◇SH0140◇公取委、レンゴー株式会社ほか36社に対する審判開始 青木晋治(2014/11/20)

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公取委、レンゴー株式会社ほか36社に対する審判開始

(東日本地区に交渉担当部署を有する需要者向け段ボールシート又は段ボールケースの製造業者及び大口需要者向け段ボールケースの製造業者による価格カルテル事件)

岩田合同法律事務所

弁護士 青 木 晋 治

 公正取引委員会は、平成26年11月11日、平成26年6月19日付で行った、東日本地区[1]に交渉担当部署を有する需要者向け段ボールシート[2]又は段ボールケース[3]の製造業者及び大口需要者向け段ボールケースの製造業者に対する排除措置命令及び課徴金納付命令について、レンゴー株式会社ほか36社から排除措置命令及び課徴金納付命令に係る審判請求がそれぞれ行われたとして、同年11月7日に、独占禁止法(以下「法」という)第52条3項の規定に基づき審判手続を開始することとし、その旨を同社らに通知したと発表した。

 公正取引員会の平成26年6月19日付発表[4]によれば、公正取引委員会は、11社が平成23年10月頃から東日本地区の段ボールシート製造業者らによって組織される「東日本段ボール工業組合」の会合の場等で情報交換を行い、これらの製品の販売価格を引き上げる旨の合意、具体的には、段ボールシートについては1平方メートルあたり7円ないし8円以上、段ボールケースは12%ないし13%以上の値上げをすることで合意したと認定した。

 また、その後、東日本地区の支部会等の会合において、その他の製造業者が同様の値上げを決め、合意に参加したと認定していた。

 この結果、段ボールシートに関し55社、段ボールケースに関し63社、大口需要者向け段ボールケースに関し5社が排除措置命令の対象となり、同時に総額で132億9313万円の課徴金納付命令がなされていた。

 上記平成26年6月19日になされた排除措置命令及び課徴金納付命令に対しては、公正取引委員会の事実認識及び法律解釈に疑義があるとして、審判請求[5]を行う旨各企業が公表していたが、今般、レンゴー株式会社ほか36社から審判請求が行われたとして公正取引委員会より公表があったものである。

 法は、カルテル・入札談合等の違反行為があった場合に、違反事業者に対し、当該行為の差止等の排除措置命令をすることができるとともに(法7条及び20条)、課徴金を国庫に納付するよう命じる旨定めている(法7条の2及び20条の2から20条の6)。

 本件は、法3条(不当な取引制限の禁止)の規定に違反する行為[6]があったとして、違反事業者に対し、排除措置命令及び課徴金納付命令がなされたものである。

 課徴金の金額は、以下のようにカルテル・談合の実行期間中の売上金額に事業者の業種や規模ごとに定められた課徴金算定率を乗じて算定される。

 

   課徴金額 = カルテル・談合の実行期間中(最長3年間)の対象製品又は役務の売上金額 ✕  課徴金算定率

 

 なお、本件では一社について、課徴金減免制度が適用され、課徴金が30%減額されている。

 課徴金減免制度[7]とは事業者が自ら関与したカルテル・談合について、その内容を公正取引委員会に自主的に報告し、一定の要件[8]を満たした場合に課徴金が減免されるという制度であり(法7条の2第10項から13項)、その減免率等は以下のとおりである。本件においては、上記一社について課徴金が30%減額されているが、これは公正取引員会の調査開始日以後に自主的に報告したことによるものと思われる。

 

課徴金減免申請順位

減免率

調査開始日前の1番目の申請者

課徴金額を100%免除

調査開始日前の2番目の申請者

課徴金額を50%減額

調査開始日前の3~5番目の申請者

課徴金額を30%減額

調査開始日後の5番目までの申請者[9]

課徴金額を30%減額

 

 上記のとおり、公正取引委員会に自主申告することにより受ける恩恵は少なくなく、近年カルテル・談合違反については、課徴金減免制度の適用を受けるべく自主的に違反行為を申告する例がみられる。

 なお、新聞報道によれば、住友電工株式会社が光ケーブルなどを巡るカルテルに関し課徴金納付命令を受け約88億円の課徴金を納付したことに関し、課徴金減免制度を利用せずに会社に損害を与えたことなどを理由に、同社の株主が大阪地裁において株主代表訴訟を提起したところ、同社役員らが会社に対し5億2000万円の解決金を支払うことを内容とする和解が成立したということである(平成26年5月7日付日本経済新聞)。企業の役員等においては、課徴金減免申請を適時適切に行わず、そのタイミングを逸した場合には、この事例のように株主代表訴訟等により役員が個人として多額の損害賠償金の支払義務を負うリスクがあることには十分に留意すべきである。

 当然ながら、カルテル等独占禁止法違反を行わないよう社内において法令遵守体制を整えるのが第一であるが、万が一、違法行為が確認された場合には、直ちに当該違法行為(疑わしい行為も含む)を是正したうえで、自主申告を行うことを積極的に検討すべきであろう。

 

以上


[1] 北海道、青森県、岩手県、宮城県、秋田県、山形県、福島県、茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、新潟県、山梨県、長野県及び静岡県をいう。

[2] 波形に成形した中しんの、片面又は両面にライナを貼ったものをいう。

[3] 段ボールシートで作った箱をいう。

[4] 「東日本地区に交渉担当部署を有する需要者向け段ボールシート又は段ボールケースの製造業者及び大口需要者向け段ボールケースの製造業者に対する排除措置命令、課徴金納付命令等について」

[5] 法49条6項、同50条4項。命令書の謄本の送達があった日から60日以内に審判を請求する必要がある。

[6] 本件では、いわゆる価格カルテル。

[7] 「リニエンシー制度」ともいう。

[8] 減免率ごとに要件が異なるが、公正取引委員会規則で定めるところにより違反行為に係る事実の報告・資料提出を行うこと、調査開始日以後や報告・資料提出後に違反行為がないことなどの要件を満たす必要がある。

[9] ただし、減免事業者数は、調査開始前と調査開始以後とで併せて最大5社であり、調査開始日以後は最大3社まで適用される。

(あおき・しんじ)

岩田合同法律事務所アソシエイト。2007年慶應義塾大学法科大学院卒業。2008年弁護士登録。『新商事判例便覧』(共著、旬刊商事法務、2014年4月25日号~)、『Q&A 家事事件と銀行実務』(共著、日本加除出版、2013年)、『民事再生手続における取立委任手形にかかる商事留置権の効力』(共著、NBL969号、2012年)、「金融ADRから学ぶ実務対応」(共著、銀行実務2012年10月号)(共著、金融財政事情研究会、2014年)等著作多数。

岩田合同法律事務所 http://www.iwatagodo.com/

<事務所概要>

1902年、故岩田宙造弁護士(後に司法大臣、貴族院議員、日本弁護士連合会会長等を歴任)により創立。爾来、一貫して企業法務の分野を歩んできた、我が国において最も歴史ある法律事務所の一つ。設立当初より、政府系銀行、都市銀行、地方銀行、信託銀行、地域金融機関、保険会社、金融商品取引業者、商社、電力会社、重電機メーカー、素材メーカー、印刷、製紙、不動産、建設、食品会社等、我が国の代表的な企業等の法律顧問として、多数の企業法務案件に関与している。

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