◇SH1409◇厚労省、「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案要綱」の答申 森 駿介(2017/09/26)

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厚労省、「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案要綱」の答申

岩田合同法律事務所

弁護士 森   駿 介

 

 厚労省が、平成29年9月8日に、労働政策審議会に諮問した「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律要綱」(以下「本要綱」という。)について、同月15日、労働政策審議会から厚生労働大臣に対し、おおむね妥当とする答申が行われた。

 働き方改革は、安倍政権が成長戦略の柱と位置付ける目玉政策であり、平成28年9月に労使団体トップを交えて設置された「働き方改革実現会議」において具体策が検討されてきた。平成29年3月には、検討の成果として「働き方改革実行計画」がまとめられており、この計画を基に作られたのが本要綱である。

 本要綱には、①残業時間の罰則付き上限規制、②正規・非正規等の雇用形態にかかわらず仕事内容が同じであれば原則として同じ処遇とする「同一労働同一賃金」、③時間ではなく成果で賃金を決める「脱時間給制度」の導入が盛り込まれた。以下では、それぞれの要点について説明する。

 

① 残業規制

 現在は労使間で労使協定(三六協定)を結べば、労働者に無制限で残業させることも可能である。厚労省は残業時間を月45時間や年360時間までに抑えるよう求めているものの、強制力はなく形骸化が目立つとの指摘もある。

 そこで、本要綱では、残業時間の上限を月平均60時間、年間計720時間とした。また、企業が繁閑に柔軟に対応できるよう、単月で100時間未満、その翌月と合わせた2か月平均では80時間までの残業を認めた。これらの残業時間の上限は、直近1か月間に100時間超、又は2か月~6か月間に月80時間超の時間外労働があった場合に、過労死の原因の多くを占める「脳・心臓疾患」と過労との関係性が強まることを根拠とする過労死の認定基準等を参考にしたものとされる。

 この規制は、研究職を除く、原則全ての業種を対象とし、違反した企業には罰則も科される。

 

② 同一労働同一賃金

 本要綱では、短時間労働者・有期雇用労働者・派遣労働者といった非正規労働者の基本給、賞与その他の待遇について、正規労働者との間に不合理な差を設けることが禁止され、個々の待遇ごとに、当該待遇の性質・目的に照らして適切と認められる事情を考慮して決定されるべきことが明確化された。

 また、企業には、非正規労働者に対し、正規労働者との待遇差の内容・理由等について説明する義務が課されている。

 

③ 脱時間給制度

 脱時間給制度は、働いた時間ではなく、成果に応じて賃金を決める仕組みであり、法律による労働時間規制を外し、残業代や深夜割増賃金などの支給対象外とすることも含まれる。高度プロフェッショナル制度(高プロ)と呼ばれているもので、米国の「ホワイトカラー・エグゼンプション」を基にしている。

 【制度設計としてはよく分かるのですが、本稿で工場労働者をあえて具体例として取り上げなくても良いと思いましたので、削りました。】労働時間と成果の関連が薄い労働者には、個人の都合で自由に仕事をしてもらう働き方像をイメージしたもので、年収1075万円以上の金融ディーラーやコンサルタントなどの高度な専門職が対象となる。もっとも、日本では年収1000万円以上の労働者(全体の3%)の多くが管理職であるため、制度の適用対象者数は限定される見込みである。

 脱時間給制度については、労働者の健康確保策の内容が労使間で大きな争点となっていたものの、最終的には、年104日以上の休日取得を労働者に義務付けた上で、勤務間インターバル、労働時間の上限設定、2週間連続の休暇又は臨時健康診断の実施の4つの中から労使で選択した施策を実施することを求める内容とされた。

 

★ 本要綱のポイント

① 残業規制

  1. ✓ 残業時間上限は、月平均60時間、年間計720時間とする。
  2. ✓ 残業時間上限範囲内で、単月100時間未満、2か月平均80時間までは残業可。
  3. ✓ 違反企業には罰則あり。

② 同一労働同一賃金

  1. ✓ 非正規労働者と正規労働者の不合理な待遇差を禁止。
  2. ✓ 企業には、非正規労働者に対する待遇差の内容・理由等の説明を義務付け。

③ 脱時間給制度

  1. ✓ 年収1075万円以上の高度な専門職を対象として、労働時間規制の適用を除外。
  2. ✓ 企業には、法律で定める労働者の健康確保策を義務付け。

 

 厚労省は、当初、本要綱を基にした働き方改革関連法案を平成29年秋の臨時国会に提出する方針だったが、安倍晋三首相が、同年9月28日にも衆議院を解散する意向を固めたことを受け、秋の臨時国会提出は見送られる見通しとなった。本要綱では、法律の施行日は原則として平成31年4月1日とされているが、厚労省幹部によれば、法案審議が平成30年の通常国会まで遅れた場合には、施行時期がずれる可能性があるとのことである。

以 上

 

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