◇SH1819◇NTT持株会社、インターネット上の海賊版サイトに対するブロッキングの実施 堀田昂慈(2018/05/09)

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NTT持株会社、インターネット上の海賊版サイトに対するブロッキングの実施

岩田合同法律事務所

弁護士 堀 田 昂 慈

 

 平成30年4月23日、日本電信電話株式会社及びグループ3社(以下、4社を総称して「NTT」という。)は、海賊版3サイトに対するサイトブロッキング(以下「ブロッキング」という。)を行う旨のプレスリリース(以下「本リリース」という。)を公表した。

 ISP[1]による海賊版サイトのブロッキングについては既に様々な議論が交わされているところであるが、以下では、ブロッキングの違法性についての現在の議論状況を整理する。

 

1 ブロッキングの手法

 前提として、議論の対象となるブロッキングの手法としては、いわゆるDNS[2]ブロッキングが想定されていることを確認したい。DNSブロッキングとは、ユーザーがISPを通じてウェブサーバーへのアクセスを行う際に通常行われる名前解決のプロセス(ユーザー・ISPのDNSサーバー間のアドレス(名前)の入力・問合せ(①)及びIPアドレスへの変換・回答(②)から成るプロセス)に関し、ISP側で、特定のサイトのアドレス(名前)の入力・問合せ(①)に対しては、異なるIPアドレスを意図的に回答(②)することで目的のサイトへのアクセス制限(ブロック)を行うという手法である(下図参照)。DNSブロッキングの過程においては、ISPが、いかなるユーザーが当該海賊版サイトへのアクセスを求めているかに関する情報を収集することとなるため、当該情報収集過程を経ることが「通信の秘密」の侵害として違法ではないか、また(ブロッキングが違法となることを前提として)一定の場合にはブロッキングが許容されるのかという問題が浮上することとなる。

(知的財産戦略本部「インターネット上の海賊版対策に係る現状と論点等整理」6頁)

 

2 海賊版サイトのブロッキングの違法性に関する現在の議論状況

(1) 政府見解

 この点に関し、政府は、知的財産戦略本部・犯罪対策閣僚会議が平成30年4月にとりまとめた「インターネット上の海賊版サイトに対する緊急対策」において、DNSブロッキングは形式的には「通信の秘密」を侵害する可能性があるものの、「特に悪質な海賊版サイト」のブロッキングについて緊急避難(刑法37条)の3要件(現在の危難、補充性、法益権衡。以下「3要件」という。)を満たす場合には違法性が阻却されるとした上で、政府が指定した「特に悪質な海賊版サイト」[3]については、民間事業者が自主的な取組としてブロッキングを行うことが適切との見解を示した。

 NTTの本リリースにおける対応は、かかる政府見解に基づいたものである。

(2) 複数の団体による反論

 他方で、複数の団体[4]は、かかる政府見解に反対する立場で、海賊版サイトについては3要件を充足することはなく、ブロッキングは許されないとの見解を示している。

 

3 現在の議論状況を踏まえた今後の見通し

 以上のとおり、本論点については、政府見解とこれに反対する見解が対立している状況にある。

 もっとも、いずれの見解も、海賊版サイトのブロッキングが「通信の秘密」の侵害に該当することを仮定または前提としており、この点は主論点とされていない[5]

 また、現在の主論点である「緊急避難」の成否に関して言えば、3要件で構成されるべき点については争いがなく、海賊版サイトについて各要件を充足するか否かに関する評価の問題にすぎない。そして、かかる評価に関しては、政府見解も、政府が指定した「特に悪質な海賊版サイト」についてすら、3要件を充足することを明言せず、民間事業者による自主的な取組を求めるものに留まっている。そのため、ISPが実際にブロッキングを行った際に、当該行為が「緊急避難」に該当するか否かについては、事例ごとの判断とならざるを得ないと考えられる。

 今後、NTTが実際に海賊版サイトのブロッキングを実施するのであれば、ユーザーからの差止請求訴訟や損害賠償請求訴訟が提起される可能性もあり[6]、司法判断の動向も注視する必要がある。



[1] Internet Service Providerの略。

[2] Domain Name Systemの略。

[3] 漫画村、Anitube、MioMioの3サイトが指定された。

[4] 具体的には、一般社団法人情報法制研究所(JILIS)、一般社団法人インターネットコンテンツセーフティ協会、一般社団法人日本インターネットプロバイダー協会等が見解を公表している。

[5] なお、DNSブロッキングは、直接的にはISPがIPアドレスの問合せに応じないこととするのみであるから、「通信の秘密」を侵害しないとの見解も存在する。もっとも、かかる見解に対しては、名前解決のプロセスとその後の通信は一体として把握されるべきであり、かつ、利用者からISPに対して伝えられるアクセス先に関する情報が通信の秘密の保護の下にあることから、失当であるとの反論がなされている(JILISの平成30年4月11日付提言 Q&A(9頁))。

[6] 主婦連合会・全国地域婦人団体連絡協議会の平成30年4月25日付「NTTグループ『インターネット上の海賊版サイトに対するブロッキングの実施について』」においては、消費者団体訴訟の提起や刑事告発を行う可能性への言及がある。また、一部の弁護士による訴訟が既に提起されたとの報道もある。

 

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