◇SH1482◇厚生労働省、職場におけるハラスメント対策マニュアル及び社内研修資料を公表 工藤良平(2017/11/08)

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厚生労働省、職場におけるハラスメント対策マニュアル及び社内研修資料を公表

岩田合同法律事務所

弁護士 工 藤 良 平

 

 厚生労働省は、平成29年10月24日、職場におけるハラスメント対策マニュアル及び社内研修資料(以下「本資料」という)を公開した。

 本資料においては、平成29年1月に男女雇用機会均等法及び育児・介護休業法が改正され、新たに妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントの防止措置を講じることが事業者に義務付けられることとなったという背景事情を踏まえ、事業主向けに、妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント防止措置の進め方のマニュアル、社内規程類のサンプル、社内研修用説明資料、実際にハラスメント事案が発生した場合の対処方法等がまとめられている。

 本資料では、法改正前から禁止されてきた事業主による妊娠・出産・育児休業・介護休業等を理由とする「不利益取扱い」(男女雇用機会均等法第9条第3項、育児・介護休業法第10条)と、改正法によって新たに防止措置が義務付けられることになった、上司・同僚からの妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関する言動によって労働者の就業環境が害される「ハラスメント」(男女雇用機会均等法第11条の2、育児・介護休業法第25条)の概念が、明確に区別して整理されている。

 法令上、事業主が防止措置を講ずべき「ハラスメント」に関しては、ハラスメントの類型ごとに、複数の異なる行政ガイドラインにおいて、雇用管理上講ずべき措置に関する指針が定められており、実際に企業でどのような措置を行えば良いのか、一覧的に把握することが必ずしも容易とは言い難い状況にある。本資料では、「妊娠・出産等に関するハラスメント(男女雇用機会均等法に基づくもの)」、「妊娠・出産等に関するハラスメント(育児・介護休業法に基づくもの)」や「セクシュアルハラスメント」など、事業主が防止措置を講ずべき複数のハラスメントの類型について、一覧的かつ横断的に、「事業主の方針の明確化及びその周知・啓発」、「相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備」、「職場におけるハラスメントへの事後のかつ適切な対応」、「職場における妊娠・出産等に関するハラスメントの原因や背景となる要因を解消するための措置」及び「併せて講ずべき措置」という各観点から、11項目の事業者の講ずべき防止措置がまとめられている。

 なお、事業者が講ずべき防止措置に係る義務に違反した場合、法令上、刑事罰は定められていないものの、厚生労働大臣は、違反事業主に対する行政指導及び勧告に加え、勧告に従わなかった場合はその企業名等を公表することができるものとされている。厚生労働省が法令違反を理由に公表した企業名等に関しては、SNSやインターネットを用いて広く拡散・共有された場合に発生するレピュテーション上のリスクが看過し難いものとなり得るという状況を踏まえ、各企業においては、本資料等を参考にしつつ、法令上求められている防止措置を進めていく必要があろう。

以上

 

【参考】本資料に例示されている妊娠・出産等に関するハラスメント事例(社内研修資料4頁より引用)
  1. 上司に妊娠を報告したところ、「次回の契約更新はないと思え」と言われた。
  2. 産休の取得について上司に相談したところ、「他の人を雇うので早めに辞めてもらうしかない」と言われた。
  3. 育児休業の取得について上司に相談したところ、「男のくせに育児休業をとるなんてあり得ない」と言われ、取得をあきらめざるを得ない状況になっている。
  4. 妊婦健診のために休暇を取得したいと上司に相談したら、「病院は休みの日に行くものだ」と相手にしてもらえなかった。
  5. 上司から「妊婦はいつ休むかわからないから、仕事は任せられない」と雑用ばかりさせられている。
  6. 同僚から「こんな忙しい時期に妊娠するなんて信じられない」と繰り返し言われ、精神的に落ち込み業務に支障が出ている。

 

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