◇SH3091◇企業における炎上時対応(メディア戦略法務) 佐藤大和(2020/04/06)

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企業における炎上時対応(メディア戦略法務)

レイ法律事務所

弁護士 佐 藤 大 和

 

1 はじめに

 漫画家・きくちゆうき氏がツイッター上で発表した『100日後に死ぬワニ』が、作品の完結と同時にメディアミックスの展開をしたことで、多くの批判を集めることになったことは記憶に新しい。作者自身は繰り返し否定しているが、批判を集めることになった原因は「最初からメディアミックスを前提に仕組まれていたのではないか」ということと、それに広告代理店である電通が関わっているのではないか(ツイッターでは「電通案件」という言葉がトレンドになった)ということであった。また、新型コロナウイルス感染症に関する企業の対応、もしくは役員もしくは社員による言動に対して多くの批判等が集まるケースも増えている。

 ここ数年、上述のように企業や個人の言動もしくは企業の不祥事等を受けて、インターネット上で、非難や批判が殺到して、収拾が付かなくなっている事態や状況となる、いわゆる「炎上」となることは決して珍しくない。そして、インターネット上の炎上を契機に各メディアで取り上げられ、記事やまとめサイト等が作られ、テレビや週刊誌等で大きく特集され、大炎上という形になる。

 そして、ひとたび、炎上時対応を誤った場合には、炎上は収まるどころかさらに広がり、企業の場合には、株価が大きく下がるだけではなく、企業の信用やブランド価値を大きく毀損し、優秀な人材は会社を辞めるだけではなく、採用活動が困難となり人手不足も招き、人手不足の結果として過重労働、従業員らのさらなる離職という悪循環に繋がることもある。さらには、第三者委員会の設置、株主等による代表取締役をはじめとする役員の責任追及まで至り、インターネット上の悪評は完全に削除することは困難であるため個人事業主の場合には廃業に至ることさえある。最近では、真偽は不明であるが、株式会社ストライプインターナショナルの代表取締役が社員に対するセクハラ行為があったのではないかと炎上し、辞任となった。

 上述のように企業及び個人が炎上することが珍しくない時代になった今、日本の企業は、炎上に備えた適切な事前準備、また炎上時における適切な対応が強く求められている。もっとも、そもそも日本の各企業において、積極的な企業広報に力を入れている企業も多くあるが、このような炎上時の対応(消極的な企業広報)については経験が浅いか、危機感がないためか、力を入れている企業も少なく、炎上した場合には適切な対応ができていないことが多い。

 そこで、本稿では、これを「メディア戦略法務」と名付け、炎上の適切な対応として、事前及び事後における炎上対応方法について詳述する。

 

2 メディア戦略法務

 炎上と契機と流れ

 メディア戦略法務の大前提として大事なのは、炎上の類型を正しく把握することである。①炎上の契機と②炎上の流れには、いくつかの類型がある。

① 炎上の契機

  まず契機であるが、新聞、テレビ局または週刊誌等の取材で企業の不祥事が明らかになるケースである。そして、これには「内部告発型」と「外部発覚型」がある。前者は、企業内部から企業の不祥事を告発するケースであり、後者は、取引先や消費者等の外部から発覚するケースである。これはインターネットがなかった時代からある炎上の流れである。最近では、記者会見を使った内部告発型やSNSを使った内部告発型及び外部告発型(いわゆる「#MeToo(ミートゥー)」もその一つであろう[1])も増えている。

  次に企業の役員もしくは従業員等によるSNS上の不適切な言動が原因で炎上するケースである。昔と異なり、昨今の炎上は、SNSを中心として起きることが多くなっている。これには、言動が法令に違反するとして直接的な炎上になる「直接型」と、社会常識を基準としてモラル等に問題があるとして批判や非難が集まる「間接型」がある。前者は、そもそも自らの言動が法令に違反していると気づいていない、もしくは法令違反をあえて自慢する投稿をするものであるが、後者は、最近では、朝日新聞の記者が、「新型コロナウイルスは痛快な存在」と不適切なツイートをして炎上している[2]
 

② 炎上の流れ

  炎上の流れとしては、企業の不祥事や役員もしくは従業員の言動等が直接的原因になる「初期炎上型」があれば、最初の不祥事や言動は大きな問題がなくても、その後の言動が炎上の大きな契機になる「途中炎上型」がある。また、初期炎上型ではあるが、途中の軽率もしくは不適切な言動によってさらに炎上する「初期・途中炎上型」がある。

  最近では、筆者が塚原氏夫婦の代理人を務めた公益財団法人日本体操協会のパワーハラスメント騒動がある[3]。これは選手による記者会見を契機に炎上したが、塚原氏による不用意な「全部、嘘」発言がメディアで切り取られて、炎上にさらに拍車をかけた。

