公取委、楽天グループ株式会社に対する
独占禁止法違反被疑事件の処理
岩田合同法律事務所
弁護士 松 橋 翔
1 はじめに
公正取引委員会(以下「公取委」という。)は、令和3年12月6日、楽天グループ株式会社(以下「楽天」という。)に対して同社が運営するオンラインモール「楽天市場」における「共通の送料込みライン」(概要、注文金額が3,980円(税込み)以上の注文の場合に商品の販売価格と共に「送料無料」と表示される、というもの。)[1]に関連して独占禁止法違反(優越的地位の濫用)の疑いがあるとして行っていた審査について、楽天から自主的な改善措置の申出がなされたことを理由に、上記の疑いが解消すると認められたとして、今後、楽天が当該改善措置を実施したことを確認した上で審査を終了する旨を公表した(以下「本件公表」という。)。
本件は従前より楽天側からの公表や報道がなされるなどして注目度も高いものであったことから、従前の経緯、事案の概要を概観した上で、本件における公取委の判断やこれを踏まえた実務上の意義等を解説する。
2 従前の経緯
公表されている資料によれば、本件公表に至るまでの従前の経緯は、概要、以下のとおりである。
令和2年2月7日 | 「共通の送料込みライン」について公取委による調査開始[2] |
同月10日 | 公取委による立入検査[3] |
同月28日 | 楽天が「共通の送料込みライン」を一律に導入することの一時停止を求め、公取委が緊急停止命令[4]の申立て[5][6] |
同年3月10日 | 楽天が「共通の送料込みライン」について出店事業者が参加するか否かを自らの判断で選択できるようにすること等を公表したこと等を受け、公取委が緊急停止命令の申立てを取下げ[7] |
~ |
公取委による継続審査 |
令和3年12月6日 | 公取委による本件公表 |
3 事案の概要
公取委は、令和2年3月10日の緊急停止命令申立ての取下げ後、「共通の送料込みライン」について出店事業者の選択の任意性が確保されるか否かを見極める必要があると判断し、継続して審査を行っていた。
その上で、公取委による審査の結果、楽天が、適用対象外申請を行うことができる令和元年7月以前から楽天市場に出店している出店事業者に対し、店舗を担当する営業担当者等により、「共通の送料込みライン」に参加していない店舗(以下「不参加店舗」という。)を不利にする取扱いを示唆するなどして、「共通の送料込みライン」に参加すること及び適用対象外申請を行わないことを余儀なくさせることにより、自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に、取引の相手方に不利益となるように取引の条件を設定し若しくは変更し又は取引を実施している疑いのある事実が認められたとのことである。
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(まつはし・しょう)
岩田合同法律事務所アソシエイト。2015年中央大学法学部卒業
岩田合同法律事務所 http://www.iwatagodo.com/
<事務所概要>
1902年、故岩田宙造弁護士(後に司法大臣、貴族院議員、日本弁護士連合会会長等を歴任)により創立。爾来、一貫して企業法務の分野を歩んできた、我が国において最も歴史ある法律事務所の一つ。設立当初より、政府系銀行、都市銀行、地方銀行、信託銀行、地域金融機関、保険会社、金融商品取引業者、商社、電力会社、重電機メーカー、素材メーカー、印刷、製紙、不動産、建設、食品会社等、我が国の代表的な企業等の法律顧問として、多数の企業法務案件に関与している。
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