◇SH3130◇座談会 新型コロナウイルス感染症と令和2年度定時株主総会(上) 藤田友敬 三笘 裕 飯田秀総 塚本英巨(2020/05/01)

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座談会
新型コロナウイルス感染症と令和2年度定時株主総会(上)

 

東京大学大学院法学政治学研究科教授〔司会〕 藤田友敬

長島・大野・常松法律事務所/弁護士 三笘 裕

東京大学大学院法学政治学研究科准教授 飯田秀総

アンダーソン・毛利・友常法律事務所/弁護士 塚本英巨

目 次

1 感染リスクを抑える形で株主総会を開催する
 (1)前提:「株主総会運営に係るQ&A」の一般的な性格
 (2)Q1に関して
 (3)Q2、Q3に関して
 (4)Q4に関して
 (5)Q5に関して
                     〔以上(上)掲載〕
2 バーチャル株主総会
 (1)前提:コロナウイルス対策としてのバーチャル株主総会
 (2)完全バーチャル株主総会
 (3)ハイブリッド参加型バーチャル株主総会
 (4)ハイブリッド出席型バーチャル株主総会
3 株主総会の開催時期にかかる論点
 (1)前 提
 (2)単純な延期
 定款の記載(定時株主総会の時期・基準日)との関係
 本来の定時総会のタイミングで決議しなくてはならない事項
 配当の基準日を変更することの問題点
 役員選任との関係
 (3)継続会の利用
 継続会までの期間の問題
 継続会と役員の選任
 (4)別個の株主総会を2回開催する
 いずれが定時株主総会なのか
 第1回の会議を定時株主総会と扱う場合の問題:計算書類の提出との関係
 第2回の会議を定時株主総会と扱う場合の問題:期末の欠損責任
 計算書類が出ていない段階で決議をすることへの是非
 株主総会を2回開催することの費用

4 むすび
                     〔以上(下)掲載〕

 

※本座談会は、オンライン会合の形式により、2020年4月22日に収録されたものであるが、その後に公表された情報も【補足情報】等の形で取り込み、記事として取りまとめている。

藤田 本日はお集まり頂き――というのもオンライン会合ではちょっと変ですが――ありがとうございます。2020年度上半期における株主総会をいかに開催するかということについて、実務上、苦慮されているものと存じます。すでに役所からも文書が出されており、法的な問題の所在については、かなり広く知られてきていると思います。ただ、それにもかかわらず、実務家や研究者からいろいろな意見が表明されており、方向性が収斂しているかどうかわからない面もあるように感じております。さらに、コロナウイルスの感染の拡大状況は、日々変化しており、たとえば本年3月と現在[編集部注:本座談会の収録は4月22日]とでは、議論の前提となる状況が必ずしも同じではないようにも思われます。そこで本座談会では、日本においてもコロナウイルスの感染がかなり深刻化し、東京を含む一部の都市では緊急事態宣言が出されているという状況を前提に、現在考えられるいくつかのシナリオについて、基本的な論点を確認しつつ、考えられる対処について検討したいと思います。

 現在考えられる選択肢としては、大きく分けて4つほどあり得ます。第1は、なんとか例年のスケジュールどおり株主総会を開催するというやり方です。この場合には、参加者数を抑える等、感染リスクを抑える工夫をしつつ、場合によっては、オンライン総会にできるだけ近づけた形で開催するということになります。第2は、単純に一定期間――たとえば3ヵ月ぐらい――延期して開催する。第3は、継続会を利用した2段階開催というやり方をとる。最後に、独立の株主総会を2回開催するというものです。どの選択肢にも問題がないわけではありません。最終的に各会社が選択する際には、何らかのリスク――評判等を含め――はとりつつ、特定のメリットを重視して選択するという経営判断をすることになります。経営判断の場面では、考慮すべき要素を正確に理解した上で、その会社にとって、一番重要なメリットは確保しつつ、避けられないリスクはとる判断をしなくてはならないので、これらの点について適切に認識できる材料を提供しようと考え、このような座談会を行うことにしました。

1 感染リスクを抑える形で株主総会を開催する

(1) 前提:「株主総会運営に係るQ&A」の一般的な性格

藤田 まず、例年のスケジュールどおりに開催するとして、感染リスクを抑えるために、株主の出席をできるだけ抑制した形で株主総会を開催する場合の問題点を検討します。この場合の論点については、経済産業省と法務省が公表しております「株主総会運営に係るQ&A」(令和2年4月2日公表、同月14日・28日更新。以下、「Q&A」という)という文書の内容に即して議論したいと思います。

 最初に、皆さんに感触を伺いたいのは、実務的には、Q&Aに沿ってやればまず安心だと思われていると受け止めてよろしいでしょうか。

三笘 新型コロナウイルス蔓延により前例のない事態に直面して困っていた実務サイドとしては、やはり経済産業省と法務省との連名の文書ですので、このタイミングで出してもらえたことも含めて好意的に捉えられていると思います。内容面についても、来場自粛要請、入場人数の制限、発熱している株主の入場制限、時間短縮など、実務的にはこうしたいなと思っていることについて一通り触れられています。

藤田 塚本さんも同じ感触ですか。

塚本 基本的に同じですが、入場制限は、かなり思い切ったことにまで言及したという印象でして、本当にこれに沿って行ってしまっていいのかなど、人によって捉え方が異なり得るかもしれません。そのため、ここまで言及するのであれば、決議取消のリスクはないといったことなど、さらに踏み込んで書いてほしかったという思いもあります。

藤田 今の塚本さんの感想を前提にすると、もしこの文書が出ていなかったら萎縮してできなかったところ、これが出たことで初めてできるようなこともあると考えていいですか。

塚本 株主への出席自粛の呼びかけなど、Q1、Q4、Q5、また、Q2の中でも自社会議室を活用することは、Q&Aがなくてもできたことだと思います。これに対し、Q2の入場制限と、Q3の事前登録制は、今まであまり行われていなかったところだと思いますので、これらの点は、Q&Aのおかげで実務がかなり進みやすくなったという面があると思います。

藤田 実務的には、やはり出してもらって助かるのは確かだということですね。ところで、この文書の受け止め方として、時折、オンライン総会の実施を可能にしたことに意義があるといったニュアンスで報道されることがあります。たとえば、日本経済新聞4月3日付記事では、「『オンライン総会』可能に」という見出しでQ&Aを紹介しているのですけれども、これは適切な受け止め方でしょうか。ややミスリーディングな報道ではないかという気もしているのですけれども。

