◇SH3813◇タイ:事業更生手続の利用促進のための破産法改正案に関する閣議承認(2) 中翔平(2021/11/02)

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タイ:事業更生手続の利用促進のための破産法改正案に関する閣議承認(2)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 中  翔 平

承前

2.1. 通常の事業更生手続・簡易事業更生手続の申立要件の債務総額の変更

 本改正案においては、通常の事業更生手続の申立要件として求められる債務総額の下限が従来の1,000万バーツ以上から、5,000万バーツ以上に引き上げられている。その結果として、簡易事業更生手続の申立要件としての法人の債務総額の上限も5,000万バーツ未満まで引き上げられている。

2.2. 簡易事業更生手続の対象債務者の変更・更生計画の事前提出要件の撤廃

 現行のSME向け事業更生手続を利用できる債務者は、一定の要件を満たす製造業、卸売業又は小売業その他のサービスに係る中小ビジネスを営む者で、中小企業振興事務局に登録されている自然人、パートナーシップ、法人等に限定されていた。もっとも、本改正案では、簡易事業更生手続の対象となる債務者の要件から、中小企業振興事務局への登録要件が削除されており、広く自然人、組合、法人等が簡易事業更生手続を利用できる。また、現行のSME向け事業更生手続では、申立時に債権者の承認済み更生計画の提出が必須とされていたが、簡易事業更生手続ではかかる要件も撤廃されている。そのため、本改正案により、事業規模が比較的小さい事業者による事業更生の利用が促進されることが期待される。

2.3. 簡易事業更生手続における更生計画の承認要件の変更

 現行のSME向け事業更生手続において、債権者から更生計画の承認を得るためには、事業から生じた債務額の3分の2以上を有する債権者からの承認を必要としていた。本改正案では、かかる要件を満たしていなくても、少なくとも1つの債権者グループから債権者の過半数の承認を得て、かつ、更生計画に賛成した全債権者の総債権額が全債権者の総債権額の50%以上である場合には、更生計画が承認されるものとしており、更生計画の承認要件が緩和されている。なお、かかる要件は、簡易事業更生手続の適格要件を満たす債務者が、簡易事業更生手続及びプレ・パッケージ型事業更生手続のいずれを利用する場合でも適用される。

2.4. 通常の事業更生手続・簡易事業更生手続の手続上の主な相違点

 上記のとおり、本改正案においては、簡易事業更生手続を申し立てるにあたって、債権者の事前の承認を得た更生計画の提出が求められなくなったことで、簡易事業更生手続は、相当程度、通常の事業更生手続に似た手続きになったと言えるが、通常の事業更生手続と簡易事業更生手続では想定される案件の規模や対象とする債務者の属性の範囲の違いから、主に以下の各事項につき相違点が見られる。

 

手続類型 オートマティックステイのタイミング 担保権実行の禁止期間 債権者グループ
通常の事業更生手続 事業更生手続の申立ての受理時 1年(但し、6ヶ月の延長が、最大2回可能)
  1. 担保権者(債権額による分類あり)
  2. 無担保権者(債権の性質による分類あり)
  3. 劣後債権者
簡易事業更生手続 事業更生手続開始決定時
(但し、早期の効力発生申請は可能。)
6ヶ月(但し、3ヶ月の延長が、最大2回可能)
  1. ・ 担保権者
  2. ・ 事業債権者
  3. その他債権者
 

 簡易事業更生手続では申立ての受理と同時にオートマティックステイの効力は発生せず、原則として、事業更生手続開始決定時に初めてオートマティックステイの効力が発生するため、かかる効力を早期に得たい場合には、別途の申請が必要になる点に留意が必要である。また、債権者のグルーピングについても、簡易事業更生手続は、通常の事業更生手続に比べ、シンプルなグルーピングを行うことになっており、手続の迅速化を意識したものになっている。

2.5. プレ・パッケージ型事業更生手続の導入

 本改正案では、上記のとおり、現行のSME向け事業更生手続において課されていた、申立時の債権者の承認済み更生計画の提出要件を現行のSME向け事業更生手続に代わる簡易事業更生手続の要件から撤廃している。他方で、事業更生手続開始前に債権者から更生計画の承認を得る事業更生手続の形態を広く事業者に認めるため、新たにプレ・パッケージ型事業更生手続の制度を導入している。かかる制度はアメリカの再建型倒産手続であるチャプター11で認められている事前調整型の類型を意識したものと思われる。プレ・パッケージ型事業更生手続は、簡易事業更生手続の対象となる債務者のみならず通常の事業更生手続の対象となる債務者も利用することが可能である。

3. 終わりに

 本改正案では、主に事業規模の大きくない事業者による事業更生手続の利用をより容易にかつ促進するための提案がなされている。他方で、簡易事業更生手続の適用範囲が広がったことやプレ・パッケージ型事業更生手続の導入により、事業状況、事業規模及び債権者との関係性等を踏まえて、どの事業更生手続を利用するかの選択が可能になることから、今後の倒産実務に影響を及ぼす可能性がある。倒産手続に関する法令は、最新の情勢に合わせてより利便性の高い手続とするべく断続的に改正が行われており、本改正案もその一環として、引き続き動向を注視する必要がある。

 


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(なか・しょうへい)

2013年に長島・大野・常松法律事務所に入所。プロジェクトファイナンス、不動産取引、 金融レギュレーション及び個人情報保護の分野を中心に国内外の案件に従事。2020年5月 にUniversity of California, Los Angeles School of Lawを卒業後、2020年12月より当事務所 バンコク・オフィスに勤務。現在は、主に、在タイ日系企業の一般企業法務及びM&Aのサ ポートを中心に幅広く法律業務に従事している。

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