◇SH2720◇金融庁、金融審議会 金融制度スタディ・グループ 「『決済』法制及び金融サービス仲介法制に係る制度整備についての報告≪基本的な考え方≫」の公表 武藤雄木(2019/08/09)

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金融庁、金融審議会 金融制度スタディ・グループ
「『決済』法制及び金融サービス仲介法制に係る制度整備についての報告
≪基本的な考え方≫」の公表

岩田合同法律事務所

弁護士 武 藤 雄 木

 

1 金融制度スタディ・グループによる審議経過と本報告の位置付け

 金融審議会「金融制度スタディ・グループ」(以下「金融制度SG」という。)[1]は、2019年7月26日、「『決済』法制及び金融サービス仲介法制に係る制度整備についての報告≪基本的な考え方≫」(以下「本報告」という。)を公表した。

 本報告の公表に先立ち、金融制度SGは、機能別・横断的な金融規制体系の整備にあたっての基本的な考え方などについて審議し、2018年6月19日、金融「機能」の分類や各「機能」において達成されるべき利益等をまとめた「中間整理-機能別・横断的な金融規制体系に向けて」(以下「中間整理」という。)[2]を公表している。

 その後、金融制度SGは、「中間整理」を踏まえつつ、①情報の適切な利活用、②決済の横断法制、③プラットフォーマーへの対応[3]、④銀行・銀行グループに対する規制の見直しについて更なる審議を行ってきたところ、本報告は、上記②及び③との関連でこれまでの審議結果をとりまとめたものである[4]

 

2 本報告の概要

 本報告の対象は多岐に亘るが、大きく、(ⅰ)「決済」[5]法制(上記②に対応)と(ⅱ)金融サービス仲介法制(上記③に対応)に係る事項に区分される。

 この点、本報告は、「決済」法制との関係では、一定金額以下[6]の為替取引を資金移動業者が取り扱うことを認めた資金決済法制定後のこれまでの実態を踏まえた検討として、①資金移動業に対する規制の見直し、②「第三者型」かつ「IC型」・「サーバ型」の前払式支払手段に対する規制の見直し及び③同法制定時に「将来の課題」[7]とされた論点について金融制度SGによる基本的な考え方が示されている。また、キャッシュレス化の更なる推進のため、利便性の高い、安心・安全な送金サービスの実現という観点から、①利用者トラブルへの対応及び②ポストペイサービス[8]に対する規制の在り方に関しても基本的な考え方がまとめられている。

 他方、本報告は、金融サービス仲介法制との関係では、イノベーションを促進し、利便性のより高い金融仲介サービスを実現していく観点から、多種多様な商品・サービスをワンストップで提供する仲介業者に適した制度について検討を進めていくことが重要であるとして、①参入規制の一本化等、②金融機関への所属制の在り方及び③仲介業者のインセンティブについてそれぞれ留意点を挙げている。

 以下では、近時、金融庁が「少額限定」など資金規模に応じた3つの区分を設ける方針である旨の報道[9]がなされるなど一般に関心が高いと思われる資金移動業について、その送金額に応じた規制に関して示された基本的な考え方を概説する。

 

3 資金移動業の送金額に応じた規制

 本報告は、資金移動業に関する現状認識として、個人による高額商品・サービスの購入や企業間の高額取引に係る決済など、上限額を超える送金に対する利用者のニーズが一定程度存在する一方で、実態として、資金移動業者が取り扱っている送金の額は、件数ベースでは1件当たり数千円以下に集中しているという事実を挙げている。これらの現状を踏まえて、本報告では、上限額を超える送金に係るニーズに対応するため、資金移動業に上限額を超える「高額」送金を取り扱うことができる新類型を設けることを検討する一方で、送金に伴うリスクが相対的に小さい数千円又は数万円の「少額」の送金のみを取り扱う資金移動業者については規制を緩和する方向で検討する旨が明らかにされている。なお、現行規制を前提に今後も事業を行おうとする事業者に対する規制は、現行の枠組みを基本的に変えないことが適当であるとされている。

