監査役協会、報告書「監査等委員会監査の実態と今後の在り方について
―重要な業務執行の決定の取締役への委任が監査に与える
影響と組織監査に関する考察を中心に―」を公表
岩田合同法律事務所
弁護士 深 津 春 乃
1 はじめに
監査役協会において設置された、監査等委員会実務研究会(以下「本研究会」という。)は、令和元年11月26日、監査等委員会監査の実態に関する研究結果をとりまとめた報告書(以下「本報告書」という。)を公表した。
本報告書は、監査等委員会制度の導入から4年が経過したことを受けて、監査等委員会の実務の参考となる好事例を見出すべく、監査等委員を対象としたアンケートを通じて監査等委員会設置会社の実務実態を検証し、整理したものである。
上記の検証及び整理は、①「重要な業務執行の決定の取締役への委任が監査等委員会の監査に与える影響について」と、②「モニタリング・モデルを志向している監査等委員会による実務実態の把握と、モニタリング・モデルを機能させるための要件について」の二つの側面に注目して行われた。以下では、それぞれの側面について、本研究会の問題意識及び検討結果の概要を説明する。
2 重要な業務執行の決定の取締役への委任が監査等委員会の監査に与える影響について
⑴ 問題意識
監査等委員会設置会社においては、取締役会は、原則として重要な業務執行の決定を取締役に委任することができないが(会社法399条の13第4項)、①取締役の過半数が社外取締役である場合、又は、②定款においてその旨を定めた場合には、取締役会の決議によって、重要な業務執行の全部又は一部を取締役に委任することができる(同条5項・6項)。
そこで、本研究会においては、取締役に対する重要な業務執行の委任が実務上どの程度行われているか、及び、当該委任が監査等委員会の監査方法に与える影響についての調査が行われた。
⑵ 調査結果
上記①の要件を充足している会社は全体の31.7%で、そのうち、実際に委任を行っている会社は14.5%であった。一方、上記②の要件を充足している会社は、全体の8割程度に上っているが、実際に委任を行っている会社は全体の3割程度であった。
また、委任をしている会社のうち、半数以上の会社では、委任を行ったことを契機として、取締役会以外の会議への出席や取締役へのヒアリング等の情報収集活動を新たに実施、又は頻度を増やすようになったとのことであった。
3 モニタリング・モデルを志向している監査等委員会による実務実態の把握と、モニタリング・モデルを機能させるための要件
⑴ 問題意識
監査等委員会設置会社においては、監査の職務権限は、基本的には監査等委員会に帰属することとされ、常勤の監査等委員の選定も義務付けられておらず、監査等委員会設置会社は、監査を監督の一部として捉え、取締役会の中に設置する委員会が、内部監査部門等により行われる監査をモニターするという、いわゆる組織監査を想定して設置された機関設計であるといえる。
本研究会においては、監査等委員会の監査に組織監査がどの程度行われているのかについて調査が行われ、その上で、実効性の高い監査活動が行われるために必要な事項の考察が行われた。
⑵ 調査結果
常勤の監査等委員を設置している会社が大半で、常勤者を設置していない会社は5.2%であった。常勤者を設置している場合には、常勤者が選定監査等委員として直接監査を行い、その結果を非常勤者に報告するという会社が大半であり、監査等委員会における直接監査とそれ以外の部署による結果報告の使い分けを行っている会社は少数にとどまっていた。また、常勤者を設置していない会社であっても、半数以上の会社において、常勤には達しないものの非常勤者の一部若しくは全員が相当程度の時間を職務に割いているとのことであった。
他方で、監査等委員会の監査を支える周辺体制に関しては、監査等委員会の職務を補助するスタッフは、平均2名弱であってモニタリング・モデルを支えるには十分とは言い難い状況にあり、内部監査部門も、監査等委員会と組織上紐づけられているケースは少数派で、78.1%の会社において社長直属の部門となっているとのことであり、従来の監査役(会)設置会社との比較において全体的に大きな変化は見られなかった。
なお、本報告書においては、直接監査と結果報告の使い分けにおいて実務の参考となり得る事例のうち監査結果の報告を受ける場合の例として、以下が紹介されている(本報告書より抜粋)。
会議出席 |
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報告聴取 |
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書類閲覧 |
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実地調査 |
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4 おわりに
本研究会による調査により、監査等委員会設置会社の導入による新たな実務運用の積極的な活用に取り組んでいるケースは、現状において多くはないとみられることが明らかになった。本報告書においては、本稿において紹介した以外にも、参考となり得る具体的な運用事例が収録されていることから、監査等委員会設置会社の運用について検討する際には参考になると思われる。