◇SH1518◇コシダカホールディングス、取締役の処分に関するお知らせ 角野 秀(2017/11/29)

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コシダカホールディングス、取締役の処分に関するお知らせ

岩田合同法律事務所

弁護士 角 野   秀

 

 株式会社コシダカホールディングス(東証第一部)(以下「コシダカHD」という。)は、平成29年11月17日、「取締役の処分に関するお知らせ」を公表した。その要旨は、同年11月7日付で発送した同社定時株主総会の招集通知について、招集通知発送日までに会計監査人から監査報告を受領することができなかったにもかかわらず、未受領の監査報告書を招集通知に添付したまま発送したとの件に関して、経営陣に対して減給処分の決定を行ったというものである。

 コシダカHDの同月9日及び13日付のプレスリリースによれば、計算書類の監査報告について、勘定科目残高の処理に関する追加の確認が必要となり監査が継続したため、発送日までに会計監査人から監査報告を受領できず、発送日までには受領できるであろうとの判断と事務手続上のミスによって、既に発送手続きが完了していたことから、監査報告未受領のまま監査報告書を招集通知に添付し発送してしまったとのことである。もっとも、前記の「取締役の処分に関するお知らせ」と同月17日付のプレスリリースでは、同日付で会計監査人から無限定適正意見が表明された監査報告書を受領した旨、招集通知添付の監査報告書を差し替える旨、及び当初予定通りに定時株主総会を開催する旨等が公表されている。

 会社法上、計算書類については、原則として株主総会の承認が必要であるが(会社法438条2項)、会計監査人設置会社においては、①会計監査人の監査報告に無限定適正意見が示されていること、②監査役(監査役会、監査委員会等を含む)の監査報告に会計監査人の監査の方法又は結果を相当でないと認める意見がないこと等の要件を満たす場合は、取締役会が計算書類を承認し、取締役が定時株主総会で報告することで当該計算書類を確定させることができ、定時株主総会の承認は不要とされている(会社法439条、会社計算規則135条)。

 ところが、会計監査人設置会社において、何らかの理由で所定の期限までに会計監査人から監査意見が表明されない場合、会社としては、対応策について慎重な検討が必要となる。会計監査人は、計算書類について一定の通知期限までに監査報告を受領する職責を担う特定取締役・特定監査役に通知する必要があるところ(会社計算規則130条1項)、会計監査人が通知期限までに通知をしない場合は、その通知期限をもって、会計監査人の監査を受けたものとみなされるとされている(同条3項)[1]。この場合、監査役は会計監査報告がないことを前提に監査を行うこととなるとともに(会社計算規則127条2号括弧書)、株主に対しては会社計算規則の定めにより監査を受けたものとみなされた旨を報告することになる(会社法437条、会社計算規則133条1項3号ニ)。そして、この場合には、会計監査報告に適正意見がないため、計算書類については原則どおり株主総会の承認が必要となる。

会計監査人が期限までに意見を表明しない場合
  1. 会計監査人は、通知期限までに監査報告を特定取締役等へ通知することが必要
  2. → 通知期限までに通知しない場合、通知期限をもって、会計監査人の監査を受けたものとみなされる
  3. ・ 監査役は会計監査報告がないことを前提に監査
  4. ・ 株主に対しては会社計算規則の定めにより監査を受けたものとみなされた旨を報告
    ⇒ この場合、会計監査報告には適正意見がないため、計算書類について株主総会での承認が必要

 もっとも、計算書類について株主総会の承認が必要となった場合、株主総会で計算書類の承認を求めるという事態が会計監査人設置会社では通常予定されていないことから、当該株主総会において、株主から、期限までに会計監査人から監査意見を受領できなかった経緯や理由について説明を求められることが想定される。取締役等としては、それらについて説明義務を果たす必要が生じることになるが(会社法314条)、説明義務違反があると、仮に計算書類の承認を得たとしても決議取消事由に該当する可能性もあり得ることから、慎重な対応が必要となる。また、会計監査人から期限までに監査意見を受領できない事態が生じた場合は、当初の定時株主総会予定日との関係で、法定期間前までに予定通り招集通知を発送できないといった理由により、当初予定日にそもそも定時株主総会を開催できない可能性もあるため、定時株主総会の開催日を後ろ倒しせざるを得ない場合の対応も検討すべきであろう。

 実務上は、本事例のように、会計監査人設置会社において、招集通知発送日までに会計監査人から監査報告を受領できないという事態はそうあることではないと思われる。もっとも、近時、会計監査人による実効的な監査への期待が高まっていることから、会計監査人との間での会計処理を巡る見解の相違等を理由に、会計監査報告の受領に予定よりも時間を要するといった事態が今後増えることも予想されることから、各企業においては、改めて、充分な時間的余裕をもった監査スケジュールを組むことが肝要であろう。

以 上

 


[1] コシダカHDの本事案においては、監査の継続に伴い、特定取締役、特定監査役及び会計監査人の間で通知期限日についての合意がなされていたものと推測される。

 

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