 本報告は、かかる整理の下で、送金額に応じた3つの類型について、大要、それぞれ以下のように規制を検討していくことが必要であるとする。

事業者の類型 今後の規制の在り方
第1類型:「高額」送金を取り扱う事業者
  1. ▷ 利用者資金の滞留についての制限
  2.  「高額」送金に際して資金が滞留することによる利用者保護等の観点からのリスクに鑑みて、具体的な送金指示を伴わない資金は受入不可とする、運用・技術上必要とされる期間を超えて資金を保持しないなどの制限を設けることが適当
     
  3. ▷ 重点的な検査・監督等
  4.   送金の履行を確保することの重要性が高まることから、特にシステムリスクを含むオペレーショナルリスクの管理についてより重点的な検査・監督が必要
第2類型:現行規制を前提に事業を行う事業者
  1. ▷ 現行の枠組みを基本的に変えないことが適当であるが、事業者に資金が滞留することによるリスクを低減する観点から何らかの制限を設けることについて検討が必要
第3類型:「少額」送金を取り扱う事業者
  1. ▷ 規制緩和を今後検討していくに際しても、事業者に資金が滞留することによるリスクを考慮することが必要

 

4 「決済」ビジネスに携わる事業者への影響

 本報告では、送金に係るリスクに応じた資金決済法上の規制緩和の方向性を示す一方で、資金移動業による送金と類似する前払式支払手段(「第三者型」かつ「IC型」・「サーバ型」)については、より厳格な利用者資金の保全を求める資金移動業に対する規制を踏まえた見直しを示唆するなど、「決済」に係る機能・リスクに応じた横断的な規制が必要であるという姿勢が明確に示されている。

 スマートフォンなどを用いた「決済」手段・サービスの提供を既に行っている事業者はもとより、新たにサービスの提供を開始する事業者においても、本報告を踏まえた、「決済」の機能・リスクに応じた規制に向けた法改正の行方が自社のビジネスに如何なる影響を及ぼすものであるか注視していく必要があると思われる。

以上



[1] 金融制度SGは、2017年11月、金融担当大臣による「機能別・横断的な金融規制の整備等、情報技術の進展その他の我が国の金融を取り巻く環境変化を踏まえた金融制度の在り方について検討を行うこと」との諮問を受けて設置されたものである。

[2] 中間整理は、金融の「機能」として、①決済、②資金供与、③資産運用、④リスク移転の4つに分類している(https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20180619.html)。

[3] 金融制度SGは、プラットフォーマーを、①一般利用者・金融機関間介在型(一般利用者と金融機関との間に介在し、多種多様な金融商品・サービスをワンストップで提供する主体)、②一般利用者・一般利用者間介在型(一般利用者と一般利用者との間に介在し、資金の融通や金融取引を成立させたり、そのための仕組みを提供したりする主体)の2つに類型化したうえで、上記①を審議の対象としている。

[4] 金融制度SGは、上記①や④との関連では、2019年1月16日、「金融機関による情報の利活用に係る制度整備についての報告」を公表している。https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20190116.html

[5] 本報告における「決済」とは、中間整理と同様、決済サービス提供者を介して、直接現金を輸送せずに、意図する額の資金を意図する先に移動すること、及び/又は、決済サービス提供者を介して、債権債務関係を解消することをいう。

[6] 政令(資金決済に関する法律施行令(平成22年政令第19号)第2条)において「百万円に相当する額以下」と定められている。

[7] 具体的には、収納代行・代金引換等と資金移動業との関係、ポイント・サービスに関する制度整備の要否などについての考え方が示されている。

[8] 本報告にいうポストペイサービスとは、一定期間の送金サービス利用代金をまとめて支払うことを可能とするサービスをいう。

[9] 「『少額限定』の送金業者 金融庁規制緩和で新設検討」(2019年3月5日付日本経済新聞朝刊7面)

 

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