◇SH3441◇「発信者情報開示の在り方に関する研究会 最終とりまとめ」が確定・公表――裁判所による開示命令・提供命令・消去禁止命令の創設など、 プロバイダの手続負担軽減では脚注の追記も (2021/01/12)

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「発信者情報開示の在り方に関する研究会 最終とりまとめ」が確定・公表

――裁判所による開示命令・提供命令・消去禁止命令の創設など、
プロバイダの手続負担軽減では脚注の追記も――

 

 総務省は2020年12月22日、「発信者情報開示の在り方に関する研究会 最終とりまとめ」を公表するとともに、同年11月14日~12月4日に行った意見募集結果を発表した。

 発信者情報開示の在り方に関する研究会(座長:曽我部真裕京都大学大学院法学研究科教授)では4月30日に初会合を開催、8月31日には「発信者情報開示の在り方に関する研究会 中間とりまとめ」を公表するに至った(SH3297 「発信者情報開示の在り方に関する研究会 中間とりまとめ」が新たな裁判手続の創設など提言――電話番号開示は省令改正済み、裁判手続創設は11月目途に最終とりまとめへ (2020/09/08)既報)。9月以降も検討を継続した同研究会は、10月12日に開催した第8回会合では「最終とりまとめに向けた主な論点」について審議するなどし(SH3353 発信者情報開示の在り方に関する研究会、「最終とりまとめに向けた主な論点」を公表 足立 理(2020/10/22)参照)、第10回会合(11月12日開催)において「最終とりまとめ(案)」を策定、11月14日に意見募集に付していた。

 意見募集には39件(意見提出者数)の意見が寄せられており、12月21日付で取りまとめられた意見募集結果によると、「被害者救済という法益と、表現の自由等の確保という法益だけでなく、中間とりまとめと同様、プロバイダの手続負担の軽減という要素も本とりまとめに明記すべきである」「ログイン時情報を開示対象に含めるにあたっては、ログイン時情報を収集するプロバイダの負担にも配慮した制度設計とすべきである」(以上、楽天株式会社)、「プロバイダの負担にも配慮した制度設計とすべきであると考えます。また、開示請求に対応するプロバイダが混乱しないような設計とすることが適切だと考えます」(一般社団法人ソーシャルメディア利用環境整備機構)といった意見を受け、「第1章 発信者情報開示に関する検討の背景及び基本的な考え方について」中の「3.検討に当たっての基本的な考え方」に据えられた末文「したがって、具体的な制度設計に当たっては、常にこの観点に留意しながら検討を深めることが適当である」には、脚注9「その他、プロバイダの負担という観点にも留意が必要である。」が追記された(「最終とりまとめ」5頁参照。以下同様)。その他体裁面を含む修正前後の状況については、第11回会合(12月21日開催)時の配布資料11-2「(参考)第10回会合配付資料からの修正箇所」を適宜参考とされたい。

 今般、確定・公表に至った「最終とりまとめ」は全4章を「第1章 発信者情報開示に関する検討の背景及び基本的な考え方について」「第2章 発信者情報の開示対象の拡大」「第3章 新たな裁判手続の創設及び特定の通信ログの早期保全」「第4章 裁判外(任意)開示の促進」と構成する37頁建て。上記・第2章によると、ログイン時のIPアドレスおよびタイムスタンプ(以下「ログイン時情報」という)を開示情報とすることについては「権利侵害投稿の通信とログイン時の通信とが、同一の発信者によるものである場合に限り、開示できることとする必要がある」(8頁参照)と発信者の同一性を画するなどしたうえで、「発信者情報の開示対象としての『ログイン時情報』については、開示対象となるログイン時情報等の発信者情報の範囲や、請求の相手方となる『開示関係役務提供者』の範囲について見直しを行う観点から、法改正及び省令改正を行うことが適当である」(11頁参照)と結論付けた。

 また、「中間とりまとめ」において「検討を進めていくことが適当」としていた上記・第3章の「新たな裁判手続の創設」に係る「例えば、法改正により、発信者情報開示請求権という実体法上の請求権に基づく開示制度に代えて、非訟手続等として被害者からの申立てにより裁判所が発信者情報の開示の適否を判断・決定する仕組み」については、「発信者の権利利益の確保に十分配慮しつつ、迅速かつ円滑な被害者の権利回復が適切に図られるようにするという目的を両立した制度設計が求められることから、開示可否について1つの手続の中で判断可能とした上で、現行法上の開示請求権を存置し、これに『加えて』非訟手続を新たに設けることを前提として、非訟手続の具体的な制度設計を検討することが適当である」(15頁参照)とした。

 このような新たな非訟手続を巡って上記・第3章の「特定の通信ログの早期保全」に寄与すると考えられるのが、裁判所が①コンテンツプロバイダ及びアクセスプロバイダ等に対する発信者情報の開示命令、②コンテンツプロバイダが保有する権利侵害に関係する発信者情報を、被害者には秘密にしたまま、アクセスプロバイダに提供するための命令(提供命令)、③アクセスプロバイダに対して、コンテンツプロバイダから提供された発信者情報を踏まえ権利侵害に関係する発信者情報の消去を禁止する命令(消去禁止命令)――という3つの命令を発することができるとする手続の創設である(17頁以下参照)。

 当事者構造としては「現行制度と同様に、プロバイダが直接的な当事者となり、発信者への意見照会により発信者の権利利益の確保を図る構造を維持することが適当である」(22頁参照)、「ただし、開示手続の途中で発信者から追加的に意見を述べたい旨の意向が示された場合や、発信者自らが匿名化の責任を負った上で裁判所に書面により意見を提出したいという意向が示された場合には、プロバイダは可能な限り発信者の意向を尊重した上で、個別の事案に応じて適切な対応を図ることが望ましいと考えられる」(26頁参照)などとされた。

 なお、非訟手続であることから、裁判所の「開示判断に係る事例の蓄積と透明性」の課題として、30頁においては「新たな裁判手続における開示可否判断の理由の記載については、裁判所において適切な運用が図られることを前提として、後述の裁判外(任意)開示においてプロバイダが円滑に開示可否の判断を行うことを可能とすること等を目的に、事業者団体及びプロバイダを中心に、関係者間で開示可否に関する事例の蓄積を図り、ガイドラインなどに追記していくことが望ましい」と言及。この点について「(その)決定に際して、決定の『理由』が記載されるべき」であるとする端的な意見が複数の団体から提出されたほか、「ガイドラインの公表だけでなく、同議論の推移についての公表を行っていくべき」「ガイドラインへの追記のみではなく、総務省の『特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律-解説-』においても反映すべき」といった意見も寄せられている(意見募集結果46・47頁参照)。

 

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