SH3354 有期契約労働者(アルバイト職員)に対する賞与の不支給が不合理とはいえないと判断した最高裁判決(最三小判令和2年10月13日) 鈴木智弘(2020/10/23)

そのほか労働法

有期契約労働者(アルバイト職員)に対する賞与の不支給が
不合理とはいえないと判断した最高裁判決(最三小判令和2年10月13日)

岩田合同法律事務所

弁護士 鈴 木 智 弘

 

 最高裁判所第三小法廷は、令和2年10月13日、正職員(無期契約労働者)に対して賞与を支給する一方で、アルバイト職員(有期契約労働者)である第一審原告(以下「X」という。)に対してこれを支給しないという労働条件の相違は、労働契約法(平成30年法律第71号による改正前のもの。以下同じ。)20条にいう不合理と認められるものに当たらないという判決(以下「本判決」という。)を言い渡した。なお、同小法廷では同日に有期労働契約を締結した労働者への退職金の不支給が不合理であるとは認められないと判断した判決(いわゆるメトロコマース事件)が言い渡されたが、紙幅の関係から賞与の不支給に関する本判決(いわゆる大阪医科薬科大学事件)に限定して解説する。

 

1 事案の概要・争点

 本件は、第一審被告(学校法人大阪医科薬科大学。以下「Y」という。)と有期労働契約を締結して教室事務を担当するアルバイト職員として勤務していたXが、無期労働契約を締結している正職員とXとの間で、賞与等の労働条件に相違があったことは、労働契約法20条に違反するものであったとして、Yに対し、不法行為に基づき、上記相違に係る賃金に相当する額等の損害賠償を求めた事案である。

 労働契約法20条の規定は以下のとおりであり、同条の趣旨について本判決では「労働契約法20条は、有期労働契約を締結した労働者と無期労働契約を締結した労働者の労働条件の格差が問題となっていたこと等を踏まえ、有期労働契約を締結した労働者の公正な処遇を図るため、その労働条件につき、期間の定めがあることにより不合理なものとすることを禁止したもの」であると述べられている[1]

 【参考】改正前労働契約法

  1.   第20条(期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止)
  2.    有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。

 

2 第一審及び控訴審の判断

 第一審(大阪地判平成30・1・24労判1175号5頁)では、アルバイト職員については、正職員と同様の長期雇用に関するインセンティブが想定できない上、雇用期間が一定ではないことから、賞与算定期間の設定等が困難である等の諸事情を総合的に勘案すると、「正職員について賞与を支払い、アルバイト職員には支払っていないとしても、労契法20条に違反する不合理な労働条件の相違があるとまでは認められない」と判断し、Xの請求を棄却した。

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(すずき・ともひろ)

岩田合同法律事務所アソシエイト。2013年慶應義塾大学法学部卒業。2015年弁護士登録。

岩田合同法律事務所 http://www.iwatagodo.com/

<事務所概要>
1902年、故岩田宙造弁護士(後に司法大臣、貴族院議員、日本弁護士連合会会長等を歴任)により創立。爾来、一貫して企業法務の分野を歩んできた、我が国において最も歴史ある法律事務所の一つ。設立当初より、政府系銀行、都市銀行、地方銀行、信託銀行、地域金融機関、保険会社、金融商品取引業者、商社、電力会社、重電機メーカー、素材メーカー、印刷、製紙、不動産、建設、食品会社等、我が国の代表的な企業等の法律顧問として、多数の企業法務案件に関与している。

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