◇SH2291◇下請等中小企業の取引条件改善のため、下請中小企業振興法第3条第1項に基づく「振興基準」を改正 角野 秀(2019/01/23)

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下請等中小企業の取引条件改善のため、
下請中小企業振興法第3条第1項に基づく「振興基準」を改正

岩田合同法律事務所

弁護士 角 野   秀

 

 経済産業省・中小企業庁は、今般、下請等中小企業の取引条件改善のために、下請中小企業振興法第3条第1項に基づく「振興基準」を改正した(平成30年12月28日公表)。

 

1. 改正の背景

 下請中小企業振興法(以下「下請振興法」という。)は、下請中小企業の経営基盤の強化を効率的に促進するための措置を講ずること等によって下請関係を改善し、下請関係にある中小企業者が自主的にその事業を運営できるようにすること等を目的とした法律である。同じく下請事業者を対象にした下請法が指導・規制法規であるのに対し、下請振興法は下請中小企業の支援法としての性格を有する法律であるといわれている。

 振興基準とは、下請中小企業の振興を図るため、下請事業者及び親事業者のよるべき一般的な基準として下請振興法第3条の規定に基づき、経済産業省告示で具体的内容が定められるものである。また、振興基準は、主務大臣(下請事業者、親事業者の事業を所管する大臣)が必要に応じて下請事業者及び親事業者に対して指導、助言を行う際に用いられるとされている。

 今般の振興基準の改正は、下請業者や各業界団体等に対する取引実態調査から把握された取引上の課題等をもとに、サプライチェーン全体での更なる取引適正化に向け、下請等中小企業の取引条件改善を目的に、望ましくない取引慣行の是正や、昨今話題となっている「働き方改革」への対応等を踏まえて実施されたものである。

 以下、本改正の概要を紹介する。

 

2. 改正の概要

(1) 契約条件の明確化と書面交付の徹底

 本改正では、「親事業者は発注内容が曖昧な契約とならないよう、下請事業者と十分な協議を行った上で、発注内容、納期、価格、型や冶具等の費用支払いや運送・保管費等の付随費用、支払手段・支払期日等の契約条件について、書面等による明示、交付を徹底する」旨が明記された。

(2) 下請代金の支払条件の改善

 下請代金の支払条件の改善に関し、本改正では、「親事業者は下請事業者の資金繰りについて関心を持つことに努める」とした上で、「大企業間の取引で支払条件が改善されない結果、下請中小企業への支払方法の改善が進まない事象がある場合、大企業は、率先して大企業間取引分の支払条件の見直し(手形等のサイト短縮や現金払い化等)などを進める」ことを求める旨が新たに加えられた。これは、大企業間取引での手形払いが改善されないことによるサプライチェーン全体の現金払いの不徹底との課題に対応したものである。

 また、型・治具業者に対する支払いに関して、「親事業者は、型・冶具の製造を委託し、それを受領した場合、受領日から起算して60日以内に全額を支払う」等の旨が定められた。そして、「親事業者が製品の製造を委託し、下請事業者が製造した型・冶具が他に納入されず、下請事業者のもとに留まる場合、親事業者が下請事業者と十分な協議を行った上、型・冶具の代金、その支払方法等を決定する」とし、「下請事業者が専ら親事業者に納品する製品の製造のためだけに使用される型・冶具の代金について一括払いを要望したときには、可能な限り速やかに支払うよう努める」旨が新設された。これは、型代金の支払いにおいて24~36月分割払いの取引慣行が存在するという望ましくない取引慣行の是正を図ったものである。

(3) 働き方改革の推進を阻害する取引慣行の改善

 働き方改革については、「親事業者は自らの取引に起因して、下請事業者が労使協定の限度を超える時間外労働や休日労働等による長時間労働、これらに伴う割増賃金の未払いなど労働基準関連法に違反することのないよう、十分に配慮する」と定めた上で、「親事業者は、やむを得ず、短納期又は追加の発注、急な使用変更などを行う場合には、下請事業者が支払うこととなる残業代等の増大コストを負担する」とした。さらに、「親事業者は下請事業者の働き方改革を阻害し、不利益となるような取引や要請を行わない」ことを求めた。これは、下請中小企業の「働き方改革」を阻害するような取引慣行が存在することに対応した改正である。

今般の「振興基準」改正のポイント
  1. 1. 契約条件の明確化と書面交付の徹底
    - 親事業者は発注内容が曖昧な契約とならないよう契約条件の明確化をすること
  2. 2. 下請代金の支払方法の改善
    - 大企業が率先して大企業間取引における手形払いの現金化等を進める
    - 親事業者が型を製造委託した場合、下請事業者に代金を60日以内に支払う
  3. 3.「働き方改革」の推進を阻害する取引慣行の改善
    - 親事業者は、下請事業者の働き方改革を阻害するような取引や要請をしないこと
    - 短納期・急な仕様変更等を行う場合、親事業者が適正なコスト負担をすること

 

3. 実務への影響

 下請振興法の振興基準は主務大臣が事業者に指導・助言を行う際の基準であり、違反した場合の行政処分や罰則などの規定はない。もっとも、中小企業庁では、今後本改正の内容について、親事業者、下請事業者及び業界団体に周知し、社内での周知徹底、業務規定やマニュアル等の点検・見直し等を要請していくとのことである。公取委による下請法違反に関する勧告・指導件数が近年増加傾向にあるのは周知の事実であるが、下請法及び関連諸規定が遵守されることを前提としつつ、他方で、下請振興法に基づく改正後の振興基準が周知徹底されることで、下請等中小企業の取引条件が改善され、中小企業振興の推進が図られることが期待される。

 

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