三笘 オンライン総会――バーチャル株主総会と言うべきなのかもしれませんけれども――と今回のQ&Aとは直接のリンクはないと考えています。実務家の立場から言えば、もしオンライン総会をすることが前提だと言われてしまうと、今回の定時株主総会との関係では対応できない企業も多数出てきてしまい、Q&Aを出した意味がなくなってしまいますから、Q&Aを出した経産省・法務省の意図から考えても、それはそれ、これはこれ、別物だと理解しています。

藤田 Q&Aは、リアルの株主について規模を縮小して行うとすれば、こういうやり方で、ここまでやれますと書いているだけで、バーチャル総会には全く触れていないですし、バーチャル総会をやるべきだという方向に働きかける趣旨もないという理解でよろしいでしょうか。私も三笘さんと同じ感触ですが、報道の中には違うニュアンスも時折見かけるので確認させていただきました。

 次に最初の塚本さんの感触とも関係するのですが、今回のQ&Aで書かれている法律論は、緊急避難的解釈――非常事態を前提に、一般論としてはやや無理はあるが、この際やむを得ないというスタンスの解釈――を提唱しているのか、それとも一般論としても比較的普通の解釈が書かれているのか、どちらの感触でしょうか。緊急避難的な解釈をしているとすると、今回限りの話で、あまり先例とすべきではないということになります。将来、電子株主総会を志向する会社が、リアルの方をどこまで縮小できるかという際にも、リアルの株主総会の人数制限といったことは問題になり得るので、このあたりの感触も伺えればと思います。

飯田 塚本さんがおっしゃったのとほぼ同じことですけれども、Q1とかQ4、5あたりの話は、もともと適法だったという気がします。Q2の人数制限は、伝統的な解釈からすると、ややチャレンジングなことを言っているようにも見えます。けれども、ここは理論的には評価が分かれる、つまり、株主総会の当日の会議における討議をどこまで重視するかで評価が分かれるところだと思います(この問題意識については、たとえば舩津浩司「会議体としての株主総会の未来を考える――「二〇一八年版株主総会白書」を読んで」商事2186号(2018)6~10頁、松中学「変わるものと変わらないもの――「二〇一九年版株主総会白書」を読んで――」商事2218号(2019)7~8頁など参照)。ですので、当日の討議をあまり重視しない立場からすると、Q2も含めて、当然に認められることが述べられていると解する余地は十分あるのではないかという印象を受けています。

藤田 わかりました。少なくとも、非常事態というコンテクストを取り払っても通用するような議論がかなり含まれていますし、Q2についてすら、そのような理解があり得るという意見ですね。とはいえ実務では、新型コロナウイルスの感染拡大防止という非常事態と無関係にQ2のようなことはアドバイスしにくかったとは言えるのでしょうね。

塚本 おっしゃるとおり、特に、Q2の人数制限は、これなしには実務的には難しかったと感じています。これに対し、ほかのQ&A、たとえば議事の時間を短くする点や、先ほど議論のあった、設定した会場に株主がいなくても開催が可能である点は、新型コロナウイルスの感染拡大防止と関係なく行えるものであると理解しています。

 また、後ほど各論でも議論があると思いますが、現下の状況でなくともできる部分があるところにあえて「現下の状況においては」とか、「新型コロナウイルスの感染拡大防止に必要な対応をとるため」という枕詞があるのが逆に気になるところでもあります。もちろん、現在の状況がない場合には、IR型総会といわれるように、株主のために懇切丁寧に回答するといった実務になっていますので、平時の場合も今年と同じようなことを行う会社は想定しづらいですが、Q&Aに記載されていることの中には、平時の場合でも禁止されていないと理解されるものも含まれています。そのため、この状況の中で出されたQ&Aであるからあえて先ほどのような枕詞が付いているのであると読むなど、慎重に読むべき点もあると感じています。

三笘 私はもう少し踏み込んだ立場をとっていて、このQ&Aが出なくても、新型コロナウイルス問題がある状況下においては、ここで書かれているようなものは当然できてしかるべきだし、このQ&Aが出なくても、おおむねこの方向で助言しようと思っていました。そういう意味では当たり前のことが書いてあるという理解でいます。ただ、株主から文句が出たときに、「いや、Q&Aにこう書いてありますから」と一声言えば、それで済むので、説明責任が軽くなって楽になったなという印象です。もちろん、新型コロナウイルス問題がない平常時において、この考え方が全部妥当するかというと、いろいろ議論があるだろうなと思います。

藤田 ありがとうございました。Q&Aには非常事態から切り離しても通用する議論も、少なからず含まれていそうですが、その点は後で個別に見ていきたいと思います。文書の一般的な性格についての印象は大体伺えたと思いますので、以下、各論として、各々のQを見ていきます。

(2) Q1に関して

Q1. 株主総会の招集通知等において、新型コロナウイルスの感染拡大防止のために株主に来場を控えるよう呼びかけることは可能ですか。

(A) 可能です。
 会場を設定しつつ、感染拡大防止策の一環として、株主に来場を控えるよう呼びかけることは、株主の健康に配慮した措置と考えます。

 なお、その際には、併せて書面や電磁的方法による事前の議決権行使の方法を案内することが望ましいと考えます。

藤田 まずQ1、すなわち新型コロナウイルスの感染拡大防止のために株主に来場を控えるよう呼びかけることの可否です。表現の仕方もいろいろ配慮され、来場する株主の健康に配慮するというニュアンスで書くのでしょうが、実質的には、できるだけ会場に来ないことを勧めるような記載をすることは可能だされています。

 こういう案内の仕方をしている会社はすでにかなりの数あると思うのですけれども、少し気になるのは、こういう呼びかけが許されるのはなぜで、どういう場合に許されるのかという点です。Q&Aを見ると「感染拡大防止策の一環として」、「株主の健康に配慮した措置」だから許されるという書き方になっています。逆に言うと、こういう呼びかけが許されるのは、あくまで感染拡大防止という強い公益的なニーズが現在あることを前提に初めて許されるということになるのでしょうか。たとえば、将来、オンライン総会を志向する会社が、「株主の皆さん、できるだけバーチャルで参加しましょう」という呼びかけをするということは、問題があるのでしょうか。それはこういう呼びかけが許されると言っている根拠にかかってくるかと思います。現実に参加しなくても、株主にはさまざまな形で、参加し、権利行使する選択肢が用意されているということから、来場しないことを勧めるぐらいは問題ないというのであれば、ウイルスの感染防止という状況が存在しなくても、このような呼びかけは許されることになるかもしれません。このあたり、Q&A読み方としてどうなるか、さらにQ&Aは離れて、解釈論としてはどう考えられそうでしょうか。

