◇SH2534◇金融庁、コーポレートガバナンス改革の更なる推進に向けた検討の方向性を公表 伊藤広樹(2019/05/15)

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金融庁、コーポレートガバナンス改革の更なる推進に向けた検討の方向性
(「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」意見書(4))を公表

岩田合同法律事務所

弁護士 伊 藤 広 樹

 

 金融庁は、2019年4月24日、「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」(座長:池尾和人立正大学経済学部教授)(以下「フォローアップ会議」という。)が取り纏めた、コーポレートガバナンス改革の更なる推進に向けた検討の方向性(「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」意見書(4))(以下「本意見書」という。)を公表した。

 フォローアップ会議は、スチュワードシップ・コード(以下「SSコード」という。)及びコーポレートガバナンス・コード(以下「CGコード」という。)の普及・定着状況をフォローアップするとともに、上場企業全体のコーポレートガバナンスの更なる充実に向けて、必要な施策を議論・提言することを目的として設置されたものであり、これまでも3度に亘り意見書を取り纏めた他、CGコードの改訂や「投資家と企業の対話ガイドライン」の策定を提言する等している。

 そして、今般、フォローアップ会議は、今後の更なるガバナンス改革の実効性向上を働きかけるとともに、SSコードの改訂等を見据えた当面の課題に関する検討の方向性を示すものとして、本意見書を取り纏めている。その概要は以下のとおりである。

 

Ⅰ. スチュワードシップ

1.  運用機関

 現在、多くの運用機関が個別の議決権行使結果等を公表しているものの、議決権行使に係る賛否の理由を公表する機関は限られていること等から、運用機関は、議決権行使の結果のみに留まらず、それに至るまでの企業との対話活動についての説明や情報提供を充実させるべきである等の指摘がされている。

 このような指摘を踏まえて、本意見書では、アセットオーナーへの説明責任を果たすとともに企業との相互理解を深める観点から、個別の議決権行使に係る賛否の理由や、企業との対話活動及びその結果やSSコードの各原則の実施状況の自己評価等に関する説明や情報提供の充実を運用機関に促すことが重要であると述べられている。

 

2.  企業年金等のアセットオーナー

 インベストメント・チェーンの機能発揮を促すため、運用機関に対して働きかけやモニタリングを行うアセットオーナーの役割が極めて重要であるものの、依然として、SSコードの受入れを行う企業年金は少数に留まっており、その背景として、企業年金の意義や責任に関する認識不足からスチュワードシップ活動の範囲や程度が十分に理解されていない等の指摘がされている。

 このような指摘を踏まえて、本意見書では、経済界を始めとする幅広いステークホルダーとも連携しながら、企業年金のスチュワードシップ活動を後押しするための取組みを推進することが重要であると述べられている。

 

3.  サービスプロバイダー

 (1) 議決権行使助言会社

 多くの運用機関が議決権行使助言会社を利用している実態を踏まえると、今日における議決権行使助言会社の役割の重要性は論じるまでもない。そのような役割等も踏まえ、本意見書では、議決権行使助言会社において、十分かつ適切な人的・組織的体制の整備と、それを含む助言策定プロセスの具体的な公表が行われること等が期待されると述べられているとともに、運用機関についても、議決権行使助言会社の活用の状況について、利用する議決権行使助言会社名や運用機関における助言内容の確認の体制、具体的な活用方法等に関する説明や情報提供を促すことが重要であると述べられている。

 (2) 運用コンサルタント

 運用コンサルタントについては、コンサルタント業務と併せて自らの投資商品の購入の勧誘を行う例も見られる等の指摘がされており、そのような指摘を踏まえて、本意見書では、運用コンサルタントが、自らの利益相反管理体制の整備やその取組状況についての説明等を行い、こうした取組みを通じて、インベストメント・チェーン全体の機能向上を図ることが重要であると述べられている。

 

Ⅱ. コーポレートガバナンス

1.  監査に対する信頼性の確保

 いわゆる三様監査の一翼を担う内部監査部門については、CEO等のみの指揮命令下に置かれているケースが大半を占め、経営陣幹部による不正事案等が発生した際に独立した機能が十分に発揮されていない等の指摘がされている。

 このような指摘を踏まえて、本意見書では、内部監査が一定の独立性をもって有効に機能するよう、独立社外取締役を含む取締役会・監査委員会や監査役会等に対しても直接報告が行われる仕組みの確立を促すことが重要であると述べられている。

 

2.  グループガバナンスの在り方

 我が国のグループ経営については、いわゆる上場子会社等においては支配株主等と一般株主との間に構造的な利益相反リスクがあるため、取締役会の独立性を高める必要があること等が指摘されており、上場子会社等のガバナンス体制の厳格化についても近時議論が進められている。

 本意見書では、このような議論も踏まえながら、一般株主保護等の観点からグループガバナンスの在り方に関する検討を進めると述べられている。

フォローアップ会議・意見書(4)のポイント

【スチュワードシップ】

  1. ▷ 運用機関
  2.   個別の議決権行使に係る賛否の理由や、企業との対話活動及びその結果やSSコードの各原則の実施状況の自己評価等に関する説明や情報提供の充実を運用機関に促すことが重要である。
     
  3. ▷ 企業年金等のアセットオーナー
  4.   企業年金のスチュワードシップ活動を後押しするための取組みを推進することが重要である。
     
  5. ▷ サービスプロバイダー
  6.   議決権行使助言会社:議決権行使助言会社において、十分かつ適切な人的・組織的体制の整備と、それを含む助言策定プロセスの具体的な公表が行われること等が期待される。運用機関についても、議決権行使助言会社の活用の状況について、利用する議決権行使助言会社名や運用機関における助言内容の確認の体制、具体的な活用方法等に関する説明や情報提供を促すことが重要である。
     運用コンサルタント:運用コンサルタントが、自らの利益相反管理体制の整備やその取組状況についての説明等を行い、こうした取組みを通じて、インベストメント・チェーン全体の機能向上を図ることが重要である。
     

【コーポレートガバナンス】

  1. ▷ 監査に対する信頼性の確保
  2.   内部監査につき独立社外取締役を含む取締役会・監査委員会や監査役会等に対しても直接報告が行われる仕組みの確立を促すことが重要である。
     
  3. ▷ グループガバナンスの在り方
  4.   一般株主保護等の観点からグループガバナンスの在り方に関する検討を進める。
     

以 上

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