◇SH1871◇不競法2条1項1号の主体混同惹起行為に該当しないとして原告の差止請求及び損害賠償請求を棄却した例 中村紗絵子(2018/05/30)

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不競法2条1項1号の主体混同惹起行為に該当しないとして原告の差止請求及び損害賠償請求を棄却した例

岩田合同法律事務所

弁護士 中 村 紗絵子

 

第1 事案及び争点の概要

 本件は、大手学習塾に通う生徒のために各塾のテストの解説のライブ配信や復習用教材の作成を行っている被告学習塾がホームページ上で行ったSAPIX 8月マンスリー」、「SAPIX生のための復習用教材」及び「SAPIX今週の戦略ポイントDaily Support」との各表示並びにインターネットで配信した動画上で行った「サピックスマンスリーテストLIVE速報解説」等の表示(以下「本件表示」という。)を付す行為が、需要者の間に広く認識された大手学習塾である原告の商品等表示を使用して需要者に混同を生じさせるものであり、不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項1号の不正競争に該当するとして、原告が本件表示の使用の差止めと損害賠償を求めた事案である。

 東京地裁平成30年5月11日(以下「本判決」という。)は、被告の当該行為は同号の不正競争に該当しないとして、原告の請求を棄却した(なお、原告が予備的に請求していた一般不法行為に基づく損害賠償についても自由競争の範囲を逸脱するものでないとして棄却した)。

 不競法は、自由競争の範囲を逸脱した競争を防止するため、一定の類型の行為を不正競争として列挙し、被害者に損害賠償請求権とともに差止請求権を付与している。このうち不競法2条1項1号は他人の商品等表示を使用するなどして他人の商品又は営業と混同させる行為を不正競争の一類型(主体混同惹起行為)として定めている。

 主体混同惹起行為(不競法2条1項1号)
  1. 一 他人の商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいう。以下同じ。)として需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似の商品等表示を使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供して、他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為

 

 本件では同号について、本件表示に接した需要者が、被告のサービスの主体が原告又は原告の子会社等であると誤認混同するおそれがあるかが問題となった(同号の「使用」の解釈についても争点になったがここでは割愛する)。

 

第2 判示

 本判決は、以下の事実等を挙げ、本件表示に接した需要者が、被告のサービスの主体が原告又は原告の子会社等であると誤認混同するおそれがあるとはいえないと判示した。

  1.  • 中学校受験のための学習塾の経営という点で原告と被告の営業内容に共通する点があるとしても、原告が大手学習塾であるのに対し、被告は大手学習塾の問題や教材の解説を主とする点でそのサービスの内容は相違していること
  1.  • 本件表示は商品等の出所を表示し、自他商品等を識別する機能を果たす態様で用いられているということはできないこと。また、本件表示に係る需要者である中学校受験を目指す生徒及び保護者は学習塾の授業やテストの提供主体に強い関心を有するのが一般的であること、並びに大手学習塾の問題や教材を補習するサービスを提供する学習塾は被告の他にも存在しており、保護者等もその存在を認識していたと考えられること
  1.  • 被告は原告以外の大手学習塾の問題等の解説も行っているから、被告学習塾の生徒の約半数が原告学習塾の生徒であることをもって被告の行うサービスの主体を誤認混同するおそれがあるということはできないこと
  1.  • 被告は保護者や生徒から任意に原告の実施する問題や教材の提供を受けて解説を行っていると理解するのが自然であり、原告の問題等が非売品であることから需要者が営業主体を誤認混同するとは考えられないこと

 

第3 評価及び影響

 不競法2条1項1号の「混同を生じさせる行為」については、判例上、自己と他人とを同一営業主体として誤信させる行為(狭義の混同惹起行為)のみならず、両者間にいわゆる親会社、子会社の関係や系列関係などの緊密な営業上の関係又は同一の表示の商品化事業を営むグループに属する関係が存すると誤信させる行為(広義の混同惹起行為)を含むと解されている(最判平成10年9月10日民集189号857頁〔スナックシャネル事件〕)。

 本判決は地裁判決ではあるが、需要者が被告のサービスの主体が原告又は原告の子会社等であると誤認混同するおそれがあるかについて様々な観点から判示しており、事実認定について参考になると考えられる。

 

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