◇SH0759◇個人情報保護委、改正個人情報保護法に対応する政令・規則案に関する意見募集 佐藤修二(2016/08/09)

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個人情報保護委、改正個人情報保護法に対応する政令・規則案に関する意見募集

岩田合同法律事務所

弁護士 佐 藤 修 二

 

 個人情報保護委員会は、2015年9月に成立した改正個人情報保護法(以下「改正法」という。)に対応する政令及び個人情報保護委員会規則の案(以下「政令・規則案」という。)を策定し、これをパブリックコメントに付した。改正法は、多くの事項を政令及び規則に委ねており、政令・規則案の公表が待たれていた。既にこのトピックス解説でも田中貴士弁護士が、個人識別符号に関する政令・規則案をご紹介したが、今回は、個人識別符号と並ぶ注目ポイントである「要配慮個人情報」に関する政令・規則案の内容をご紹介する。

 「要配慮個人情報」とは、人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴、犯罪により害を被った事実その他本人に対する不当な差別、偏見その他の不利益が生じないようにその取扱いに特に配慮を要するものとして政令で定める記述等が含まれる個人情報をいう(改正法2条3項)。これは、いわゆるセンシティブ情報としてプライバシー保護の観点から慎重な取扱いを要する個人情報を類型化する概念である。改正法は、この要配慮個人情報について、その取得には原則として本人の同意を得ることとするとともに(改正法17条2項)、オプトアウト手続による第三者提供を認めないこととしている(改正法23条2項)。ただ、具体的にいかなる情報が要配慮個人情報に該当するかは、政令に委ねられているため、政令・規則案の公表が待たれていた。

 改正法と政令・規則案によれば、要配慮個人情報の概念は、概要、以下の表のとおりに整理される(本稿冒頭記載のURLからリンクされた「個人識別符号及び要配慮個人情報の定義規定(案)一覧」を元に作成)。

法律 政令 規則 備考

この法律において「要配慮個人情報」とは、本人の人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴、犯罪により害を被った事実その他本人に対する不当な差別、偏見その他の不利益が生じないようにその取扱いに特に配慮を要するものとして政令で定める記述等が含まれる個人情報をいう。

要配慮個人情報に加えるものは、次に掲げる事項のいずれかを内容とする記述等を含む個人情報とする。

(ア)身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の個人情報保護委員会規則で定める心身の機能の障害があること。

(イ)本人に対して医師その他医療に関連する職務に従事する者により行われた健康診断その他の検査の結果

(ウ)健康診断その他の検査の結果に基づき、又は疾病、負傷その他の心身の変化を

理由として、本人に対して医師その他医療に関連する職務に従事する者により心身の状態の改善のための指導又は診療若しくは調剤が行われたこと。

(エ)本人を被疑者又は被告人として、逮捕、捜索、差押え、勾留、公訴の提起その他の刑事事件に関する手続が行われたこと。

(オ)本人を非行少年又はその疑いのある者として、調査、観護の措置、審判、保護処分その他の少年の保護事件に関する手続が行われたこと。

要配慮個人情報と位置付けられる心身の機能の障害は、次に掲げる障害とする。

(ア)身体障害者福祉法における身体上の障害

(イ)知的障害者福祉法における知的障害

(ウ)精神保健及び精神障害者福祉に関する法律における精神障害

(エ)治療方法が確立していない疾病等による障害の程度が厚生労働大臣が定める程度であるもの

「ゲノム情報」については、遺伝子検査を実施する者は「医師その他医療に関連する職務に従事する者」に含まれ、また、その結果は政令(イ)の「健康診断その他の検査の結果」及び政令(ウ)の「診療」にも含まれ、重ねて規定する必要はないことから、政令には明記されないこととしている。

 

 概括的に言えば、心身の障害、病歴、犯歴といった、一般にプライバシーとされる事項が盛り込まれたものと言えよう。備考において、いわゆるゲノム情報も要配慮個人情報に含まれるという理解が示されていることも、製薬事業等との関連で注目される。

 従前、個人情報保護法は、個人に関する情報であって特定の個人を識別し得るものを広く個人情報と定義して規制対象として来ており(改正前個人情報保護法2条1項)、この点は改正法においても変わらない。このように規制対象が広範であるだけに、ビジネスに悪影響を及ぼさないよう、本人の同意なき第三者提供禁止の例外として比較的緩やかにオプトアウトを認めるなど、ビジネスへの配慮の観点から過度に厳格なものとはならないような制度設計がなされていた。他方で、その結果、個人情報の中でもセンシティブ性の高いプライバシー情報について見れば、規制が緩やかに過ぎるという面も否めないところがあった。こうした点に鑑み、改正法は、いわゆるプライバシー情報については、「要配慮個人情報」という新たな概念を設けて、個人情報一般とは区別して、第三者提供に原則として本人の同意を要求し、オプトアウトの適用もしない、という形で規制を強化したものである。

 要配慮個人情報の点に限らず、改正法は、個人情報保護法成立以来、初めての大改正であり、ビジネスへの影響は少なくない。来年に予定される施行に向けて、企業としても、目が離せないところである。

 

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