◇SH2648◇経済協力開発機構(OECD)、「OECDコーポレートガバナンスファクトブック2019」を公表 池田美奈子(2019/07/04)

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経済協力開発機構(OECD)、
「OECDコーポレートガバナンスファクトブック2019」を公表

岩田合同法律事務所

弁護士 池 田 美奈子

 

 令和元年6月11日、経済協力開発機構(OECD)により「OECDコーポレートガバナンスファクトブック2019」[1]が公表された。世界の49の法域におけるコーポレートガバナンスに係る制度的枠組みや法制度に関する情報が纏められており、政府や規制当局のみならず、民間企業にとっても参考になる内容となっている。

 当該ファクトブックが発表された金融庁・OECDの共催セミナーの開会挨拶において、OECD事務総長は、国際的にコーポレートガバナンスが向上している旨紹介しつつ、引き続き改善の余地のある分野の一つとして管理職において女性が占める割合を取り上げており[2]、ダイバーシティ・マネジメントが国際的に注目されていることが再確認された。

 

 日本国内におけるダイバーシティ推進の取組としては、平成27年に成立した女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(以下「女性活躍推進法」という。)が挙げられる[3]ところ、令和元年5月29日、女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律(以下「改正法」という。)が成立し、女性の職業生活における活躍を更に推し進めるべく女性活躍推進法が改正された。そこで、以下、当該改正の概要について解説することとしたい。

  1. ⑴ 一般事業主行動計画の策定義務及び情報公表義務の対象拡大
  2.    現行の女性活躍推進法(以下「現行法」という。)においては、常時雇用する労働者が300人を超える一般事業主に対して、一般事業主行動計画(一般事業主が実施する女性の就業生活における活躍の推進に関する取組に関する計画をいう。)の策定・届出・公表[4]等の義務(現行法第8条1項、5項)、及び女性の職業生活における活躍に関する情報の公表義務(現行法第16条1項)が課されているが、今次改正により、当該義務の対象が、常時雇用する労働者が100人を超える一般事業主に拡大された(改正後の女性活躍推進法(以下「新法」という。)第8条1項、5項、同20条2項)。
     
  3. ⑵ 女性活躍に関する情報公表の強化
  4.    現行法においては、常時雇用する労働者が300人を超える一般事業主は、女性の職業選択に資するよう、女性の活躍に関する情報として厚生労働省令で定められた14項目から当該事業主が適切と認める1項目以上を公表しなければならないとされている(現行法第16条1項、女性の職業生活における活躍の推進に関する法律に基づく一般事業主行動計画等に関する省令(以下「本省令」という。)第19条1項)。今次改正では、女性の活躍に関する情報を①職業生活に関する機会の提供に関する実績、及び②職業生活と家庭生活との両立に資する雇用環境の整備に関する実績の2つに分け、常時雇用する労働者が300人を超える一般事業主に対しては、上記の各区分から任意の1項目以上を(新法第20条1項各号)、常時雇用する労働者が101人以上300人以下の一般事業者に対しては、上記の各区分の少なくともいずれか一方から任意の1項目以上を(同条2項)公表する義務が課されることとなった。
  5.    女性活躍情報に関する区分は、今後、厚生労働省令の改正により明らかにされるが、本省令第19条1項各号で定められている現行の14項目を以下のとおり区分けする予定とのことである[5]
① 職業生活に関する機会の提供 ② 職業生活と家庭生活との両立に資する
雇用環境の整備
  1. ・ 採用した労働者に占める女性労働者の割合
  2. ・ 男女別の採用における競争倍率
  3. ・ 労働者に占める女性労働者の割合
  4. ・ 管理職に占める女性労働者の割合
  5. ・ 係長級にある者に占める女性労働者の割合
  6. ・ 役員に占める女性の割合
  7. ・ 男女別の職種又は雇用形態の転換実績
  8. ・ 男女別の再雇用又は中途採用の実績
  1. ・ 男女の平均継続勤務年数の差異
  2. ・ 10事業年度前及びその前後の事業年度に採用された労働者の男女別の継続雇用割合
  3. ・ 男女別の育児休業取得率
  4. ・ 労働者の一月当たりの平均残業時間
  5. ・ 雇用管理区分ごとの労働者の一月当たりの平均残業時間
  6. ・ 有給休暇取得率
  1. ⑶ 特例認定制度の創設
  2.    改正法においては、現行法上の認定制度(えるぼし認定。現行法第9条)に加え、女性の活躍推進に関する取組の実施状況が特に優良な認定一般事業主に対する、より水準の高い厚生労働大臣の認定(プラチナえるぼし(仮称))制度が創設された(新法第12条)。かかる特例認定一般事業者は、えるぼし認定と同様、商品や広告等に特例認定マークを付することができ(同14条1項)、企業イメージの更なる向上というメリットを享受できる一方、毎年少なくとも1回、女性の活躍推進に関する取組の実施状況の公表義務が課されている(同13条2項)。

 

 今次改正に対応するため、各企業においては施行日[6]までに一般事業主行動計画の策定や公表すべき情報に関する社内調査等準備を進める必要がある。一方、投資家や顧客、求職者のグローバル化が進み、ESG投資が注目されている近年においては、女性活躍推進をはじめとするCSRもグローバルな視点・基準で検討・対応していく必要があろう。そのためには、日本の法制度への遵守のみならず、世界各国の法制度・取組状況を把握することも肝要と思われる。



[4] 一般事業主行動計画や女性活躍情報の公表は、厚生労働省が運営するデータベース(http://positive-ryouritsu.mhlw.go.jp/positivedb/)を用いることもできる。

[5] 厚生労働省都道府県労働局雇用環境・均等部(室)の公表情報。

[6] 改正法の施行日は、公布の日(令和元年6月5日)から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日とされているが(改正法第6条1項柱書)、一般事業主行動計画の策定義務及び情報公表義務の対象拡大に関する事項については、公布の日から起算して3年を超えない範囲内において政令で定める日とされており(同条項2号)、猶予が与えられている。

 

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