法務省、法制審議会民法・不動産登記法部会第1回会議
岩田合同法律事務所
弁護士 松 田 貴 男
2019年3月19日、法制審議会の民法・不動産登記法部会の第1回会議が開催された。
土地の所有者死亡後に相続登記がされないなどの理由によって、不動産登記簿上誰が所有者であるかが不明となっている土地(所有者不明土地)が増加し、土地の利用等が阻害されるという問題が生じている。そこで、本部会では、民法及び不動産登記法に関する以下の観点からの法改正が検討される予定である。
- 相続等による所有者不明土地の発生を予防するための仕組み
- 所有者不明土地を円滑かつ適正に利用するための仕組み
法改正へ向けたより具体的な検討項目は、法務省HPで公開されている部会資料「民法・不動産登記法の改正に当たっての検討課題」に記載されており、その概要をまとめたものが末尾表である。検討項目の中には、相続登記申請の義務化や登記所が他の公的機関から死亡情報等を取得するための方策といった比較的法技術的な部類に属する項目や遺産分割の期間制限などの相続法関連項目のみならず、土地所有権の放棄、共有制度の見直し、相隣関係規定の見直しなど、土地所有権の範囲・制約という物権法の根幹に関係する改正も検討項目に含まれている点が注目に値する。
所有者不明土地の問題に関しては、2018年6月の政府の閣議決定により、制度改正の具体的方向性を2018年度中に提示した上で2020年までに必要な制度改正の実現を目指すという方針が決定されている[1]。
2018年6月には「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法」が成立し[2]、同特措法では公共事業における収用手続の合理化・円滑化のための土地収用法の特例や、地方公共団体の長等に財産管理人の選任申立権を与えるなどの民法の特則が定められた。
本部会との関係でも、本部会部会長に指名された山野目章夫早大大学院教授が座長を務めた「登記制度・土地所有権の在り方等に関する研究会」が2017年10月以降18回の会合を行い、2019年2月に「登記制度・土地所有権の在り方等に関する研究報告書~所有者不明土地問題の解決に向けて~」[3]を公表している。本部会での検討項目も、この研究報告書が基礎となるものと推測される。
本年7月から施行される相続法改正及び来年4月から施行される債権法改正に続き、この法制審議会民法・不動産登記法部会によって検討される項目は上記の通り物権法の根幹に関係する改正も視野に入れており、一連の動向は、基本法たる民法の改正があらゆる分野で進んでいることを示している。
所有者不明土地の円滑な利用を可能にするための法制度が整備されれば、これまで法的リスクから開発を断念せざるをえなかった土地に関して安心して事業を進めることが可能となる。本部会での議論の進展は、全ての企業、とりわけ不動産事業者及び金融事業者にとって歓迎すべきことといえる。期待と関心をもってその動向を注視したい。
1. 相続等による所有者不明土地の発生を予防するための仕組み | |
(1) 不動産登記情報の更新を図る方策 | |
相続登記の申請の義務化 | 義務履行のインセンティブや義務違反の制裁、相続以外の申請の取扱いについて要検討 |
登記所による不動産登記情報の更新を図る方策 | 登記所が他の公的機関から死亡情報を取得。どのような方法で最新の情報を把握するかについて要検討 |
(2) 所有者不明土地の発生を抑制する方策 | |
土地所有権の放棄 | 所有権放棄の要件・効果、放棄土地の帰属先機関と財政的負担、土地管理をしなくなるモラルハザード、建物や動産の所有権放棄との関係について要検討 |
遺産分割の促進 | 遺産分割に期間制限を設けることなど。期間をどの程度に設定するのか、期間経過の際の効果等について要検討 |
2. 所有者不明土地を円滑・適正に利用するための仕組み | |
(1) 共有制度の見直し | |
共有物の管理や共有物の変更・処分の規律の明確化 | 共有者の持分の過半数の同意を得れば可能な共有物の管理と、共有者全員の同意を得なければできない共有物の変更・処分とを区別することができるよう規律を明確化 |
共有者の同意取得方法に関する規律の整備 | 氏名等が不明である共有者がいる場合に、公告等をした上で、その余の共有者の同意を得ることによって共有物の利用を可能にするなどの規律の整備 |
共有物の管理をする者に関する規律の整備 | 共有物の管理に関する対外的な窓口となる共有物の管理をする者の整備 |
共有状態の解消を促進する制度 | 共有者の一部の者が、供託を活用して、所在不明の共有者から持分を取得することを含め、共有の解消を促進する制度を整備 |
(2) 財産管理制度の見直し | |
特定の財産を管理する制度 | 管理コスト低減の観点から、不在者等の特定の財産のみを管理する制度の整備 |
共通の財産管理人の選任 | 管理コスト低減の観点から、複数の不在者等について共通の財産管理人を選任できる制度を整備。利益相反の問題には要留意 |
財産管理制度の合理化 | 相続財産管理人制度において現行民法上要求されている3回の公告(最低10か月)の短縮化などの制度合理化 |
(3) 相隣関係規定の見直し | |
管理不全状態の除去 | 隣地所有者等が、管理不全土地の所有者に対して、管理不全状態の除去を請求することが出来ることを明確化するなどの整備。関連する他の請求権との関係等について要検討 |
越境した枝の切除 | 隣地が所有者不明土地である場合に、越境してきた隣地の竹木の枝の切除に関する権利行使方法の見直し。現行民法では土地所有者は竹木の所有者に枝を切除させることができるにすぎない |
隣地使用請求権 | 隣地使用請求権の範囲の明確化と行使方法の見直し。現行民法では土地の境界標等の調査や測量のための隣地使用権利に関する規定はなく、また、工事のための隣地使用について、隣地が所有者不明土地である場合には承諾が得られず対応困難 |
ライフラインと導管等設置権 | ライフラインの導管等を設置するために他人の土地を使用することができる制度の整備 |
※上表は、法制審議会の民法・不動産登記法部会資料「民法・不動産登記法の改正に当たっての検討課題」の内容に基づき筆者が作成
[1] 「所有者不明土地等対策の推進に関する基本方針」(平成30年6月1日所有者不明土地等対策の推進のための関係閣僚会議決定)、「経済財政運営と改革の基本方針2018」(平成30年6月15日閣議決定)
[2] 「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法」は平成30年6月6日に成立し、一部を除き同年11月15日に施行された(一部未施行部分についても、平成31年6月1日に施行される)。同特措法の法務省所管箇所(民法・不動産登記法)についての概要は本ポータルサイトのトピックス解説「SH2210 法務省、「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法について」を掲載 飯田浩司(2018/11/27)」ご参照。