三笘 私は、コロナウイルス問題がなくても呼びかけること自体に法的な問題は生じないと考えています。というのは、このように呼びかけても、結局株主が会場に来たら入場させるというところが確保できていれば、株主の法的な権利を奪うことにはならないはずなので。ただ、株主との関係性を考えていくと、こういう株主総会の場にできるだけ来ないでくださいという呼びかけは株主フレンドリーではないのではないか、あるいは、対話型の株主総会というトレンドに反しているのではないかという批判はあるかもしれないので、平常時にこのような呼びかけをするかどうかについて、会社の判断は分かれるだろうなと思っています。

藤田 この種の呼びかけをするか否かは、IR的な観点からの良し悪しを経営者が判断してくださればいいという問題にすぎないということですね。塚本さんも同じですか。お書きになったものを見ると、新型コロナウイルスによる感染拡大の防止の必要性ということを多少強調されていたような気もするのですけれども(SH3087 事実上の「バーチャルオンリー型株主総会」を志向した「ハイブリッド出席型バーチャル株主総会」の開催のポイント 塚本英巨(2020/04/02)参照)。

塚本 平時の場面で、株主総会をこの場所で開催しますと記載して招集通知を送りながら、でも、なるべく来場しないでくださいとアナウンスするのは、想定しづらいと思いまして、何かしらの必要性があるからこそ、そういうアナウンスをするはずであろうという考えから、私の論文では、そのような記載をしておりました。先ほど藤田さんがおっしゃったような、なるべくならバーチャル型でやっていきたいというのも、必要性として挙げられると思います。今回は、新型コロナウイルスの感染拡大防止という必要性があるからこそ、来ないでください、自粛してくださいということをあえて呼びかけることが根拠づけられると理解をしておりまして、三笘さんとはスタンスがやや異なるかもしれないです。

藤田 最初のところで伺った、緊急避難的な解釈をしているのか、それとも一般的な解釈として導けることを述べているのかということの一例ですね。

飯田 私はどちらかというと三笘さんに近くて、これは平時でも基本的には可能で、合理的な理由とか必要性がある場面で会場には来ないで下さいと呼びかけても、適法だと思います。たとえばバーチャル総会でやりたいですとか、あるいは委任状合戦をやっているので、なるべく委任状を出してくださいというのは、これは事実上、当日の会場には来ないでくださいと言っているのと同じだと思います。ですので、そういう何らかの合理性がある場合であれば、来ないで下さいという呼びかけは認められてしかるべきだと思います。

 逆に駄目な場合というのは、たとえば、総会当日に経営陣と対立する株主に責め立てられるのを避けるために、なるべく株主の皆さん来ないでくださいと呼びかける場合のように、経営陣の保身目的で株主の正当な権利を奪うような場合は駄目かなという気がします。

藤田 飯田さんのご意見は、呼びかけの可否は、代替的な手段としての参加の仕方の設定の合理性に依存するということでしょうか。つまり株主の権利行使に変な歪みが出ないような代替手段が保障されていれば、感染リスクといった特殊事情とは無関係に認められる措置なのかということですが。

飯田 平時であれば、そうだと思います。他方、現在のように、感染リスクがあり、休業要請が出され、都道府県をまたぐ移動の自粛も要請されている有事のときには、書面投票制度などで議決権行使の機会さえ与えられていれば、バーチャル総会のような代替手段がなくても、多くの人数が物理的に集まらずに開催することに必要性と合理性がある場面だと思います。そういう意味では、その限りにおいては緊急避難的な解釈も一部入っているかもしれません。

藤田 Q&Aは、コロナウイルスの感染リスクが深刻化している中でどうすることが許されるかという実務的な問いに答える文書なので、限定的な状況を前提とした回答になっていますし、文書の射程自体はそうなのでしょう。ただ、私もあまり緊急避難的解釈ということを過度に強調せず、さらに一般性があるかどうかを検討はしたほうがいい部分もあるという印象は持っておりまして、三笘さんや飯田さんに近い感触です。ただ、実務的には「そもそもこんな呼びかけは許されるの?」というレベルから疑念があったとすれば、非常事態というコンテクストを離れた一般論として、株主に来場を控えるよう呼びかけることができるといった議論にはついていけないという感触の人もいるのかもしれません。

 なおこの問題に限らないのですが、株主総会実務に関して従来書かれていることについては、私はやや違和感を覚えることも少なくなくありません。型どおりに何の間違いも起きないことを非常に重視するあまり、株主の行動を少しでも制約するような措置はできないかのような解釈をとりがちな印象がないわけでもないのですが、そういうことはないのでしょうか。

三笘 私の印象を申し上げると、違法の可能性の問題を生じさせないことを大前提として、セーフティーゾーンを広くとって運用しているから、そういう議論になるのだと思います。今回のような特殊な事態であれば、訴えられたとしても少なくとも裁量棄却が認められるだろうから、それでいいじゃないですかという割り切りがしやすいので、比較的リスクがあるところまで踏み込めるのですけれども。

藤田 塚本さんも同じような感覚ですか。

塚本 古い裁判例に大分とらわれて、それがベースとなって現在の実務が運用されてしまっているという印象はありますので、もう少し自由な発想があってもいいのではないかと感じています。

藤田 ちょっとでも紛争になる余地があるものは回避し、古い裁判例も含めて考えられそうなあらゆる解釈を前提に大丈夫な形で平時は運用するけれども、それが本当に違法かどうかということについては相当グレーゾーンがあるということですか。そうすると平時の行為規範として説かれている内容は、相当堅いことを言っているとしても、そうじゃないと絶対許されないとまで思われているわけでもないということになりますね。それだと、私の感覚とも大きくずれてないという意味で安心ではあります。

 少し脱線しましたが、総会参加を控えるように呼びかける際の文面について、実務的に注意すべきことはありますか。できるだけ来ないでくれと、はっきり書いてしまうことも、現在の状況下では問題ないと言い切っていいでしょうか。IR的な観点も含めてですけれども。

三笘 大体、実務家としては、他社がどうしているのかを見ながら文面を考えていますので、そういう意味ではだんだんエスカレートしていくかもしれませんけれども、今回に限ってはかなり明確に来場を自粛してほしいと書いてよいと思っています。

塚本 私も同じ意見です。

藤田 このあたりは、 3月前半頃までと現在とではかなり感触が変わってきているのかもしれませんね。特に緊急事態宣言が出されて、不要不急の外出は控えてください、いわゆる3密(密閉空間、密集場所、密接場面)を避けてくださいということが強く要請されている現状では、多くの株主が会場に来ると混み合って大変ですから、できるだけ来ないでくださいと書くことが、許容範囲を超えるとは考えなくていいでしょうね。

