◇SH2777◇経産省、「新時代の株主総会プロセスの在り方研究会」と「さらなる対話型株主総会プロセスに向けた中長期課題に関する勉強会とりまとめ(案)」に対する意見募集結果の解説 鈴木智弘(2019/09/13)

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経産省、「新時代の株主総会プロセスの在り方研究会」と
「さらなる対話型株主総会プロセスに向けた中長期課題に関する
勉強会とりまとめ(案)」に対する意見募集結果の解説

岩田合同法律事務所

弁護士 鈴 木 智 弘

 

 2019年8月26日に、経済産業省が新たに設置した「新時代の株主総会プロセスの在り方研究会」(以下「本研究会」という。)の第1回が開催された。本研究会の背景・趣旨や主な検討事項とともに、本研究会の開催資料としてあわせて公表された「さらなる対話型株主総会プロセスに向けた中長期課題に関する勉強会とりまとめ(案)」(以下「とりまとめ案」という。)に対する意見募集の結果を解説する。

 

1 本研究会の背景・趣旨や主な検討事項

 2018年9月に、株主総会当日の在り方について議論を深めるために「さらなる対話型株主総会プロセスに向けた中長期課題に関する勉強会」が設置され、「ハイブリッド型バーチャル株主総会」(物理的な場所において開催される株主総会に加えて、その場に在所しない株主が、インターネット等の手段を用いて審議等を確認・傍聴又は株主総会に出席することができる株主総会をいう。)を題材として、株主総会当日の会議体としての側面について議論を深めるとともに、その法的・実務的論点を整理した結果が、本年5月にとりまとめ案として公表された。

 また、本年6月に閣議決定された「成長戦略フォローアップ」においても、新たに講ずべき具体的な施策として、グローバルな観点から最も望ましい対話環境の整備を図るべく、株主総会当日の新たな電子的手段の活用の在り方の検討が盛り込まれた(https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2019/09/fu2019.pdf)。

 これらを受けて、株主総会当日の新たな電子的手段の活用の在り方及び近年の内外の制度整備や実務の積み重ねを踏まえたさらなる対話のための環境整備等について検討する本研究会が設置された。

 本研究会の主な検討事項は以下のとおりである。

経済産業省HPより)

 

2 とりまとめ案に対する意見募集の結果

 上記の本研究会の主な検討事項のうち、「①ハイブリッド型バーチャル総会」において「とりまとめ案に頂いた意見」を踏まえ、議論を深めたうえで「ハイブリッド型バーチャル株主総会実施のガイド」として公表することが示唆されている。

 そこで、本年5月に公表されたとりまとめ案に対する意見募集の結果の一部を紹介する。(https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2019/09/001_04_00.pdf

 

(1) 「検討の方向性」については、以下の意見が寄せられた。

  1. ■ 書面投票制度のように、一定数以上の株主が存在する株式会社に対して八イブリッド型バーチャル株主総会の開催を強制することには反対であり、株主の議決権行使の方法としてバーチャル出席・議決権行使を保証することまでは必要がないと考える。(税経システム研究所 商事法研究会)
  2. ■ ハイブリッド型バーチャル株主総会については、各社が自社の規模や株主構成、年間を通じた株主との対話の状況、現在の株主総会における課題等を踏まえ、自主的に導入を検討すべき物といえ、あくまでオプション(選択肢の一つ)であることを改めて確認したい。(経団連)

 これらの意見は、ハイブリッド型バーチャル株主総会の開催を強制することには反対するものであり、各社が会社の意向や諸般の事情を踏まえて株主総会の開催方法を選択する裁量を残すことを望んでおり、制度設計にあたり傾聴すべき点であると思われる。

(2) 次に、「出席型」については数多くの意見が寄せられた。なお、「出席型」(ハイブリッド出席型バーチャル株主総会)とは、遠隔地等、リアル株主総会の場所に在所しない株主が、インターネット等の手段を用いて、株主総会に会社法上の「出席」ができる形態を指し、これに対して「参加型」は審議等を傍聴することができるにとどまる形態をいう。