  なお、ここ数年、上述のような炎上の流れとなり、最終的にはテレビの報道が最後になることが多い。テレビの各番組でコメンテーターをしていた筆者の経験からすると、最近のテレビは、自らの取材にも当然ながら力を入れてはいるが、手間暇がかかる独自の取材を避けて、新聞記事や週刊誌等の記事をもとに番組の構成を作ることが少なくなく、炎上の総仕上げとしてテレビの特集が最後になることが多い[4]

⑵ 炎上時対応の鉄則について

 以上が炎上の契機と流れであるが、炎上時の対応の基本的な対応の鉄則として、大事なことは、①炎上後すぐに「一回の対応で終わらせる」か、それができないならば②不用意もしくは軽率な言動はせず、炎上が落ち着くまで「何もせず、待つ」ということである。

① 炎上は一回の対応で終わらせるのが鉄則

  通常、炎上をした場合、事態の把握等に時間がかかることによって数回の説明を要することになったり、炎上を見誤り、不用意な対応、簡単な対応もしくは虚偽の事実を伝えることでさらに炎上し、追加の説明を要する事態になったりする。また自分の言動は間違っていない、もしくは自分の言動は何ら問題ないと考え「ちゃんと伝えればわかってくれる」と思い、さらにプレスリリースを出したり、SNS等に繰り返し投稿したりする場合もある。

  しかしながら、上述の各対応こそが炎上を鎮静化させないばかりか、炎上を大きくさせ、さらに大きな炎上を招く大きな原因の一つとなっている。つまり、炎上時は、原則として、どのような正当な理由を主張しても、虚偽ではないかと疑われたり、言い訳をしていると捉えられたり、過去の言動まで取り上げられたりして、批判や非難をする意見等が殺到し、さらに大きな炎上になってしまう可能性が非常に高い。そのようななか、「ちゃんと説明すればわかってくれる」と思い、必死で繰り返し対応をしてしまうことにより、炎上する機会を増やし、その結果として、社会の関心をさらに集め、大手ニュース配信会社において大きく掲載される可能性を高める。

  また、筆者の経験上、上述のように繰り返し対応することは、テレビ番組や記事において、「取り上げやすい絵」(メディアのネタ)を複数つくることになり、その結果として、新聞記事、週刊誌、インターネットニュース等で特集しやすくなり、テレビ番組にとって「良いワイドショーネタ」となる。

  上述のようなことを避けるためには、炎上後は、迅速かつ適切に対応することで、「炎上のニュース」と「炎上後の対応のニュース」と合わせて、同日もしくは数日以内に「一回の絵」で終わらせる必要がある。そうすれば、ニュース価値としては一日もしくは数日で終わり、炎上の鎮静化は早くなる(これは積極的な企業広報とは逆の発想である。積極的広報は複数の情報を小出しにすることで話題にするが、炎上対応は逆に情報を一回にすることで話題性を失わせることが大切である)。

  そして、迅速かつ適切な対応とは、被害者がいる「被害者型」では、原因を明らかにしつつ、出来るだけ被害者が謝罪を受け入れているか、被害者に対して適切な補償等をしていることを内容としたプレスリリースを出すことが肝要である。一般的に被害者が許しているなか、炎上が継続することは少ない。

  また、被害者がいない「被害者不存在型」の場合は、原因を明らかにしつつ、落ち度があることを認め、言い訳はできるだけせず、シンプルに謝罪をし、今後の対策等を内容としたプレスリリースが良い。ここで、下手な言い訳や虚偽の報告は炎上を加速させるということは覚えておいて欲しい。
 

② 迅速な対応が困難な場合には「何もせず、待つ」のが鉄則

  炎上時に同日もしくは数日以内に迅速な対応が難しい場合には、原則として、大きな企業不祥事ではない、または特段の事情がない限りは、炎上時初期は、「何もせず、待つ」を鉄則に、しっかりと原因究明や今後の対策等の準備を整え、炎上鎮静化後に「一回」で対応をすることが好ましい。

  すなわち、炎上直後は社会的な関心も非常に高いため、「一回の絵」にして、早急に鎮静化させる必要があるが、それが難しい場合には、社会的な関心が薄れたタイミングで適切に対応することで、批判や非難だけをしたい人たちを避けることができ、また入念に準備することで重箱の隅をつつかれるような批判や非難を避けることできる。そして、相当程度の時間経過後の対応となり、たとえ「複数の絵」ができても、炎上リスクは炎上直後に「複数の絵」を作ることと比較すると大きく軽減することができる。下手なプレスリリースや不用意もしくは軽率な言動は、炎上を拡大し、加速させることは覚えておいて欲しい。また、報道機関は、不祥事等に対して説明責任を強く求めてくるが、しっかりと準備ができていない段階で、説明することは、火に油を注ぐ結果にしかならない。