  1. 【補足情報】
  2.   2020年4月28日付のイオン株式会社株主総会招集通知では、その表紙に「【ご来場自粛のお願い】」という文字が太字の大きめのフォントで記載され、続けて「新型コロナウイルスの感染拡大が続いています。多くの株主の皆さまが集まる株主総会は、集団感染のリスクがあります。議決権の行使は郵送またはインターネット等で行い、当日のご来場は、感染の回避のため自粛をご検討ください。」と書かれている。
  3. 【補足情報】
  4.     本座談会収録後に、経団連から新型コロナウイルス感染症の拡大を踏まえた定時株主総会の臨時的な招集通知モデルが公表(2020年4月28日)されている。

藤田 そのほかQ1では、「併せて書面や電磁的方法による事前の議決権行使の方法を案内することが望ましい」と書いてあります。これは招集通知に併せて、議決権行使書面を同封するという普通の招集の仕方をしているだけでは足りないということではなくて、来場しないことの呼びかけの直後にも書いておくと親切だという程度の意味でしょうか。つまり来場自粛の呼びかけの適法性のための要件ではないという意味ですが。

三笘 私はそう思っています。

藤田 塚本さんも同じですか。

塚本 同じです。来場自粛の呼びかけの適法性は、書面や電磁的方法による事前の議決権行使の方法を案内することとは関係がないと考えています。来場しなくても議決権の行使はできますと案内することで、来場しない方向により誘導しやすくなるという効果を狙ったものであると理解していました。また、定足数を満たす目的や、一般的に議決権行使比率が高くない個人株主の議決権行使を促したいという目的も――これらの目的は、今回に限らず、平時にもありますが――あるのだと思います。

藤田 IR的な観点からしたほうがよいということでしょうね。併せて株主総会会場の実況中継とか、あるいはさらに進んでハイブリッド型バーチャル総会を行うといった措置を講じることも、Q1に書かれている措置の適法性とは無関係と受け取ってよろしいですか。

三笘 そういう理解でおります。

藤田 塚本さんも同じですか。

塚本 同じです。

藤田 最初に触れたように、Q&Aをバーチャル株主総会(オンライン総会)と結びつけた報道がされることがあることから念のために確認させて頂きました。バーチャル株主総会をやる会社だから、こんな呼びかけをしてもいいという趣旨は全くなくて、株主総会会場に来ることの代替手段としてQ&Aが「案内することが望ましい」というレベルで想定しているのも、書面投票とか電子投票とかだけだと考えてよろしいわけですよね。

三笘 はい、そう思います。

飯田 1点補足というか、このQ&Aの名宛人が誰であるかに関わるのですけれども、これは非上場会社も念頭に置いている文書に読めます。すると、書面投票等の義務がない会社は、書面等による事前の議決権行使の方法を案内することが望ましいと言われてしまうと、それでは書面投票等を採用しなければいけないのかという疑問が出てくると思います。しかし、「望ましい」という表現であって、「案内しなければならない」という表現ではないことからすると、上場会社であれば、書面等による事前の議決権行使の方法を案内するのは望ましいけれども必須ではない。書面投票等の義務がない会社であれば、やはりその案内をすることは必須ではないのだと思います。そうだとすると、ハイブリッド型バーチャル総会によってオンラインでの参加・出席の手段を用意しておくことも要件とはされてないと読むのが論理的だと思います。

藤田 そもそも書面投票等が義務づけられてない会社については、「望ましい」として書かれていることは適用がないと考えるのでしょうか。それとも、そういう会社でも、なるべくならこういう措置は講じたほうがよいですよという含みがあるのでしょうか。

飯田 措置を講じたほうがよいという含みはあると思いますけれども、必須ですかと言われると、私は必須ではないという理解です。書面投票等が義務づけられていない会社に、「望ましい」と書かれていることは適用されないと私は理解しています。

藤田 ありがとうございます。

(3) Q2、Q3に関して

Q2. 会場に入場できる株主の人数を制限することや会場に株主が出席していない状態で株主総会を開催することは可能ですか。

(A) 可能です。
 Q1のように株主に来場を控えるよう呼びかけることに加えて、新型コロナウイルスの感染拡大防止に必要な対応をとるために、やむを得ないと判断される場合には、合理的な範囲内において、自社会議室を活用するなど、例年より会場の規模を縮小することや、会場に入場できる株主の人数を制限することも、可能と考えます。

 現下の状況においては、その結果として、設定した会場に株主が出席していなくても、株主総会を開催することは可能と考えます。この場合、書面や電磁的方法による事前の議決権行使を認めることなどにより、決議の成立に必要な要件を満たすことができます。

 なお、株主等の健康を守り、新型コロナウイルスの感染拡大防止のために株主の来場なく開催することがやむを得ないと判断した場合には、その旨を招集通知や自社サイト等において記載し、株主に対して理解を求めることが考えられます。

Q3. Q2に関連し、株主総会への出席について事前登録制を採用し、事前登録者を優先的に入場させることは可能ですか。

(A) 可能です。
 Q2の場合における会場の規模の縮小や、入場できる株主の人数の制限に当たり、株主総会に出席を希望する者に事前登録を依頼し、事前登録をした株主を優先的に入場させる等の措置をとることも、可能と考えます。

 なお、事前登録を依頼するに当たっては、全ての株主に平等に登録の機会を提供するとともに、登録方法について十分に周知し、株主総会に出席する機会を株主から不公正に奪うものとならないよう配慮すべきと考えます。

 *Q2の(A)の「なお」で始まる第3段落は、本座談会収録後、4月28日に追加された。

藤田 次にQ2とQ3を合わせて見たいと思います。

 Q2では、人数制限をして株主がいない状態で開催してもいいのかということにつき「可能です」と書いてあり、Q3では、人数制限の仕方として登録制のようなものも可能だと書かれています。これらに対する実務的な感触をお教えいただけないでしょうか。

三笘 ここの議論の前に、今年の株主総会の特殊な事情についてお話をしておいたほうがよいと思うのですが、普通は株主総会の会場は1年前に予約をしていまして、今年も会場が閉鎖されない限り予定どおりの会場で開催するという会社は相当数あると思います。通常は椅子をかなり詰めて入れますが、今年に関して言うと、かなり間を空けて椅子の配置をするということになりますので、たとえば1メートル間隔で椅子を配置すると、通常の場合の3分の1ぐらいしか入らないのです。2メートル空けると、多分、その半分も入らないというような状況です。ここのQでは会場の規模を縮小するということが書いてあるのですけれども、今年に関しては、会場自体は同じでも定員が随分小さくなるという特殊事情があるという前提でこのQ2は読んでおかないといけないと思っています。