  1. ■ バーチャル出席株主とリアル出席株主との取り扱いの差異は、どの程度であれば認められるのか、より詳細な検討を進めていただきたい。(全銀協)
  2. ■ バーチャル出席を認めるためには、会社側が通信障害の起きないシステム環境を整備する必要があり、実際に通信障害が発生した際には、会社法第831条第1項に基づく株主総会決議の取消事由と判断されるおそれが生じる。どのような場合に取消事由とされるかの経験則が不足している中で、会社側は一定の投資を行って環境整備を行わざるを得ず、実施に踏み切るインセンティブが低い企業も少なくないとみられる。「通信障害を防止すべく、自ら又は第三者に委託して、セキュリティ対策やバックアップ等の合理的な対策を講じる必要がある」と記載されているが、「合理的な対策」の程度を明らかにする必要がある。企業側では合理的な対策と考えていたとしても、それが不十分であるとされ、決議の取消しリスクが増加するのであれば、企業側としてはハイブリッド出席型バーチャル株主総会の導入に消極的にならざるを得ないと思われる。(経団連)
  3. ■ 非株主が決議に加わった場合、株主総会決議の取消事由に該当しうると解されており、リアル株主総会では株主の本人確認は慎重かつ正確に行う実務が確立されている。しかし、バーチャル出席株主については、追加的な確認が困難であり、リアル株主総会に比べて非株主が決議に加わってしまう可能性は高まりかねず、将来的な株主総会決議の取消事由の見直しが必要ではないか。また同様に、代理人を株主に限定する定款の定めがあるときには、株主でないものを代理人と認めるべき「特段の事情」の証明が困難であることから、「バーチャル出席者は他の株主の代理人となれない(委任状を受任できない)」とする定款の定めを有効にすることの是非も論点になり得るのではないか。(経団連)

 「出席型」に関して寄せられた意見には、株主総会決議の取消しリスクをいかに明確化し、ハイブリッド型バーチャル株主総会の導入にあたっての障壁を下げるかという観点のものが散見され、ハイブリッド型バーチャル株主総会を普及させるためにクリアしておくべき課題が示されていると思われる。

(3) また、バーチャル出席株主(インターネット等の手段を用いて出席をする株主)による質問や動議の取扱いに関する意見も見られた。インターネット等を利用することよる懸念の一つとして、質問や動議の乱発のおそれが考えられるが、それに対するルールも慎重に検討される必要があるだろう。

  1. ■ バーチャル出席株主の質問権や議案提出権の行使についても、十分に議論の上、ルール(無責任な発言を防止するための規範等)を明確化すべきである。(全銀協)
  2. ■ リアル株主総会においても、会社によっては質疑応答を十分に行うことは困難なケースもある中、バーチャル出席株主の質問や動議については、数が膨大になり得ることや濫用のおそれが高いと行った事情を考慮し、リアルとバーチャルの取扱いの差異を法的に許容する必要がある。また、質問権・動議権自体を一切受け付けないとすることも考えられるのではないか。(経団連)

(4) とりまとめ案に対する意見募集の結果を踏まえ、次回の議論において、以下の論点を取り上げて検討することが提起された。

  1. •  リアル出席株主とバーチャル出席株主の取扱いの差異について
  2. •  通信障害への対応の在り方について
  3. •  代理人出席や実質株主の出席に係る取扱いについて
  4. •  採決方法や中継の在り方、招集通知への記載方法など、出席型における運営ルールについて

 今後、本研究会はハイブリッド型バーチャル株主総会に係る現行法における対応の在り方をまとめ、「ハイブリッド型バーチャル株主総会実施のガイド」として公表することを目指している。

 本件は株主総会の開催方法・実務に大きな変革をもたらしうる検討であり、上記ガイドの内容や今後の検討動向は注視する必要がある。なお、次回の本研究会は9月30日に開催される予定である。

以上

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