◇SH2157◇公取委、Airbnb Ireland UC及びAirbnb Japanに対する独占禁止法違反被疑事件 齋藤弘樹(2018/10/24)

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公取委、エアビーアンドビー・アイルランド・ユー・シー及び
Airbnb Japanに対する独占禁止法違反被疑事件

岩田合同法律事務所

弁護士 齋 藤 弘 樹

 

はじめに

 今月10日、公正取引委員会は、エアビーアンドビー・アイルランド・ユー・シー及びAirbnb Japan株式会社(以下、合わせて「Airbnb」という。)に対する独占禁止法違反被疑事件について、審査を終了した旨発表した。

 公正取引委員会はIT・デジタル関連分野における競争上の弊害について注視していることから、若干の解説を試みる。

 

1 発表内容の概要

 以下、公正取引委員会の発表した事実関係(公正取引委員会の発表資料より引用した下図も参照されたい。)を前提に、解説を行う。

(1) 民泊情報サービスの情報の掲載等及びAPIについて

 民泊は、住宅の全部又は一部を活用して、旅行者等に宿泊サービスを提供するものであり、住宅を提供する側(ホスト)と旅行者等(ゲスト)が存在する。民泊サービス仲介サイトは、ホストから民泊サービスの情報の掲載を受ける一方、ゲストに対し民泊サービスを紹介する存在であるところ、ホストは民泊サービスの情報の掲載手続を第三者(代行サービス提供者)に依頼する場合がある。

 APIを利用した管理ツールとは、ホスト及び代行サービス提供者が民泊サービス仲介サイトに民泊サービスの情報を掲載する作業を効率化するものであり、また、複数の民泊サービス仲介サイトに民泊サービスの情報を掲載する場合の作業を簡略化するものである。たとえば、宿泊プランを登録する場合に、各民泊サービス仲介サイト上の管理画面を開いて個別に登録作業を行う代わりに、管理ツール上で登録作業を行い、各民泊サービス仲介サイトに反映させる機能等がある。

(2) API利用に関する制限規定と競争への影響の懸念

 Airbnb(上図における「特定の民泊サービス仲介サイト」)は、平成29年6月以降、一部の代行サービス提供者及び管理ツール提供者との間で、APIの利用等に関する契約を締結しており、その中には他の民泊サービス仲介サイトへの民泊サービスの情報の掲載の制限(平成29年8月17日以降は、APIを利用した場合かつ特定の物件に限っての制限。上図における×印)の規定が含まれていた。

 公正取引委員会は、代行サービス提供者及び管理ツール提供者がこの規定を遵守する場合、Airbnb以外の他の民泊サービス仲介サイトに掲載される民泊サービスの情報の数が減少し、掲載される民泊サービスの情報数の減少によって他の民泊サービス仲介サイトが排除(淘汰)される、という懸念を抱いたと考えられる。

(3) 公正取引委員会が検討した規定

 公正取引委員会は、Airbnbの行為は、私的独占(独占禁止法3条)又は排他条件付取引(同法第19条及び不公正な取引方法[2]第11項)若しくは拘束条件付取引(同第12項)の規定に違反する疑いがある、としている。

 私的独占は排除型私的独占と支配型私的独占に大別され、排除型私的独占の要件は、①排除行為により、②一定の取引分野における競争を実質的に制限すること、[3]である。一方、排他条件付取引及び拘束条件付取引の要件は、それぞれ、①排他条件付取引又は拘束条件付取引、②市場閉鎖効果の発生、[4]の2つであり、②の要件については新規参入者や既存の競争者が排除される又はこれらの取引機会が減少するような状態をもたらす「おそれ」があれば足り、私的独占と異なって、競争を実質的に制限する結果までは必要とされない一方、刑事罰の対象にもならない。

 したがって、代行サービス提供者及び管理ツール提供者がAirbnbとの間の契約を維持して規定を遵守することにより、最終的に他の民泊サービス仲介サイトが排除(淘汰)されなくても、そのおそれが存在すれば、独占禁止法違反となる。

 

2 事業者に求められる対応

 取引先に対して自社を他社よりも優遇する取引条件を求めることは実務上少なくないと思われるものの、かかる取引条件が、「新規参入者や既存の競争者が排除される又はこれらの取引機会が減少するような状態をもたらすおそれ」を有する場合には、不公正な取引方法として、独占禁止法違反となる場合がある。本件は、IT・デジタル関連分野において問題となった一事例であるが、広く他の分野の事業者においても、同様の疑いをかけられぬよう、今後とも注意する必要がある。

以 上



[1] 公正取引委員会は平成13年4月にITタスクフォースを設置し、平成28年10月21日にはIT・デジタル関連分野における独占禁止法違反被疑行為に係る情報提供窓口を設置している。

[2] 昭和五十七年六月十八日公正取引委員会告示第十五号

[3] 競争の実質的制限とは、裁判例上、競争自体が減少して、特定の事業者又は事業者集団がその意思で、ある程度自由に、価格、品質、数量、その他各般の条件を左右することによって、市場を支配することができる状態を形成・維持・強化することをいう(公正取引委員会「排除型私的独占に係る独占禁止法上の指針」第3の2(1))。

[4] 市場閉鎖効果が生じる場合とは、新規参入者や既存の競争者にとって、代替的な取引先を容易に確保することができなくなり、事業活動に要する費用が引き上げられる、新規参入や新商品開発等の意欲が損なわれるといった、新規参入者や既存の競争者が排除される又はこれらの取引機会が減少するような状態をもたらすおそれが生じる場合をいう(公正取引委員会「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」第1部3(2)ア、同第2の2(1))。

 

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