◇SH1726◇横河電機、最高顧問・顧問制度の廃止を公表 伊藤広樹(2018/03/27)

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横河電機、最高顧問・顧問制度の廃止を公表

岩田合同法律事務所

弁護士 伊 藤 広 樹

 

 横河電機株式会社は、本年3月20日、取締役及び監査役の候補者の決定とともに、最高顧問及び顧問制度を廃止する旨を公表した。

 相談役・顧問制度については、近時、その適否が議論されており、同社のように制度を廃止する例も少なくない。また、昨年の定時株主総会では、相談役・顧問制度の廃止を求める株主提案(定款変更議案)がなされ、相当数の賛成票が投じられた例も複数見られた。本稿では、そのような実務動向を踏まえ、相談役・顧問制度に関する近時の議論を振り返りたい。

 

 我が国では、伝統的に、社長・会長経験者等が、退任後、相談役・顧問等の役職に就任するケースが見られる。このような相談役・顧問等の役職の具体的な権限・役割等については、法令上何らかの定めがあるものではないため、各社各様ではあるが、経営上重大な影響力を有する場合や、役員時代と同様の待遇が与えられる場合もある。にもかかわらず、相談役・顧問等については、取締役を兼務していない限り、株主・投資家からはその実態(権限・役割のみならず、報酬を含む。)が見えにくく、また、役員とは異なり、株主に対して法令上の責任を直接負うこともないという問題意識が示されている。

 また、近時は、コーポレート・ガバナンスの強化、更には企業価値の向上等の観点から、社外取締役の活用、特に、企業経営者である社外取締役の活用の有用性が指摘されているところ、社長・会長経験者等が相談役・顧問等として引き続き自社に残るという慣習は、他社での社外取締役のなり手を少なくしてしまうのではないかという問題意識も示されているところである。

 このような問題意識を背景に、例えば、議決権行使助言機関であるInstitutional Shareholder Services(ISS)は、その議決権行使助言方針において、相談役・顧問制度を新設する定款変更議案が提出された場合には、原則としてこれに反対を推奨する旨を定めている。なお、相談役・顧問等が取締役の役職の一つとして位置付けられている場合(例えば「取締役相談役」等)には、定款変更議案に反対を推奨しない旨を定めている。

 これに対して、経済産業省が平成29年3月31日に公表した「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針(CGSガイドライン)」では、「相談役・顧問の役割は、各社によって様々であり、社長・CEO経験者を相談役・顧問とすることが一律に良い・悪いというものではない」として、相談役・顧問制度自体に問題があるものではないとの立場を明らかにし、その上で、「社長・CEO経験者を相談役・顧問として会社に置く場合には、自主的に、社長・CEO経験者で相談役・顧問に就任している者の人数、役割、処遇等について外部に情報発信することは意義がある。産業界がこうした取組を積極的に行うことが期待される」として、相談役・顧問制度に関する情報発信の重要性が提言されている。

 このような実務動向を踏まえ、東京証券取引所では、平成29年8月に、「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」の記載要領を改訂し、相談役・顧問制度に関する記載(業務内容、勤務形態・条件(常勤・非常勤、報酬の有無等)等)を新設した。なお、当該項目の記載は、あくまでも任意であるが、先程述べたような近時の実務傾向を踏まえると、任意であることを理由に開示を見送った会社については、株主・投資家との対話に消極的であると捉えられ、市場においてネガティブな評価を受ける可能性が否定できないと考えられる。

 

 以上のとおり、相談役・顧問制度については、その存在が一概に否定されているものではないものの、一定の問題意識を背景として、実務的には株主・投資家に対してその実態を明らかにする方向での議論が進んでいる。かかる状況を踏まえると、相談役・顧問制度については、株主・投資家に対してその実態を明らかにしても「恥ずかしくない」ような、客観性・合理性を有する設計に見直すことが考えられよう。例えば、近時、相談役・顧問等が会社の経営に関与しないことを明らかにすべきであるとの見解が示されていることを踏まえ、その旨を相談役・顧問等との間の契約上明記することや、相談役・顧問等の就任のプロセスを客観的なものとする(例えば、トヨタ自動車株式会社のように、社外取締役が半数を占める機関(役員人事案策定会議)においてその適否が審査される等)こと等が考えられる。また、相談役・顧問等の報酬は、事実上、役員時代の報酬の後払い的な性質を有している場合もあるために、相談役・顧問制度の廃止が難しいとも指摘されている(勿論、そのような整理が会社法上の報酬規制との関係で問題があることは言うまでもない。)ことに鑑みると、相談役・顧問制度の廃止・見直し等にあたっては、役員報酬の制度設計の見直し等を併せて検討することも考えられる。

 

相談役・顧問制度に関する議論
【問題意識】

  1.  •  実態が見えにくい、株主に法令上の責任を直接負わない
  2.  •  他社での社外取締役のなり手を少なくしてしまう
     

【ISS議決権行使助言方針】

  1.  •  相談役・顧問制度を新設する定款変更議案には、原則として反対推奨
     

【コーポレート・ガバナンスに関する報告書】

  1.  •  相談役・顧問制度に関する実態の開示(任意)
     

【制度設計の見直し】

  1.  •  相談役・顧問等が会社の経営に関与しないことを契約上明記する
  2.  •  相談役・顧問等の就任のプロセスを客観的なものとする(社外取締役の関与等)
  3.  •  役員報酬の制度設計の見直し等を併せて検討することも考えられる

 

以 上

 

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