藤田 会場のスペースに余裕があるのだから入れろという主張に対して、これ以上入れると株主と株主の間の距離が近くなりすぎるから入れられませんとすることがあり得るということを前提に、ここで言う制限を考える必要もあるのではないかというご指摘ですね。

三笘 はい。

藤田 それは非常に大切な指摘で、入場制限というのも、入れる人は全員会場に入れた上で、どうしても物理的に入れない人だけを会場に入れないという措置を前提としてはいけないというのは、今回の事態の大きな特徴です。以下でも、そういったことを前提に議論したいと思います。

 さてその上で、大前提を確認します。ここで「可能ですか」と問うて「可能です」と書いてある措置、たとえば合理的な範囲で入場制限をして、その結果、キャパオーバーで会場に入れない人が出たとしても、これは違法ではない、具体的には株主総会の決議取消事由になったりはしないという法的な意味があると書いていると読んでよろしいでしょうか。

塚本 「可能」であると書かれている以上は、素直に読むとおっしゃるとおりの読み方になると思っておりまして、先ほど申し上げましたとおり、その点まで明確に書いてほしかったという思いはありますが、実務的にはそういった解釈で進めたいと思っています。

藤田 もちろん、Q&Aも「やむを得ないと判断される場合」とか「合理的な措置」といって、何でもオーケーと言っているわけではなく、慎重な条件が付せられているのですけれども、この文書で書かれている範囲・程度を超えない限り適法であるという趣旨なのでしょう。もっとも措置の内容としてどこまで厳しい制約が許されるか--たとえば会場に入れる人数を0人にまで絞ることの可否--については議論が分かれ得るところでしょうね(武井一浩=森田多恵子「新型コロナ対策の社会的要請を踏まえ根本的変容が求められる今年の定時総会」東京株式懇話会会報第821号(2020)12頁は、総会会場への株主の来場を認めない措置を有効とする)。そして制約の限界は、株主総会の招集時点で、感染防止のための社会的要請がどのぐらい深刻になっているかにも依存するのでしょう。3月下旬や最初に出された4月初め頃と、緊急事態宣言が出されている現在[編集部注:本座談会の収録は4月22日]では、感染リスクに関する人々の受け止め方も相当異なってきている印象があります。

  1. 【補足情報】
  2.   乾汽船株式会社の株主招集にかかる臨時株主総会について、株主数を3名に制限する形で招集が行われた。
  3.   なお乾汽船株式会社は、この人数制限も1つの理由として、この臨時株主総会開催禁止の仮処分を申し立てており現在係争中である(ssl4.eir-parts.net/doc/9308/tdnet/1819418/00.pdf)。
  4. 【追 記】
  5.   4月30日付で、上記仮処分事件について、4月28日に和解が成立した旨の公表がなされた(https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2020/04/00-1.pdf)。
  6.   和解には、招集株主が総会の招集通知において公表した株主の議場への入場制限にもかかわらず、乾汽船が総会に関して議決権の代理行使の勧誘を行った結果として取得した委任状を持参した株主が議場への入場を認めることを招集株主に誓約させるという内容が含まれているようである。

藤田 Q&Aが扱っているのは、あくまでコロナウイルスの感染拡大防止という特殊な事情があることを前提に人数制限をすることの可否なのですが、そういう特殊なコンテクストは離れて、そもそも、株主総会の前日の時点で、たとえば書面投票あるいは電子投票による議決権行使によって、議案の可決が事前に判明しているような場合、それも合理的に予想した人数が入れる程度の会場を用意したにもかかわらず、何らかの特殊事情で、大人数が押しかけて来たためにキャパオーバーになって、入れない人が出てしまったという場合、株主総会決議に取消事由はあるのでしょうか。あるいは、仮に違法だとしても裁量棄却もできないような話なのでしょうか。

三笘 私は見積もりが合理的であれば、それを超えたために入場できない人が出たとしても違法という問題は生じないと思っていますし、もし百歩譲って違法だとしても裁量棄却の対象になるべきだと考えています。もちろん委任状争奪戦をやっているなどして会社提案議案が可決されるか微妙なケースというような場合は、話は別だと思いますが、通常は今申し上げたような形で考えるべきだと思っています。

 ところで、私は、この手の話をするときに、議論をしている人たちが株主総会について、共通のイメージを持っていないかもしれないという懸念を持っています。以前、私が「旬刊商事法務」の株主総会白書で調べたところに基づいて、すごくざっくり申し上げると、株主総会に実際に出席する株主で役員ではない人というのは全株主数の1%ぐらいです。つまり、株主が1万人いる会社だと100人ぐらいの一般株主が出席し、それにプラスして、役員株主が出席しているというイメージなのです。

 そして、その全体の1%ぐらいの役員でない出席株主の保有している議決権は、それほど多くなく、約半数の上場企業において10%以下です。多くの上場企業は議決権行使比率が7割以上ありますので、前日の夕方の段階で可決するか否決するか、普通は全部分かっているのです。だから、ほとんどの企業で当日は投票しないで拍手や挙手で採決してしまうという取扱いになっていて、そういう実態を念頭に置いて議論をしないと、言い換えると、委任状争奪戦をやっているなどして会社提案議案が可決されるか微妙な例外的なケースを念頭に置いて議論をすると、ほとんどの企業についてその実情から離れた議論になってしまうのではないかと懸念しています。

藤田 塚本さんも、そのようなイメージですか。

塚本 会場への収容に関しては、先例となっている裁判例がかなり特異なケースでありますが、それを一般化して、三笘さんがおっしゃったような平時のケースに当てはめると、おかしなことになってしまうというのは、三苫さんのおっしゃるとおりであると思います。他方で、やはり株主の質問権などを考えると、キャパオーバーなので入場できませんと言ってしまって本当にいいのかというのは、個人的にはまだ割り切れない部分が実はあります。ただ、平時におきましても、少なくとも決議取消が認められてしまうということはなく、また、仮に瑕疵があるとしても裁量棄却となり、いずれにしても会社が勝つということになるとは考えています。

藤田 三笘さんと塚本さんでニュアンスの差はあっても、またやや慎重な塚本さんのイメージを前提にしても、今のような状況下でQ2に書いてあるような人数制限をして、結果として入れない人が若干出たということは、それ自体が取消事由になったりしないというのは比較的素直に出てくる話で、そこまで思い切った新奇な解釈をしているわけではないと捉えてよろしいですか。Q2の性格にも関わるのですけれども。

