◇SH1703◇社外取締役になる前に読む話(13)――社外取締役は業務執行行為ができるのか 渡邊 肇(2018/03/14)

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社外取締役になる前に読む話(13)

ーその職務と責任ー

潮見坂綜合法律事務所

弁護士 渡 邊   肇

 

XIII 社外取締役は業務執行行為ができるのか

ワタナベさんの疑問その8

 自分は今のところ、取締役会に出席するだけで、会社のどの部門も管掌していないが、社外取締役も取締役である以上、会社が望むのであれば、特定部署を管掌してもよいと思っているし、そのような会社経営に対する積極的な関与を行うことにより、取締役会においても、より説得力のある発言もできるし、より会社に貢献できるように思う。

 そのような希望があることを会社に伝えたいと思うのだが、どうだろうか。

 

解説

 これまで申し上げてきたように、社外取締役が会社や他の取締役から信頼を勝ち得るためには、与えられた職務を正確に理解し、その権限を適切に行使し、十全に義務を果たすことがまず必要である。また、取締役一般の職務には、会社の業務執行に関わる意思決定を行うことと、当該決定に基づいて具体的な業務執行を行うことの双方があることもご説明申し上げた。

 ワタナベさんもまた、取締役会に出席することにより、取締役の最大の職務であるところの業務執行の意思決定に関与しているわけであるが、どうやらワタナベさんは、それだけでは飽き足らず、取締役たる以上、特定の部署を管掌して、会社の経営により実質的に関与させてもらいたいという希望を持っているようである。

 そのようなことは可能なのだろうか。

 残念ながらそれは不可能である。社外取締役は業務執行を行うことはできない。会社法がその旨規定しているからである(会社法2条15号イ参照)。本人が希望しても無理である。社外取締役は会社の利害関係と離れた独立の立場で、客観的にその職務を遂行することが期待されている以上、業務執行に関与することはできないからである。従って、会社の業務の執行に関連して社外取締役に認められている唯一の権限は、業務執行の決定のみ、ということになる。いや待て、社外取締役に業務執行権限を付与すると何故その独立性が失われることになるのか、という疑問を持たれる方もおられるかもしれない。客観的立場で業務執行に関与すれば良いだけの話で、それは可能ではないかという考える方がおられても不思議ではない。学者の中にはそのような立場を採られる方もおられる。しかしながら会社法の基本的立場は異なる。会社法は、業務執行とはまさしく会社の利害そのものであり、社外取締役が一旦業務執行に関与してしまうと、もはや会社の利害関係から独立した第三者とはいえなくなる、と考えているのである。

 会社法が上記のように規定している以上、ワタナベさんがいかに業務執行に興味があっても、会社の業務執行に関与することはできない。ワタナベさんが業務執行に関連してできることは、その意思決定のみである。(なお、業務執行に関連する社外取締役の職務のひとつに、他の取締役が行う業務執行の監視が挙げられるが、これについては次回以降詳細に検討する。)

 そして、取締役による業務執行の決定は、上述のように、取締役会に出席して議案の審議に参画することを通じて行われるから、業務執行に関する社外取締役の最大の職務は、取締役会への参加、そして「企業価値の向上」実現のために、自らの知見に基づき、独立した客観的立場で意見を述べ、決議に参加すること、ということになる。

 ワタナベさんは、業務執行への関与を通じて、業務執行の決定プロセスにおいても、より説得力のある発言ができると考えたのだが、残念ながらそれはできない。業務執行の決定に際しての発言力は、他の手段を通じて高めていくしかない。

 

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