◇SH1685◇「不正競争防止法等の一部を改正する法律案」が閣議決定 飯田浩司(2018/03/06)

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「不正競争防止法等の一部を改正する法律案」が閣議決定

岩田合同法律事務所

弁護士 飯 田 浩 司

 

1. 本法案の閣議決定

 内閣は、平成30年2月27日、「不正競争防止法等の一部を改正する法律案」を閣議決定した(以下「本法案」という。)。

 

2. 本法案の概要

 経済産業省が公表している不正競争防止法等の一部を改正する法律案【不競法等】の概要(以下「本説明」という。)は[1]、本法案について、以下のように説明している(末尾の図表参照)。

 すなわち、同法案の背景として、「ビッグデータ等と産業とのつながりにより新たな付加価値が創出される産業社会(コネクテッド・インダストリーズ)への対応が、我が国産業の喫緊の課題となっている」という状況にあるため、「データを安心・安全に利活用できる事業環境の整備や、知的財産や標準においてビッグデータ等の情報技術に対応した制度の導入が必要」とされる。

 そこで、本法案により、①「データの不正取得等に対する差止めの創設等」、②「JISの対象へのデータ、サービス等の追加等」、③「中小企業の特許料等の半減等」の措置が講じられる。

 本稿では、多くの会社がその違反等について備えるべき①について、すなわち、不正競争防止法部分の改正案について検討する。

 

3. 不正競争防止法改正部分の概要

 本説明では、本法案における不正競争防止法(以下「法」という。)部分の改正内容として、

  1. (ⅰ)「ID・パスワード等の管理を施した上で事業として提供されるデータの不正取得・使用等を新たに不正競争行為に位置づけ、これに対する差止請求権等の民事上の救済措置を設ける」こと、
  2.  
  3. (ⅱ)「暗号等の技術的制限手段の効果を妨げる「プロテクト破り」を可能とする機器の提供等だけでなく、役務の提供等も不正競争行為に追加する」こと、

の2点を挙げている。

 

4.「限定提供データ」の不正取得・使用等に関する救済の追加

 不正競争防止法では、元々、「不正競争」による営業上の利益の侵害等について差止請求権が規定され(法3条)、また、「不正競争」の一部について損害賠償額の推定等の規定が用意されている(法5条)。

 上記(ⅰ)に関し、今般の改正法案においては、「業として特定の者に提供する情報として電磁的方法(略)により相当量蓄積され、及び管理されている技術上又は営業上の情報(略)」を「限定提供データ」(改正法案2条7項)とし、「限定提供データ」に係る不正取得行為等や不正開示行為等を新たに「不正競争」の定義に含めるものとされた(改正法案2条1項11号から16号まで)。

 改正により、「限定提供データ」に係る不正競争も、差止請求等や損害賠償額の推定等の対象となる。

 経済産業省によれば、今までは、価値のあるデータであっても、特許法・著作権法の対象とならない場合や(秘密管理等を必要とする)「営業秘密」には該当しない場合には、差止請求が困難だった。今回の改正により、「不正競争」の定義に加えられた悪質性の高いデータの不正取得・使用等に対しては差止請求等が可能になり、(秘密管理を前提としない)「価値あるデータの流通」の保護が図られることになる。

 

5.「役務の提供」によるプロテクト破りに関する救済の追加

 上記(ⅱ)に関しては、やはり「不正競争」の定義に、暗号等の技術的制限手段の効果を妨げる「プロテクト破り」に係る行為、すなわち、「影像の視聴等を当該技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする役務を提供する行為」が付け加えられる(改正法案2条1項17号及び18号)。これにより、プロテクト破りについては、従来から規制されていた「機器の譲渡」等だけでなく、「役務の提供」も「不正競争」に含まれることになり、上述の差止請求権の対象となることになる(法3条。ただし、損害額の推定等の対象にはならないことには注意を要する(改正法案5条))。

 この改正で「プロテクト破り」として不正競争に含まれる範囲が広がることにより、暗号化によるデータの活用に対する保護がより厚くなることになろう[2]

 

6. 今後の実務への影響

 本改正により、一定の「データ」に関して、「不正競争」を理由とする救済の範囲が広がる。データを活用している企業にとっては、不当なデータの流出等について選択肢が広がるという実務上の影響がある。また、コンプライアンスの観点からも、営業秘密に至らない「データ」の不正取得等について、ますます意識が必要となろう。

 なお、上記(ⅰ)の改正の核となる定義「限定提供データ」は、上述のように、「相当量蓄積され」という非定量的な概念で定義づけられている。施行後しばらくの間は、「相当量」の理解をめぐる争いが生じる可能性も否定できないだろう。

以上

 

 


[2] なお、今回、不正競争防止法でインカメラ手続に関する改正等がなされているが、これは 本説明のうち、③「中小企業の特許料等の半減等」に該当する改正であるため割愛する。

 

 

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