◇SH3313◇「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を改定~副業・兼業の場合における労働時間管理等についてルールを明確化 松原崇弘(2020/09/18)

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「副業・兼業の促進に関するガイドライン」の改定

~副業・兼業の場合における労働時間管理等についてルールを明確化~

岩田合同法律事務所

弁護士 松 原 崇 弘

 

1 はじめに

 厚生労働省は、労働政策審議会労働条件分科会及び安全衛生分科会において、副業・兼業の場合における労働時間管理・健康管理について検討を行い[1]、令和2年9月1日付けで「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(平成30年1月策定)を改定し、公表した。

  本ガイドラインの改定により、副業・兼業の場合における労働時間管理及び健康管理についてルールが明確化された。本稿では、労働者との間でトラブルになりやすい労働時間の管理について紹介する。

 

2 労働時間管理

(1) 労働時間の通算等

 労働者が別の企業で副業・兼業する場合、すなわち、事業主を異にするときも、複数の事業場で労働する場合にあたると解され、労働基準法第38条第1項に基づき、労働時間を通算して管理することが必要とされる[2]。これにより、使用者は、以下に記載の対応が必要となる。

  1. 1) 通算の必要性の確認
  2.    事業主の立場での業務や委任、請負に基づく業務など労働時間規制が適用されない場合には、その時間は通算されない。まずは、「労働基準法に定められた労働時間規制が適用される労働者」に該当するか否かを確認する。
     
  3. 2) 副業 ・兼業の確認
  4.    労働者からの申告等により、副業・兼業の有無・内容を確認する。
     先だって、使用者は、届出制(厚生労働省「モデル就業規則」(平成31年3月版)第68条第2項参照)など、副業・兼業の有無・内容を確認するための仕組みを設けておく。なお、運用上、申告等により労働者に対して不利益を課さないよう留意されたい。
     
  5. 3) 労働時間の通算
  6.    副業・兼業を行う労働者を使用する全ての使用者は、労働時間を通算して管理する必要がある。法定労働時間、時間外労働の上限規制(単月100 時間未満、複数月平均80時間以内)については、労働時間を通算して適用される 。
     労働時間の通算は、自社の労働時間と、労働者からの申告等により把握した副業・兼業先(他社)の労働時間を通算することによって行う。

  1. ・ 副業・兼業の開始前に、自社の所定労働時間と他社の所定労働時間を通算して、法定労働時間を超える部分がある場合には、その部分は後から契約した会社(後の副業・兼業先)の時間外労働となる。
  1. ・ 副業・兼業の開始後に、所定労働時間の通算に加えて、自社の所定外労働時間と副業・兼業先の所定外労働時間を、所定外労働が行われる順に通算して、法定労働時間を超える部分がある場合には、その部分が時間外労働となる。

  1. 4) 時間外労働の割増賃金の取扱い
  2.    上記 3) の労働時間の通算によって時間外労働となる部分のうち、自社で労働させた時間について、時間外労働の割増賃金を支払う必要がある。
     なお、労働時間を通算して法定労働時間を超える場合には、長時間の時間外労働とならないようにすることが望ましいことに変わりない。

(2) 簡便な労働時間管理の方法

 本ガイドラインは、上記(1)の3)4)のほかに、労働時間の申告等や通算管理における労使双方の手続上の負担を軽減し、労働基準法が遵守されやすくなる簡便な労働時間管理の方法(以下「管理モデル」)によることができると規定している。

 「管理モデル」では、副業・兼業の開始前に、先契約の企業の法定外労働時間と後契約の企業(副業・兼業先)の労働時間について、上限規制(単月100時間未満、複数月平均80時間以内)の範囲内でそれぞれ上限を設定し、それぞれについて割増賃金を支払うこととする。これにより、副業・兼業の開始後は、副業・兼業先(他社)の実労働時間を把握しなくても労働基準法を遵守することが可能となる。

 

(厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン<概要>」の図を元に、先契約の企業を自社として作成)

 

 「管理モデル」は、先契約の企業が、副業・兼業を行おうとする労働者に対して管理モデルによることを求め、労働者及び労働者を通じて副業・兼業先(後契約の企業)が応じることによって導入できるものとされ、先契約の企業が単独で採用できるものではない点に留意する必要がある。

 

3 実務への影響

 副業・兼業については、これを希望する者が年々増加傾向にあるとされ、裁判例では、労働者が労働時間外の時間をどのように利用するかは、基本的に自由であるとされている。

 企業としても、副業・兼業を認めるメリットとして、労働者が社内では得られない知識・スキルを獲得できることや、優秀な人材の獲得・流出の防止ができ、競争力が向上することが挙げられており、今後、副業・兼業を認める企業が、一層増加するものと考えられる。

 他方で、企業は、労働者に対して安全配慮義務(労働契約法第5条)を負っており、労働時間の管理や健康管理等を適切に講じなければならない。異なる企業、複数の事業場においてこれらの管理を行うことは、副業・兼業という新しい働き方に起因する新たな管理業務にあたるため、企業内でノウハウが十分ではない面もあり、躊躇する企業もあったかと考えられる。本ガイドラインは、労働時間の管理等に関するルールを明確化したものであるから、今後の実務の指針として役立つものといえよう。

以上

 

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