◇SH2330◇企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令 佐藤修二(2019/02/12)

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企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令

岩田合同法律事務所

弁護士 佐 藤 修 二

 

1. 「記述情報」開示を求める開示府令の改正

 本年1月31日、企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令が公布された(以下、改正後の内閣府令を「改正府令」という。)。

 改正府令は、平成30年6月の金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ(座長:神田秀樹学習院大学教授)の報告(以下「WG報告」という。)における、①財務情報及び記述情報の充実、②建設的な対話の促進に向けた情報の提供、③情報の信頼性・適時性の確保に向けた取組、の三点につき適切な制度整備を行うべきとの提言を踏まえたものである。改正の全体像は末尾の表のとおりであるが、本稿では、WG報告上も三本柱の冒頭に位置付けられた、記述情報の開示について取り上げる。

 なお、改正府令の施行時期については、上記②に対応する項目(末尾表の「建設的な対話の促進に向けた情報の提供」記載の項目)は、平成31年3月31日以後に終了する事業年度(3月末決算企業の場合、本年3月期)に係る有価証券報告書等から、上記①及び③に対応する項目については、平成32年3月31日以後に終了する事業年度(3月末決算企業の場合、来年3月期)に係る有価証券報告書等から適用するものとされている(金融庁HP《https://www.fsa.go.jp/news/30/sonota/20190131.html》参照)。

 

2. 改正の概要と背景

 改正府令では、有価証券報告書において、記述情報に関連して、以下の三つの内容の開示が新たに求められる。

  1. ⑴ 経営方針・経営戦略等について、市場の状況、競争優位性、主要製品・サービス、顧客基盤等に関する経営者の認識の説明を含めた記載を求める(改正府令第二号様式記載上の注意(30))。
  2. ⑵ 事業等のリスクについて、顕在化する可能性の程度や時期、リスクの事業へ与える影響の内容、リスクへの対応策の説明を求める(同・記載上の注意(31))。
  3. ⑶ 会計上の見積りや見積りに用いた仮定について、不確実性の内容やその変動により経営成績に生じる影響等に関する経営者の認識の記載を求める(同・記載上の注意(32)a(g))。

 上記開示項目追加の背景となったWG報告は、財務情報とは金商法193条の2にいう「財務計算に関する書類」において提供される情報をいうものとしつつ、記述情報とは、開示書類において提供される情報のうち、財務情報以外の情報を指すことが一般的である、とする(WG報告2頁脚注1)。その上で、記述情報は、「企業の財務状況とその変化、事業の結果を理解するために必要な情報であり、①投資家が経営者の視点から企業を理解するための情報を提供し、②財務情報全体を分析するための文脈を提供するとともに、③企業収益やキャッシュ・フローの性質やそれらを生み出す基盤についての情報提供を通じ将来の業績の確度を判断する上で重要とされている。このため、投資判断に必要と考えられる記述情報が、有価証券報告書において、適切に開示されることが重要である」との認識を示す(同2頁)。

 一方、我が国の実情については、「経営トップが経営戦略・財務状況・リスクやガバナンスに関する情報等について明確な考えを持っていれば、その考えを反映した充実した開示を行うことができる。……他方、一部の我が国企業においては、そもそも経営戦略・財務状況・リスク等について十分に議論されていないのではないかとの指摘もなされている。企業としてこれらの課題についての明確な考えを持ち合わせていなければ、積極的な開示姿勢をとれず、ルールに対応するだけの形式的・定型的な開示にならざるを得ない。そのような企業においては、持続可能性にも問題を生じかねず、中長期の投資家にとって投資対象とならずに、むしろ、一部の短期投資家が企業分析に立脚せずに値動きを追う対象となり投資家不信を招く結果ともなりうる」と手厳しい(同9頁)。

 WG報告に至る検討過程では、米国の投資銀行・ファンドとの意見交換も実施され(同ⅲ頁)、WG報告の問題意識として、海外投資家のプレゼンスや諸外国における記述情報開示の進展が掲げられているように(同1頁)、改正府令は、英米の潮流を踏まえたものとして、「Wコード」(CGコード及びSSコード)に連なるものと言えよう。

 WG報告は、企業の開示実務に資するよう、プリンシプルベースのガイダンスの策定も提言し(同9頁)、これを受けて金融庁は、「記述情報の開示に関する原則(案)」を公表済みである。3月末決算企業は、こうした金融庁の情報発信を参考に、来年3月期の有価証券報告書に向けて、開示すべき内容を検討すべきこととなろう。

 

<改正府令の概要>

財務情報及び記述情報の充実

  1.   経営方針・経営戦略等について、市場の状況、競争優位性、主要製品・サービス、顧客基盤等に関する経営者の認識の説明を含めた記載を求める。
  2.   事業等のリスクについて、顕在化する可能性の程度や時期、リスクの事業へ与える影響の内容、リスクへの対応策の説明を求める。
  3.   会計上の見積りや見積りに用いた仮定について、不確実性の内容やその変動により経営成績に生じる影響等に関する経営者の認識の記載を求める。

建設的な対話の促進に向けた情報の提供

  1.   役員の報酬について、報酬プログラムの説明(業績連動報酬に関する情報や役職ごとの方針等)、プログラムに基づく報酬実績等の記載を求める。
  2.   政策保有株式について、保有の合理性の検証方法等について開示を求めるとともに、個別開示の対象となる銘柄数を現状の30銘柄から60銘柄に拡大。

情報の信頼性・適時性の確保に向けた取組

監査役会等の活動状況、監査法人による継続監査期間、ネットワークファームに対する監査報酬等の開示を求める。

 出典:金融庁HP《https://www.fsa.go.jp/news/30/sonota/20190131.html》を元に作成

 

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