塚本 解釈論的には、おっしゃるとおりです。ただ、実務の現場としては、キャパオーバーで入れない人が出てしまうことがないようにしていますし、万が一、想定以上にたくさんの株主が来場てしまったら何とか押し込むなどして議事を聞けるようにするという形でやっておりますので、先ほど申し上げましたとおり、実務の現場の感覚からすると、大分踏み込んだ印象ではあります。

藤田 それが先ほどの三笘さんの、総会関係の実務というのは、どこから見ても問題がないようなベースでやるように努めていることの結果であって、もともと違法となる境界線までにはアローワンスが相当あるから、普段のアドバイスとしては、キャパオーバーで入れない人が出てしまうことが絶対ないようにするけれども、仮にそれが守れなかったとしても当然には違法にならないというのがという感触でしょうか。

塚本 そうですね。

藤田 学説はどうですか。キャパオーバーで入れない人がいたら当然に決議取消事由があると考えているのでしょうか。

飯田 さっき塚本さんが古い裁判例とおっしゃったのはチッソ事件(最判昭和58・6・7民集37巻5号517頁)のことですよね。チッソ事件の当時の判例評釈を見ていたんですが、たとえば龍田先生は、入場できない株主がいるときでも延期・続行の決議はできるけれども、本題の計算書類承認議案について出席株主に議決権行使の機会を与えなければ重大な瑕疵であるとおっしゃっていました(龍田節「株主総会の適法手続――チッソ事件最高裁判決をめぐって」ジュリ797号(1983)79~80頁)。もっとも、入れない人がいたら当然に決議取消事由があるとまでおっしゃっているわけではないと思います。たとえば弥永先生は、入場を制限したことのみをもって、手続きに瑕疵があるとは評価できないとして、制限の方法の恣意性や不公正性、および、入場できなかった株主の議決権等の行使の機会が確保されたかどうかを考慮要素として指摘されています(弥永真生「一株運動と会社法」ジュリ1050号(1994)110頁)。

 いずれにしても、チッソ事件の射程を確認しておく必要はあると思います。その1つの手がかりとしては、書面投票制度等の制度がなかった時代の事案であるとか、昭和56年改正前後と現在では株主構成も株主総会の権限も変化したとかということはあるかと思います(会議体としての総会の歴史的・理論的な分析として、松井秀征「株主総会制度の基礎理論(六・完)――なぜ株主総会は必要なのか」法協126巻3号(2009)154~156頁参照)。

藤田 飯田さんの指摘された、法制度の前提が異なる時代の判例だということは重要ですね。また制度的な面は別として、時代背景として、株主総会の活性化といったことが非常に強調された時代――たとえば昭和56年商法改正で株主提案権が導入されています――でもありました。

 さらにそういう外在的な観点以外に、そもそもチッソ事件の判決文のテキストそれ自体から来る射程も確認する必要があります。最高裁判決は、決議取消の利益について法律論を展開していますが、取消事由の存否については一般論を展開せず、 「原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて、本件株主総会招集の手続又はその決議の方法に瑕疵があるとした原審の判断は、正当として是認することができ」るとしているだけです。そして、原審判決(大阪高判昭和54・9・27民集37巻5号597頁)は、修正動議無視の点については重大な瑕疵があるとする反面、株主の入場制限については、「会社がことさら狭隘な会場を選定して会社関係以外の株主の出席を妨害したような事情の認め難い」、「場外株主が……本件議案に関する具体的な動議を用意していたことの資料もな」いと認定した上で、「当時の会場内外の騒然たる状況等からして、この点の瑕疵は……それほど重大視すべきものではない」としています。裁量棄却を否定する理由も、「瑕疵の程度、特に三1記載のそれ[藤田注:動議無視の点]からして裁量棄却を相当とする場合にはあたらない」としており、重点はあくまで動議無視の点であって、入場できない株主がいたことではありません。控訴審判決の内容がこのようなものだとすると、その結論を最高裁が維持したからといって、会場に入場できない株主が存在すれば当然に決議取消事由があり、裁量棄却もできないとするのが現在の判例だとは評価できないように思えます。

 ところで飯田さんは、チッソ事件の先例的価値との関係で、書面投票制度導入前であったことも言及されましたね。そうだとすると、結果的に会場に入れなかった株主が出た場合の法的効果との関係では、たとえばオンライン総会も利用可能にしておけば、少なくとも裁量棄却の適用等との関係では相当利いてくるのでしょうか。

飯田 私は利いてくると思います。

藤田 先ほどオンライン総会を導入することは、株主総会会場への来場を自粛するように呼びかけるための要件ではないことを確認しましたが、万が一入ることができない人が出たときの決議の効力との関係では何らかの意味があるということですね。

飯田 いわば加点事由になるという意味で利いてくると思います。

藤田 そうだとすると、ハイブリッド型バーチャル株主総会は、コスト等との兼ね合いがあるとはいうものの、やる意味がないわけではないのかもしれません。

 Q&Aの話に戻ります。Q&Aは、「現下の状況ではその結果として」設定した会場に株主が出席しなくても株主総会を開催することは可能と書いています。「現下の状況」とはコロナウイルス感染拡大が起きている状況を指していると思うのですが、このような限定は必要なのでしょうか。つまり議案に関心がある株主は書面投票で議決権行使し、総会当日には会場に誰も来なかったとしても、株主総会が適法なのは当然なので、何の限定もいらないようにも思えます。今回の対処を考えるQ&Aなので、「現下の状況において」と書かれても、別に邪魔になるわけではないし、Q&Aに問題があるという趣旨ではないのですが、論理的にはどうでしょう。

塚本 私はそのように理解しております。「現下の状況においては」というのがなくとも導くことができる結論であると考えています。

飯田 私も同じ意見です。ただ、株主が誰も来なかったときに、総会が物理的に開かれてないから総会決議不存在だと言われないかとか、そういう懸念に対して大丈夫ですよと言っているのかなと思いました。

藤田 書面投票をした場合は決議との関係では出席扱いなので、株主総会決議不存在にはそもそもなり得ないと思いますが、現場に誰もいない=不存在というナイーブな受け止め方をする人がいないとも限らないということでしょうかね。いずれにせよ、「現下の状況」の有無に関わらず、一般論としても正しい話ですね。

 ついでに聞きたいのですけれども、誰も株主が来なかったら、その場で皆さん何をするのでしょう。やっぱり記録を残さなければいけないから、議長が誰もいない会場に向けて議案を読み上げて、粛々と進めるのでしょうか。

三笘 たぶん粛々とやるのだと思いますが、ただ、誰も来ないといった場合に、役員で株を持っている人が誰もいないということは普通はないので、そうすると、たとえば社長は株を持っているので社長が1人でやるというのもあるのかもしれません。いずれにせよ、株主ゼロというのは、ちょっと現実問題としてはあり得ないと思っています。

