀行、信託銀行、地域金融機関、保険会社、金融商品取引業者、商社、電力会社、重電機メーカー、素材メーカー、印刷、製紙、不動産、建設、食品会社等、我が国の代表的な企業等の法律顧問として、多数の企業法務案件に関与している。

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