 上述の鉄則には多くの例外もあり、また、炎上時対応には他の鉄則もあるが、炎上時対応の鉄則の大原則としては、以上のとおりである。 

⑶ メディア戦略法務の必要性

 炎上時対応は、上述のとおり、迅速かつ適切な対応が必要となる。そして、これが上手くいけば、炎上は大炎上にならず、一瞬で鎮静化に成功する。そればかりか上手く対応することができれば、企業や個人事業主の評価を上げることにもなりえる。

 しかしながら、この炎上時対応には、炎上リスクのみならず、不祥事に関する損害賠償等の可能性、名誉毀損等に対する各対応(週刊誌等の記事に関する掲載禁止の仮処分命令申立て、放送番組に関するBPOに対する申立て、損害賠償請求等)など法的な対応の指摘も不可欠となる。

 現代の情報及びインターネット時代において、炎上時対応について何ら準備していないことは、企業のレピュテーションリスクを高め、企業の様々なリスクを著しく増大させることになる。

 そのため、現代の企業では、メディア(情報)、法律の両方の視点から、企業の炎上(不祥事・危機管理)対応を考えていかなければならない。具体的には、メディア戦略法務として、上述の炎上の契機・経緯や流れ等について把握しつつ、企業の広報部と法務部が連携し、炎上時における指揮の流れについて決め、企業内においてメディアや炎上に関する研修を行いつつ、炎上時対応のマニュアルの作成(プレスリリースの書き方、記者会見の対応ポイント、テレビ・新聞社・週刊誌等に対する対応[5]、メディア対応時のルール)及び炎上時の対応方法について、予め検討及び準備しておかなければならない。

 特に炎上時の対応であるが、複数のメディアコンサルティングや法律事務所(弁護士)が介入することがあるが、これは非常に好ましくない。炎上時対応においては、関わる人間が多くなればなるほど、様々な意見が飛び交い、対応に迷いが生じ、また全員の意見を取り入れるため対応が中途半端になり、迅速かつ適切な対応ができなく、事態を著しく悪化させる。そのため、炎上時対応マニュアルと指揮対応関係(広報部と法務部の関係性も踏まえて)については、予め準備しておかなければならない。筆者の経験上、炎上時は、広報部が外部の弁護士と協力しながら炎上対策していることが多いが、法務部と打ち合わせしながら、日ごろから炎上対応に強い弁護士等の専門家とのパイプは作っておいた方が良い。

 今の日本では、「スピン・ドクター」[6]について否定的な側面があるが、情報社会だからこそ、メディア(情報)、法律の両方の視点から、情報を適切にコントロールし、企業の炎上(不祥事・危機管理)に迅速かつ適切な対応をする「メディア戦略法務」が必要となる。

以上



[1] #MeToo(ミートゥー)とは、「私も」を意味する英語にハッシュタグ(#)を付したSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)用語であり、セクシャルハラスメントや性暴力の告白・共有・告発をする際に使用される。ここ数年、被害者たちが声をあげる「#MeToo運動」が国内外で広がっている。

[2] 間接型は、社会常識を基準としてモラル的に問題があるとして批判や非難が集まるケースであるが、その予測は非常に難しくて、どのような言動が炎上するかは予測がつかない。最近では、ソフトバンクグループジャパン株式会社の代表取締役である孫正義氏が新型コロナウイルス対策として、「新型コロナウイルスに不安のある方々に、簡易PCR検査の機会を無償で提供したい。まずは100万人分。申込方法等、これから準備」(https://twitter.com/masason/status/1237670955826069504)とツイートして、多くの批判を集めた。

[3] 2018年8月29日、体操の選手が記者会見において、公益財団法人日本体操協会の塚原光男副会長(当時)と、塚原千恵子女子強化本部長(当時)によるパワーハラスメント等があったと告発した件である。なお、第三者委員会では、両氏の選手に対するパワーハラスメント行為は全て否定されている。もっとも、テレビでは、約二週間にわたり両氏に対する名誉毀損的な特集が多くされたが、第三者委員会においてパワーハラスメント行為が否定されたという放送はわずか1日か2日程度であり、そもそもその内容を扱わない番組もあった。

[4] これはテレビの各番組が報道に対して一次的な責任を負わないためでもある。

[5] 情報をコントロールする側面から、メディア対応も十把一絡げにするのではなく、優先順位等について事前に協議をしておくと良い。また、新聞、週刊誌、テレビ等の事前の取材に対する対応策についても炎上対応の経験がある弁護士と一緒に検討すべきである。

[6] スピン・ドクターとは、情報操作の専門家であり、一般的には、人の心理、世論や社会情勢等の流れを読み、情報を特定の企業もしくは人に有利な方向へ仕向ける特別な技術を持ち、その技術を駆使して、緻密な戦略のもと、印象を変え、正当化し、情報を操作する者のことをいう。

 

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