藤田 Q&Aが「設定した会場に株主が出席していなくても」というのは、役員等を除いた、株主席に座る株主がゼロということかと思って読んでいました。しかし、役員は株主資格でもその場にいると考えるなら、確かに株主ゼロというのはないことになりそうですね。

 人数制限について、事前登録制を採用してもよいとQ3で書いてありますけれども、人数制限は実際にはどんな形でやるのでしょうか。事前登録という形をとるのでしょうか。適法性は別として、IR的な観点も含めてですけれども。

塚本 6月総会の会社はまさに現在検討中というところでして、事前登録した人から優先して入れていくのかとか、あるいは事前登録した人だけに限定して入場を認めるのかなど、いろいろと検討しなければならない点はあると感じています。

藤田 会場には何人ぐらいしか入れませんということを事前にアナウンスすることは考えられるのですか。

塚本 それくらいの人数しか入れないというのをあらかじめ株主に理解してもらうために、おおよその人数を招集通知に記載することも考えられるかと思います。

三笘 今年に関して言えば、例年とは異なる会場のレイアウトができるタイミングと招集通知の校了のタイミングの問題があるので、招集通知に人数を入れ込めるかどうか、よくわからないです。

藤田 人数はともかく、さっき三笘さんがおっしゃったような、会場は一見すかすかでも入場させないことがありますよといったことは事前にアナウンスしておいたほうが混乱防止には役立つ気はするのですけれどもね。

三笘 それはそうでしょうね。その点に加えて、事前登録の数が増えてしまってキャパをオーバーしてしまった場合に、どの人を入れてどの人を入れないかという選択のところでまた何かもめるといけないので、そこのルールもあらかじめ決めておかないといけないのではないかと思います。

藤田 事前登録が意外と難しそうだと思ったのは、事前登録したのに入れないという事態が生じると、すごくイメージが悪い上に、制限の仕方が不適切だ、合理的ではないと言われる危険すらあるからです。また事前登録人数についてシステム上制限を設け、たとえば早い者勝ちで50人を超えたら登録できないようにしたりすると、事前登録したのに入れないという事態は防げるのですが、それはそれで株主から文句が出そうな気もします。事前登録は、設計の仕方を誤るといろいろな不満の原因になりそうで、かえって会社を苦しい立場に追い込むことがなければいいと思うのですが。最初、実際に事前登録制にするのですかと聞いたのは、そんなことも意識してのところです。各会社は、事前登録を採用する方向で検討しているのですか。

塚本 ここまでのところの印象としては、それほど多くなさそうです。来場株主の大まかな人数を把握するために事前登録制とすることを検討しているケースもあるようです。

藤田 アンケートとしての登録ですね。

塚本 そうです。アンケート的な趣旨で検討している会社もあります。

藤田 しかし、「人数を把握するためにお伺いしているのであって、登録しないと入れないという趣旨ではありません」等と書いてしまうと、たとえば50人ぐらいの部屋を用意しようと思っていたところ、事前登録者が100人出てきてしまったときに、100人の部屋が用意できていないことが通知の趣旨と異なり合理性を欠くと言われてしまう危険はないですか。参加希望者数調査のアンケートだったら、それに対応した部屋を用意しろということになりかねない。

三笘 ただ、実際には、会場は1年前から決まっていて、登録の人数を見て場所を変えるということができないので、そこのキャパの範囲で何%までは事前登録者を優先入場させて、何%を当日の人に残す、つまり、電車で言うところの指定席と自由席みたいな形で振り分けるとか、指定席についても先着順にするのか、それとも抽選にするのか、抽選にするのであれば、いつ当選発表をするのかとか、そういうものを考えていくのは結構面倒なので、実際にやるか、やるとしてどういうやり方をするかというのは、これからいろいろ実務面を詰めていかないといけない問題だと思っています。

(4) Q4に関して

Q4. 発熱や咳などの症状を有する株主に対し、入場を断ることや退場を命じることは可能ですか。

(A) 可能です。
 新型コロナウイルスの感染拡大防止に必要な対応をとるために、ウイルスの罹患が疑われる株主入場を制限することや退場を命じることも、可能と考えます。

藤田 Q4では、発熱や咳などをしている株主について、入場を断ること、退場を命じることは可能だと書かれています。たしか、以前新型インフルエンザが流行したときの議論だったと思いますが、京都大学の前田先生が同じようなことをお書きでした(大阪株式懇談会『会社法 実務問答集Ⅰ(上)』(商事法務、2017)227~229頁[前田雅弘])。私も、そのとおりで、当然できると思っていたのですけれども、このあたりは実務的には異論があったのでしょうか。むしろ確認的なものと理解してよろしいですか。

三笘 はい、私も当然できると思っています。このQ&Aが出たので、受付で揉めた場合も、経産省と法務省からこういうQ&Aが出ていますからと一言言えば、それで説明が終わるのでありがたいなとは思っています。

藤田 発熱や咳がある株主についてはQ&Aではっきり書かれているのですけれども、たとえばマスクしてない人は入れないとかいうことは可能でしょうか。つまり、その人が感染者であるという兆候がはっきりあるわけではないが、感染拡大防止のための一般予防として必要なことですからということで一定の措置を要求し、従わないなら入れないというのはどうでしょう。

三笘 少なくともマスクの着用は義務づけて、持ってきてない方についてはマスクを渡して装着してくださいとお願いし、それを断られたら入場制限するというのは十分あり得る対応だと思っています。

塚本 私もそのように考えています。特に今回に関しては、新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、マスクの着用を株主の入場の条件にするというのは合理的な対応だと思います。

三笘 ここでのポイントというのは、来場する株主に対応するのは社員なのですけれども、社員の感染リスクをどうやって小さくするかということであり、その観点からは、株主と押し問答するというのは非常にまずい状態なのです。つまり、会話を短くして処理できるということが非常に重要なので、そのためにも基準は明確にして、例外はできるだけ認めないで対応できるようにしましょうと会社の方にはお話をしています。

藤田 感染している株主だから権利を制限してよいといった議論なのではなくて、感染リスクの低減のための合理的な措置は現場で当然にとることができ、合理性がある画一的な取扱いであれば正当化されるということですね。

三笘 そう思っています。

藤田 あまり異論がないようですので、Q5に行きたいと思います。

(5) Q5に関して

Q5. 新型コロナウイルスの感染拡大防止に必要な対応をとるために、株主総会の時間を短縮すること等は可能ですか。

(A) 可能です。
 新型コロナウイルスの感染拡大防止に必要な対応をとるために、やむを得ないと判断される場合には、株主総会の運営等に際し合理的な措置を講じることも、可能と考えます。

