◇SH2318◇公取委、大阪瓦斯株式会社に対して優越的地位の濫用に関する警告 山田康平(2019/02/06)

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公取委、大阪瓦斯株式会社に対して優越的地位の濫用に関する警告

岩田合同法律事務所

弁護士 山 田 康 平

 

1. はじめに

 公正取引委員会は、大阪瓦斯株式会社(以下「大阪ガス」という。)に対し、平成31年1月24日、大阪ガスが、優越的地位の濫用(独占禁止法19条、2条9項5号ハ)の規制に違反するおそれがある行為を行っているとして、警告を行った。

 昨年11月21日にも岩手県産株式会社に対して優越的地位の濫用に関する警告が行われており、優越的地位の濫用に関する警告が続いていることから、その概要を紹介したい。

 

2. 優越的地位の濫用とは

 優越的地位の濫用とは、自己の取引上の地位が相手方に優越している事業者が、取引の相手方に対し、その地位を利用して、正常な商慣習に照らして不当に独占禁止法2条9項5号に定める行為を行うことをいう(独占禁止法2条9項5号)。すなわち、優越的地位の濫用に該当するか否かは、①優越的地位にあること、②その地位を利用して相手方に不利益を与える行為を行うこと(濫用行為)、③濫用行為が正常な商慣習に照らして不当であること(公正競争阻害性を持つこと)という3つの要件から判断される。

  1. ① 甲が取引先である乙に対して優越的地位にあるとは、乙にとって甲との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すため、甲が乙にとって著しく不利益な要請等を行っても、乙がこれを受け入れざるを得ないような場合を指す[1]
  2. ② 濫用行為の類型としては、次のものが挙げられる[2]

    1. (a) 継続して行われる取引の相手方に対して、その取引に係る商品又は役務以外の商品又は役務を購入させること(購入・利用強制)(独占禁止法2条9項5号イ)
    2. (b) 継続して行われる取引の相手方に対して、自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること(協賛金の収受、取引先の従業員等の不当使用等)(同号ロ)
    3. (c) 取引の相手方からの取引に係る商品の受領を拒むこと(受領拒否)、取引の相手方から取引に係る商品を受領した後その商品を取引の相手方に引き取らせること(不当な返品)、取引の相手方に対して取引の対価の支払を遅らせたり、その額を減じたりすること(支払遅延、不当な値引き)、その他取引の相手方に不利益となるように取引の条件を設定・変更したり、取引を実施すること(同号ハ)
  3. ③「正常な商慣習に照らして不当に」という要件は、公正な競争秩序の維持・促進の立場から是認されるかという観点から、個別の事案ごとに判断される[3]。例えば、次のような場合は、正常な商慣習に照らして不当であると認められやすい[4]

    1. (a) 多数の取引の相手方に対して組織的に不利益を与える場合
    2. (b) 特定の取引の相手方に対してしか不利益を与えていないときであっても、その不利益の程度が強い、又は、その行為を放置すれば他に波及するおそれがある場合

3. 大阪ガスの行為

 公正取引委員会は、大阪ガスについて、遅くとも平成25年4月以降、かねてから予約注文制度[5]によりサービスショップ[6]に販売している大阪ガスブランドのファンヒーターについて、自社の販売目標を基にサービスショップの店舗等ごとの年間の販売目標数量を設定し、当該販売目標数量から当該店舗等の期首在庫を差し引いた台数以上を注文するよう求めるなどして、サービスショップに対し、必要以上に自社から購入させている疑いがあるとして、大阪ガスに対して同様の行為を行わないよう警告した(下図参照)。

 すなわち、公正取引委員会は、年間の販売目標数量を設定し、その数量分の購入を強制する行為(必要以上に商品を購入させる行為)を優越的地位の濫用に当たるおそれがあると判断したことになる。

出典:公正取引委員会HP

 

4. まとめ

 大阪ガスの行為と類似の行為を行う可能性自体は、多くの事業者にあると思われる上、近時、優越的地位の濫用に関する警告が続いていることから、優越的地位の濫用について、再確認する契機となればと思い、本事例を紹介した次第である。

以 上



[1] 公正取引委員会「優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」(平成22年11月30日、平成29年6月16日改正)(以下「優越ガイドライン」という。)4頁。

[2] その詳細については、優越ガイドライン7~26頁等参照。

[3] 優越ガイドライン7頁。

[4] 公正取引委員会「優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方 ガイドブック」4頁。

[5] 「予約注文制度」とは、大阪ガスが、サービスショップに対し、特定のガス機器について、年度(毎年4月1日から翌年3月31日までの期間をいう。)の当初に自社に注文した数量を年内に引き取ることを義務付けている制度をいう。

[6] 「サービスショップ」とは、ガスの開閉栓等の大阪ガスからの委託業務の処理、大阪ガスブランドのガス機器等の販売等を行う、大阪ガスから「サービスショップ」として認定された事業者をいう。

 

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