◇SH1196◇参院本会議、民法(債権法)改正法案および同法整備法案を賛成多数で可決・成立 大櫛健一(2017/05/31)

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参院本会議、民法(債権法)改正法案および同法整備法案を賛成多数で可決・成立

岩田合同法律事務所

弁護士 大 櫛 健 一

 

 平成29年5月26日、民法の一部を改正する法律が成立し、民法が改正された。

 改正法は、明治29年の民法制定以来初めて、契約法を中心とした民法のルールの抜本的見直しを経て成立したものであり、その中には取引・契約実務に大きな影響を及ぼし得る事項も多数存在する。筆者は、改正法案が平成27年3月31日に国会に提出されて以降、金融機関、リース会社、不動産会社、電力会社、メーカー、投資顧問会社等といった様々な業種の企業との間で、セミナーや勉強会等を通じて改正民法について意見交換する機会を幸運にも得ており、取引・契約実務への影響が特に大きいと思われる改正内容の概要について、以下のとおり留意点と併せて紹介する(なお、摘示する条文は、個別の言及がない限り、改正後の民法のものである)。

制度 改正内容の概要 留意点

時効

  1. ① 債権の消滅時効は、原則として、債権者が権利を行使することができることを知った時から5年、権利を行使することができる時から10年で完成する(166条1項。現行民法の短期消滅時効の特則及び商事消滅時効は廃止)。
     
  2. ② 時効の完成を妨げる「中断」が「更新」に、「停止」が「完成猶予」にそれぞれ改められる(147~161条)。
  3. ③ 債権者と債務者が、協議により時効の完成を最長5年「完成猶予」させることができる(151条)。
  1. ① 今後の債権管理にあたって極めて重要な改正となる。従前の商事消滅時効と同様に履行期から5年を基準として時効管理を行うケースが多いと思われるが、何をもって「債権者が権利を行使することができることを知った時」と言えるかは、事業者・取引毎に異なり得るため注意が必要。
  2. ② 時効管理にあたり、概念の整理が必要。

     

  3. ③ 従前は、債務者による承認が得られない場合は、裁判上の請求(提訴・調停申立て)により時効中断せざるを得なかったが、協議による時効の完成猶予を活用することができれば、今後は、任意交渉の期間をより長期間にわたって確保しやすくなる。

法定利率

  1. ① 従前の固定利率(民事法定利率5%:商事法定利率6%)制度から、当初3%とし、3年毎に1%刻みで見直される変動利率制度に変更される(404条。商事法定利率は廃止)。

     

  2. ② 法定の変動利率は、逸失利益等の損害算定における中間利息控除にも適用される(417条の2)。
  1. ① 当面は、法定利率が低下すると見込まれるため、従来、契約において約定利率を定めていなかった場合には、あらためて規定の要否を検討する必要がある。また、不当利得返還請求権や不法行為に基づく損害賠償請求権の遅延損害金にも適用されるため、これらの遅延損害金は、当面、減額される。
  2. ② 交通事故等の逸失利益の算定において、中間利息控除に適用される利率が下がるため、当面は、算定額の増額が見込まれる。

保証

  1. ① 事業目的の貸金等の債務に関し、経営者等でない個人を保証人とする場合には、一定の要件に従った公正証書等による保証契約を締結することが必要になる(465条の6~9)。
  2. ② 債権者及び主債務者においては、保証人に対して、一定の情報提供義務を負う(458条の2、3及び465条の10)。

     

  3. ③ 個人を保証人とする根保証契約(個人根保証契約)において極度額の定めが必要となり、定めがない場合には無効となる(465条の2)。なお、主債務者及び保証人の死亡等により元本は確定する(465条の4)。
  1. ① 左記の場合は、経営者保証ガイドラインや監督指針等により金融実務では減少傾向にあると思われるものの、今後、新たに保証設定する場合には厳格な手続に服することになる。
  2. ② 情報提供義務違反がある場合には、一定の要件の下に、保証契約が取り消されるリスクもあり、債権者においては必要な情報が適切に保証人に提供されているかに留意する必要がある。
  3. ③ 個人根保証契約にあたると思われる取引(例えば、不動産賃貸借における個人保証やメーカー等による取引基本契約における個人保証等)においては、今後、極度額の定めを設ける必要がある。また、必要に応じて、極度額の見直しや新たな保証人の設定を検討する必要がある。

売買

  1. ① 従前の「隠れた瑕疵」による売主の責任(瑕疵担保責任)が、目的物の「種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しない」ことによる責任(契約不適合責任)に変更される(562条)。
  2. ② 責任の具体的内容として、買主による損害賠償請求及び解除のほか、追完請求・減額請求が認められる(562~564条)。
     
  3. ③ 権利行使要件として、(種類又は品質に関しては)「不適合を知った時」から1年以内の買主による通知が必要(566条)。
  1. ①「契約不適合」の要件は、従前の「瑕疵」の考え方を承継したものであると指摘されているが、文言に変更がある以上、将来的には解釈が異なってくる可能性はある。
     
  2. ② 買主の請求内容が変更されるため、買主・売主ともに必要又は可能な請求について対応を検討し、場合によっては契約書上、調整しておく必要がある。
  3. ③ 上述した債権の消滅時効に関する改正(166条)と相俟って債権管理には注意が必要。なお、商事売買における買主による6ヵ月以内の検査通知義務は存続(改正商法526条2項)。

請負

売買と平仄を合せて、請負人の注文者に対する「瑕疵担保責任」が「契約不適合責任」へと変更(636及び637条)。

売買と同様の留意点があり、特に、引渡時から、原則として1年(現行民法637条)、土地の工作物に関しては5年又は10年(現行民法638条)であった責任期間が変更されることには要注意。

賃貸借

賃貸借期間の上限が20年から50年に伸長される(604条)。

 

(借地借家法の適用がある不動産賃貸借については影響しないものの)ゴルフ場や太陽光発電設備用敷地といった長期の賃貸借期間を設定するニーズのある取引に活用できる。

約款

解釈上、認められていた約款の法理が、一定の要件を定めて明文化される(548条の2~4)。

今後、約款を契約の内容とするためには、法定要件を充足する必要があり、約款の変更に際しても法定要件に従わなければ契約内容の変更の効力は生じない。

 上記各改正事項は、改正内容のごく一部に過ぎない。もっとも、今回の改正は、(1)全般的には従来の判例・通説を明文化したものが多いことや、(2)既存の契約実務において民法の任意規定と異なる合意をすることが慣例化しているもの[1]もあること等により、取引・契約実務への影響は大きくはないと思われるものも少なくない。改正法の対応に当たっては、まずは改正の全体像を把握した上で、自社に影響のありそうな改正項目の見当をつけることがスタートラインとなるだろう。

 改正法は、公布から3年以内に施行予定である。今後はより一層、民法に関する議論と実務の動向を注視する必要があろう。

以 上



[1]  典型的には、特定物に関する危険負担(現行民法534条)を修正する合意等が挙げられる。

 

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