◇SH0902◇参議院本会議、技能実習生法案および出入国管理・難民認定法改正法案を可決・成立 飯田浩司(2016/11/30)

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参議院本会議、技能実習生法案および出入国管理・難民認定法改正法案を可決・設立

岩田合同法律事務所

弁護士 飯 田 浩 司

 平成28年11月17日に、参議院法務委員会で「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律案」(以下「本法案」という。)及び「出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法律案」が可決され、翌18日に参議院本会議でも可決された。両法案は衆議院ではすでに一部修正の上可決されており、法律として成立することになる。以下では前者について概観する。

 外国人技能実習制度は、外国人が、「技能実習」という在留資格の下で(出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。)別表第一の二)、講習を受け、国内の公私の機関と雇用契約を締結し、当該契約の下で、技能の修得・習熟のための業務に従事する制度である[1][2]

 その本来の趣旨は、開発途上地域等への技能等の移転、人材育成という国際協力・国際貢献にあるとされている。他方で、「制度の趣旨を理解せず、国内の人手不足を補う安価な労働力の確保策として使われており、その結果、労働関係法令の違反や人権侵害が生じている等の指摘」が絶えない[3]

 本法案は、上述のような人材育成、国際協力等という制度の建前は維持しながら、以下に述べるように、実習実施者やそれを監理する団体への規制を強化すること等により、問題点の改善、制度趣旨に沿った運用を確保することを目的としている[4]

 本法案は入管法とは別に「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律」(以下「法」という。)という単行法を制定する。その概要については、下記【法律案の概要】のとおりであるが、以下、骨子について述べる。

【法律案の概要】

 法務省HP資料より抜粋引用
 http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyuukokukanri05_00011.html

 まず、技能実習者ごとに作成されるべき技能実習計画に認定制(実習認定)を設けている(法8条1項、2条7項)[5]。この技能実習計画には、技能実習の目標・内容等、責任者、技能実習生の待遇等[6]について記載する必要がある(法8条2項)。認定された技能実習計画に沿った実習が行われないこと等は実習認定取消事由となる(法16条1号)。さらに、当該取消の日から起算して5年が経過していない場合には、欠格事由として当該認定申請者(実習実施者側)は新たな認定を得られず(法10条6号等。新たな技能実習生を用いることができなくなる)、さらに他の技能実習生についての実習認定の取消事由にもなるため(法16条3号)、実習実施者側へのエンフォースメントとなっている。

 また、実習実施者を届出制に、監理団体を許可制にし、行政の監督下に置く(法17条、23条)。さらに、人権侵害行為を禁止行為として規定する(法46条~48条)。優良な実習実施者、監理団体の下では、2年間追加的な技能実習が可能となっている(法9条8号、10号)。

 このほか、基本理念・責務・基本方針の策定といった一般規定や、関連事務を執り行う認可法人の設立、事業所管大臣への協力要請、事業協議会・地域協議会の設置(任意)等についても規定されている。

 これらによって、労働関係法令の違反や人権侵害の防止を企図しながら、技能実習を実りあるものとすることが想定されているものと考えられる。

 外国人の受入れは国のあり方に関わる極めて政治的な問題であり、国民的なコンセンサスが欠かせず、議論に時間を要する問題である。そのため、本法案は、当面の対応策として、現行法の建前を維持しながら、問題点を改善しようとする試みとして理解されよう[7]

 今後の技能実習制度については、主務省令(法務省・厚生労働省共管)の内容や、運用次第と思われ、注視していく必要がある。特に前述の、2年間の追加的な技能実習が可能となるための要件が注目される。

 実務上のインパクトとしては、法施行後のコスト増、コスト転嫁等や、技能実習を行っている取引先に万が一実習認定取消処分がなされた場合の対応策の必要等が挙げられるだろう。

【技能実習制度の現状】

 厚生労働省HP資料より抜粋引用
 http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000073222.html

 

以上

 


[1] 同制度は平成5年に設けられ、平成21年法律第75号により(i)在留資格「技能実習」が創設され、(ii)当該在留資格に基づく活動が基本的に雇用契約に基づくべきものとされ、労働法令が適用される等する現在の枠組みに改正された。

[2] 技能実習は、大きくは「企業単独型」と「団体監理型」に分かれる。前者は技能実習をする者が「本邦の公私の機関の外国にある事業所の職員」等に限定される。後者は対象者の限定はないが、他方、監理団体の作成した計画(技能実習計画)に基づき、監理団体による講習及び実習監理の下で行われる必要がある。本項末尾引用の【技能実習制度の現状】によれば、団体監理型が95.8%(平成25年)とされ、大多数である。

[3] 衆議院法務委員会の会議録(平成27年9月4日)の上川法務大臣(当時)発言。

[4] 実質的には、米国や国連からの指摘があったことも大きかったと想像される。衆議院法務委員会の会議録(平成28年4月6日)の井上政府参考人発言。

[5] 法8条1項は認定を受けることが「できる」とのみ規定されているが、入管法別表第一の二も改正され、認定技能実習計画の下で技能等に係る業務に従事することは、「技能実習」の定義に組み込まれている。

[6] 衆議院での修正により「報酬、労働時間、休日、休暇、宿泊施設、技能実習生が負担する食費及び居住費」が記載事項の例示として明記された。

[7] 米国国務省人身取引報告書2014年版で、技能実習制度について日本政府に勧告された事項の大部分は、本法案提出後は、同法案を施行すべきという勧告に変わっているとのことである(前掲脚注[4]参照)。

 

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