 具体的には、株主が会場に滞在する時間を短縮するため、例年に比べて議事の時間を短くすることや、株主総会後の交流会等を中止すること等が考えられます。

藤田 Q5は、感染拡大防止に必要な措置、たとえば株主総会の時間を短縮する等の措置をとることは可能ですかという問いに対して、できるという答えが書かれています。これも、最初読んだ時は、当たり前だろうと思ったのですけれども、「合理的な措置」ということの内容次第かもしれないと思い直しました。すなわち、もともと株主総会の時間については、議長の裁量が認められます。そして通常認められる裁量の範囲内であれば、短縮しても違法の問題が生じる余地はない。ただ、普段の状況下ならば議長の裁量の範囲を超える可能性があるぐらい短縮したり、質問を制限したりすることをしても構わないかというところまで踏み込んで考えると、答えはそうそう自明ではなってくる。Q5は、通常の裁量の範囲内でやれる措置ではなくても、今回は特殊な状況下なのでできると言っているのでしょうか。

飯田 この状況下で会議をたとえば30分以上リアルでやること自体がリスクであって、株主共同の利益に反するなどと言えるように思いますので、そういうことはできる。そういうことというのは、質問打切りを早くするとか、あるいは説明義務についても、無理があるかもしれませんけれども、会社法施行規則の71条4号の「説明をしないことにつき正当な理由」というところで、今回の事態があるから、早く終わることにまさに正当な理由があるんだということすらも言ってもいいのかなというぐらいの感触で私はいます。

藤田 株主共同の利益からの株主の権利の制約というのは、よくある議論ですが、感染リスクの云々というのは、むしろ従業員の利益だったり、公益だったりもする。そういう利益によって正当化していいということでしょうか。

飯田 私はそう思います。確かに、このタイミングでリアルに集まること自体がそもそも社会的に感染リスクを広げているので、公益に反する面もあります。また、総会の準備や当日の運営に携わる役員や従業員にも感染リスクはあるので、従業員の利益のことも考えることになります。あるいは、株主が会場に来て議事が始まった後のことは、その場にいる株主の利益のことと割り切って、株主利益の視点からの株主の権利の制約として理解してもいいのかもしれません。いずれにしろ、現在の状況下では、広い意味で合理性がある制限を、普段ならできないことですらある程度できると考えてよいのではないかと思います。

藤田 Q&Aの読み方としてはどうでしょうか。よくわからなかったのは、Q5の回答には、「株主が会場に滞在する時間を短縮するため、例年に比べて議事の時間を短くすることや、株主総会後の交流会等を中止すること等」が例示されています。しかし、もともと毎年同じぐらいの長さ総会をやらなくてはならない義務があるわけではないですし、株主総会の後の交流会を行うことも法的義務ではない。だからここで書かれている例は、もともとおよそ違法になりようのない話です。今、飯田さんが言われた内容は、実質としては私も賛成なのですが、Q&A自身はそこまで射程が及ぶのでしょうか。

飯田 私の立場から読むと、そう読めたというだけですけれども、客観的にはQ&Aはそこまでのことは言ってなくて、もともと当然できることを書いてあるだけのものであるというほうがむしろ素直な読み方かもしれません。

藤田 もしQ&Aの射程がかなり短くて、飯田さんのような解釈ができるかどうかはQ&Aそれ自体とは別の解釈論だとするなら、その解釈論の是非も確認したい気もします。三笘さんや塚本さんも飯田さんに近いような感覚で実務的にも運用できるとお考えですか。

三笘 私は、もともといつもやっている株主総会というのは法的に必要だというレベルを超えて、上乗せでいろんなサービスを提供しているという認識でいますので、今回については上乗せサービスはしません、必要最低限しかやりませんということを大手を振って皆さん実行してくださいということを後押ししているのがQ5の話かなと解釈しています。ですから、このQ5のとおりしたとしても違法という話は出てこないし、これは平時であっても別に違法にはならないけれども、IR的にどうかと言われれば、いろんな考え方があるだろうという整理で考えています。

藤田 普段やっても違法じゃないことを確認しているだけの文書と考え、普段であれば許されないことについては完全にブランクだとすれば、三笘さんは、そういうことをすることにはやっぱり慎重にすべきだという立場なのでしょうか。

三笘 とりあえずここのQ&Aは急いで出さなければならなかったと思われるので、平時についてはどうなのかという議論をすっ飛ばして、今年について、あるいはコロナウイルス問題がある状況下においてはということで、あえて射程を狭くして異論が出ないように作っただけで、そこの条件が外れたら反対解釈をしなさいという趣旨ではないと思っています。

藤田 Q&A自体は、平時の上乗せのサービス部分はなくしても何の問題もないですよという、おそらく誰にとっても異論のないことだけをとりあえずは言っている。この文書の読み方としては、塚本さんもその感覚ですか。

塚本 この文書自体としては、そのように読むのが素直であると思います。ただ、実務的には、特に質疑応答の時間をどこまで短縮することができるか、どこまで短縮しても違法でないのかというのが大きな関心事になっていますので、Q5のこの記載を捉えて、通常であれば違法と考えられるような短縮化も今回に限っては適法なものとしてできるというメッセージを読む余地もあると思います。

藤田 Q&Aの厳密な射程はともかく、塚本さんの解釈、意見としては、それは可能だという前提ですね。

塚本 はい。

藤田 総会の時間の長さだけでなく、説明義務の履行についても、普段だったら、ひょっとしたら違法・適法の問題が生じるぎりぎりのところをやっても、ひょっとしたら違法なことをやったとしても、今回の特殊な状況かを勘案すれば正当化される余地は十分あるということでしょうか。

塚本 はい。

藤田 わかりました。Q&A自体の読み方としてはもともと議長の裁量の範囲に含まれているような話を扱っていると読むのが慎重で間違いない読み方ではある。そして、三笘さんがおっしゃったように、平常時の総会実務というのが、適法・違法のラインから相当上乗せして慎重にしている部分があるのであれば、裁量の範囲というのは相当広いことになり、今回のコロナウイルス関係の対処ができる程度のことはおそらくは十分やれる。そこから先の、平時だと裁量の範囲を超えることまで、緊急事態ということで行ってよいかどうかについては、人によって読み方が変わるかもしれないが、することができるという解釈も十分成り立ち得るということでしょうか。

 Q&Aだけでかなり時間をとってしまいましたが、次に進みたいと思います。

(下)につづく

[2020年5月1日脱稿]

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