◇SH0125◇「自炊代行サービス」の差止め、知財高裁も支持する判決 深沢篤嗣(2014/11/06)

未分類

「自炊代行サービス」の差止め、知財高裁も支持する判決

岩田合同法律事務所

弁護士 深 沢 篤 嗣

 

1 

 個人が所有する書籍をスキャナー等で電子データ化し、電子端末で閲覧可能にする行為は一般に「自炊」などと呼ばれているが、昨今、これを代行するサービス(以下「自炊代行サービス」という。)を有料で提供する業者(以下「自炊代行業者」という。)も存在している。

 この自炊代行サービスに関して、平成24年に、我が国の著名な小説家、漫画家又は漫画原作者が、自炊代行業者2社等に対し、原告ら(本判決における被控訴人ら)の作品につき自炊代行サービスを提供することの差止め及び損害賠償を求めて東京地方裁判所に提訴しており、平成25年9月30日に、サービス提供の差止め及び損害賠償を認める判決が言い渡され、被告らの一部(本判決における控訴人ら)が控訴していたところ、平成26年10月22日、知的財産高等裁判所により、第一審判決を支持する判決が言い渡されたことから、本稿では、「自炊」を巡る著作権法上の論点につき解説する。

 著作権法においては、「著作権」を構成する具体的権利として、様々な個別的権利が定められており、そのうち同法21条は、「著作者は、その著作物を複製する権利を専有する。」として「複製権」を規定している。

 「自炊」においては、書籍などの著作物を、電子データ化するという、「複製」行為が行われることとなるため、複製権の侵害の有無が問題となる。

 この点、著作物を「複製する」全ての行為が複製権の侵害となるかといえばそうではなく、著作権法は、複製権の制限として、「私的複製」という規定を設けている(同法30条第1項)。同項は、著作物を「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用することを目的とするとき」には、原則として「その使用する者が複製することができる」と規定している。つまり、著作物を個人又は家庭内等で使用するために、その使用する者が著作物を複製することは複製権の侵害にはならないということである。

 本訴訟における主な争点の1つは、「複製」の主体が、自炊代行業者か、あるいはサービスを依頼した利用者かという点であった。

 すなわち、上述したとおり、「複製」の主体が利用者であるといえる場合、それが私的使用目的で行われたものであれば、自炊代行サービスにおいて行われる「複製」は、「私的複製」として複製権の侵害にはならないが、「複製」の主体が自炊代行業者であるとすると、複製物を使用するのは利用者であることから、使用目的の如何に関わらず「その使用する者が複製する」という要件を満たさず、複製権の侵害となるためである。

 本判決は、複製行為の主体とは、「複製の意思をもって自ら複製行為を行う者」をいうと解した上で、裁断した書籍をスキャナーで読み込み電子ファイル化する行為が「複製」行為に当たると認定し、この行為は自炊代行業者が専ら業務として行っており、利用者は複製行為には全く関与していないことなどから、自炊代行業者を「複製」の主体であると判断した。

 また、差止めの可否については、控訴人となった自炊代行業者は、被控訴人を含む作家及び出版社から、今後利用者の依頼があれば自炊代行サービスを提供する予定があるかなどの質問書を受領し、これに対し「予定はない」旨の回答をするとともに、そのウェブサイトにスキャン対応不可の著作者一覧として被控訴人を含む著作者120名を掲載したにもかかわらず、同リストに含まれる作家の作品につき、利用者の注文に応じて自炊代行サービスを提供し、さらに、上記回答を行った翌月である平成23年10月から平成25年1月までの間に、被控訴人の作品を合計557冊スキャンし電子ファイル化して利用者に納品していた。そこで、裁判所は、控訴人は今後も自炊代行サービスの提供を通じて被控訴人らの著作権を侵害するおそれがあり、差止めの必要性も認められるとして、差止め請求を認容した第一審判決を支持し、控訴人らの控訴を棄却した。

 本判決が確定した場合、本件における自炊代行業者と同様の形態の業者が、自炊代行サービスの提供を継続することは困難になると思われる。しかしながら、近時、スマートフォン、タブレット端末等、電子書籍を閲覧可能な電子端末の市場は拡大しており、購入済みの書籍をこういった電子端末で閲覧できるようにすることへのニーズは大きいものと考えられる。権利者側の権利保護の要請を満たした上で、このようなニーズに対応したサービスを提供することが可能となれば、権利者側にとっても新たなビジネスチャンスとなるであろう。

(ふかざわ・あつし)

岩田合同法律事務所アソシエイト。2008年慶應義塾大学大学院法務研究科修了。2009年弁護士登録。2013年4月から2014年3月まで、金融庁証券取引等監視委員会取引調査課に出向、インサイダー取引、相場操縦行為等の調査に携わる。金融法務、企業法務等を専門とする。

岩田合同法律事務所 http://www.iwatagodo.com/

<事務所概要>

1902年、故岩田宙造弁護士(後に司法大臣、貴族院議員、日本弁護士連合会会長等を歴任)により創立。爾来、一貫して企業法務の分野を歩んできた、我が国において最も歴史ある法律事務所の一つ。設立当初より、政府系銀行、都市銀行、地方銀行、信託銀行、地域金融機関、保険会社、金融商品取引業者、商社、電力会社、重電機メーカー、素材メーカー、印刷、製紙、不動産、建設、食品会社等、我が国の代表的な企業等の法律顧問として、多数の企業法務案件に関与している。

<連絡先>

〒100-6310 東京都千代田区丸の内二丁目4番1号丸の内ビルディング10階 電話 03-3214-6205(代表) 

タイトルとURLをコピーしました