公取委、下請法の規定に違反する行為が認められたとしてマルショクに対し勧告
岩田合同法律事務所
弁護士 永 口 学
下請代金支払遅延等防止法(「下請法」)は、一定の資本金要件を満たす者(親事業者)が、下請事業者に対して一定の行為を委託するにあたっての義務や禁止事項を定めている。本件では株式会社マルショクが「基本リベート」といった名目で下請代金から一定額を差し引いて支払を行っていたことなどが問題となったが、このような下請事業者の責に帰すべき理由のない下請代金の減額は正に下請法が禁止事項として定めている事項の一つである(下請法4条1項3号)。
下請法は制定後数次の改正がなされているが、本トピックとの関係で特筆すべきは平成15年改正である。
すなわち、同年改正により、公取委は、下請法違反行為の原状回復措置のみならず、「その他必要な措置をとるべきこと」まで勧告の内容に含めることができることとなった(下請法7条1項、2項)。
その結果、公取委は、違反会社の取締役会において違反行為を行った事実を確認するとともに今後違反行為を行わないことを決議することや、下請法の研修を行うなど社内体制の整備のために必要な措置を講じることといった法令遵守体制整備について踏み込んだ内容の勧告を行うことが可能となった。加えて勧告に基づいて採った措置の内容を公取委に報告することを求められることも多い。勧告を受けた違反会社の負担は相当重いといえよう。
さらに、従来の下請法では違反会社が勧告に従わなかったときのみ公取委はその旨を公表するとされていたが、平成15年改正により、その規定が削除され、勧告に従ったかどうかを問わず、公取委は必要に応じて勧告を公表することができることとなった。つまり、違反会社は勧告を受けた時点でその事実を公表され得ることとなったのであり、レピュテーションリスクを負う危険性はより高まったといえる。なお、勧告に対する不服申立手続は下請法上設けられていない。また、勧告に従わない場合の罰則等の制裁や過料等の履行を促す措置は設けられていないことから、下請法上の勧告は処分性を有するものではないとされている。
一方で、公取委は、平成20年12月17日に公表した「下請法違反行為を自発的に申し出た親事業者の取扱いについて」において、公取委が調査に着手する前に下請法違反行為を申し出ることや、当該違反行為を既に取りやめていることなど、一定の要件を満たした場合(詳細は下表参照)につき、勧告を行わない取扱いをするとしている。この一定の要件を満たす公取委への申し出を自発的申出といい、近年自発的申出を検討する企業は多く、既に当職も何例か手がけている。
上記平成15年改正の内容を踏まえれば、勧告を免れるという恩恵は非常に大きい。下請法違反行為を行わないよう、社内において法令遵守体制を整えるのが第一であるのはもちろんであるが、万が一の際は自発的申出を行うことが積極的に検討されるべきである。
以上