◇SH3586◇ガバナンスの現場――企業担当者の視点から 第4回 コーポレートガバナンスに法務部門はどうかかわるべきか 明司雅宏(2021/04/20)

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ガバナンスの現場――企業担当者の視点から
第4回 コーポレートガバナンスに法務部門はどうかかわるべきか

サントリーホールディングス株式会社

法務部長兼コンプライアンス室部長 明 司 雅 宏

 

1 はじめに

 従前の企業の法務部門のコーポレートガバナンスの関わり方というと、機関設計や取締役会の運営(付議事項や報告事項が適切になされているかに始まり、議事録の作成なども含まれるだろう)が中心であったであろう。現在も法務部門が主体的に関与したり、経営企画部門や人事部門などとの連携により対応したりとその関与の幅は企業によってまちまちである。

 しかしながら、急速な企業を取り巻く環境の変化の中で、今後法務部門は、コーポレートガバナンスにどのように取り組んでいくべきか、私見を示すことにしたい。

 

2 CGコード導入後

 2015年のコーポレートガバナンスコード(CGコード)の導入は、前述のようなコーポレートガバナンスに対する法務部門の意識を変えたといえるだろう。従来は会社法に定められていることや判例上「義務付けられている」ことに対応するという姿勢も多かったかもしれないが、コンプライorエクスプレインという今までにない対応を求められ、苦慮した法務担当者も多かったかもしれない。(法務担当者のためというわけではないが、5月1日導入でありながら、総会後6ヵ月の猶予期間が設けられたのもその証左ではないだろうか。)具体的な開示の方法も定められていなかったが、これはコーポレートガバナンスが、会社法のような一律的規制から、各社の経営環境、ステークホルダーなどの違いに応じて、オーダーメードしていくという新たな時代のあくまで序章であったといえる。

 このCGコード対応において、他社の開示事例を集約し、比較し、開示内容を「作文」してしまうという従来の招集通知を作成するような行動様式で対応してしまった場合、企業法務としては、その経営に資するという重要な機能を発揮していないことになる。そして、その姿勢のままであれば、何とか乗り切ったCGコード対応の次の課題に対応することは最早できないのである。(そして、それはCGコードの改定対応では決してない)

 

3 DXとSXとコーポレートガバナンス

 これからのコーポレートガバナンスに必須の視点は、Digital Transformation(DX)とSustainability Transformation(SX)[1]である。DXについては、コロナ禍において、急速に進んだテレワークやLegal Techという些細な話ではなく、データに基づく経営や新たな技術革新、社会及び競争環境の変化が自社にもたらす影響とビジネスモデル、事業構造の変化、これに伴うリスクとチャンスを経営に組み込み開示していく必要があるというものである[2]

 更には地球温暖化をはじめとするサステナビリティ課題への対応も正に経営課題となっている。例えば2050年にカーボンニュートラル、脱炭素化社会の実現という目標は、通常の企業の事業計画からは想定もつかない長期の目標であり、正に長期のVISION策定力と行動力が求められる企業経営への変革である。

 これは、1年後に施行される法律に対応するという従来の企業法務の姿勢と全く異なるものであるが、対応しなければ、企業も社会も生き残れない重要な課題である。

 つまり、DXとSXをコーポレートガバナンスに組み込まなければ、真の意味で、CGコードに対応していると堂々とコンプライできない時代が来ているといえるのである。

 

4 あるべき取り組み方

 これを会社法的に述べると、コーポレートガバナンス、とりわけ取締役会の役割のうち、会社法362条4項の「取締役会は、次に掲げる事項その他の重要な業務執行の決定を取締役に委任することができない。」にある「その他の重要な業務執行」が、企業を取り巻く環境の変化によって、正にTransformationしてきたということであろう。

 そこで、企業法務の担当者がコーポレートガバナンスに関わる態度というのは、従来の「適正に適法に審議・決議されるようにする」といった会社法という法律中心の、まず法律起点のアプローチから、デジタル社会やサステナビリティ課題における企業や社会を取り巻く環境、つまり事業課題や社会課題を起点としてガバナンスを考えていくという関わり方に変化せざるを得ない。そして、開示の観点からもその評価軸自体も取締役会において議論していくという主体的なアプローチとなっていくのである[3]

 資本コストやROEは当然として、TCFDやGRI、更には人権問題や地政学リスクなどを理解しないと、コーポレートガバナンスが理解できない時代になってきているといえるのである。

 CGSガイドライン[4]で提示されているような、「カンパニー・セクレタリー」の専門部署を設置している日本企業はまだ少数派であろう。しかしながら、経営企画部門や、財務部門、IR部門、更には情報システム部門やCSR部門などの部門横断的な「カンパニー・セクレタリー」チームの中心にそれぞれの部門をバランスを取った形で統合する立場として法務部門が位置づけられることによって、更に法務部門の活躍の場が広がると思われるし、ますます企業を取り巻く環境が変化する時代において、法務部門が従来業務からTransformationしなければ、真に経営に資する企業法務とは言えない時代になってきているともいえるのである。

以 上



[1] 経済産業省「サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会 中間取りまとめ~サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)の実現に向けて~」2020年8月28日(https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2021/04/20200828011-1.pdf)参照。

[2] 経済産業省「デジタルガバナンス・コード」2020年11月9日(https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2021/04/20201109_01.pdf)参照。

[3] この点について、宮田俊「ESGと商事法務(2) ESGと開示」商事2257号(2021)20頁などを参照されたい。

[4] 経済産業省「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針」平成30年9月28日改訂(https://www.meti.go.jp/press/2018/09/20180928008/20180928008-1.pdf)参照。

 


(あかし・まさひろ)

1992年京都大学文学部哲学科卒業、同年サントリー株式会社入社。酒類営業、財務部門を経て、M&A、組織再編などを中心として法務業務に従事。サントリー食品インターナショナル㈱の上場準備や、コーポレートガバナンスコード対応、監査等委員会設置会社への移行などを担当。2017年サントリーホールディングス㈱法務部部長。

 

 

本欄の概要と趣旨

  1.   SH3555 ガバナンスの現場――企業担当者の視点から 第0回 連載開始に当たって 旬刊商事法務編集部(2021/03/30)

 

旬刊商事法務のご紹介

「法務部門」をテーマとする掲載記事例

  1.   望月治彦「企業法務の展望と課題」
    旬刊商事法務 2251号
    2021年の企業法務の展望と課題を大くくりの観点から論じる。

その他の直近掲載内容

  1.  • 編集部「2020年商事法務ハイライト」旬刊商事法務 2250号
    編集部による座談会形式で2020年の掲載内容と編集部の取組みを振り返る年末号の掲載記事です。すべてご覧いただけます。
  2.  • 2020年下期索引
  3.  • 2021年までの目次一覧

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