SH3998 GPIF、「第7回 機関投資家のスチュワードシップ活動に関する上場企業向けアンケート集計結果」を公表――統合報告書など作成は65%、非財務情報の任意開示は85%、TCFD開示も着実な進展を示す (2022/05/18)

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GPIF、「第7回 機関投資家のスチュワードシップ活動に関する上場企業向けアンケート集計結果」を公表
――統合報告書など作成は65%、非財務情報の任意開示は85%、TCFD開示も着実な進展を示す――

 

 年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は5月12日、「第7回 機関投資家のスチュワードシップ活動に関する上場企業向けアンケート集計結果」を公表した。

 GPIFでは運用受託機関のスチュワードシップ活動に関する評価、「目的を持った建設的な対話」(エンゲージメント)の実態、前回アンケート実施以降1年間の変化の把握を目的として上場企業を対象に継続的なアンケート調査を実施しているところである(前回調査の集計結果について、SH3636 GPIF、「第6回 機関投資家のスチュワードシップ活動に関する上場企業向けアンケート集計結果」を公表――非財務情報の開示の一層の充実、活用する投資家の増加という好循環が進展(2021/05/26)既報)。今回調査は2021年12月16日時点の東証一部上場企業2,183社(前回2,186社、前々回2,160社)を対象として2022年1月14日~3月18日の間に実施し、709社の回答を得た(回答率32.5%。前回681社・31.2%、前々回662社・30.6%)。前回・前々回に引き続き過去最多の回答社数となっている。

 アンケートは大別して(1)GPIFの運用受託機関を含む機関投資家、(2)自社のIRおよびESG活動、(3)GPIFが選定した4つのESG指数、(4)GPIFのスチュワードシップ活動全般――について調査する構成とされており、同一の設問からは近時の変化が読み取れることになる。たとえば、GPIFにおいては「運用受託機関に対しては、長期的な企業価値向上のために、長期的な視野に立った対話の実践を働きかけています」とされるところ(公表に際して表明された理事長コメント参照)、上記(1)に関し「貴社の長期ビジョンが機関投資家との対話の議題・テーマに上がったことはありますか?」と尋ねる新設の質問3では「はい」とする回答が90.1%(639社。編注・以下、本稿中の一部質問に係る回答会社数については公表された回答比率に基づき全回答会社数をベースとして算出)にのぼることが判明したが、継続的な設問となる質問3-1「機関投資家に対して、具体的な長期ビジョンを示されていますか?」の推移をみると、「はい」は今回78.3%・555社となり、前回比6.1ポイント増(前回72.2%・492社)、前々回比10.0ポイント増(前々回68.3%・452社)と顕著な増加傾向が確認できる。

 当該「長期ビジョン」に関する企業側の想定期間は今回調査で「さらに延伸」と評価された。具体的には「5年以上」とする回答が今回(有効回答517社に対して)約82.4%(編注・想定期間に係る回答区分「5年以上」に該当する各区分の公表された比率を単純に加算した数値。以下同様)となっており、前回(有効回答449社に対して)約78.7%、前々回(有効回答430社に対して)約72.8%などとの比較において「初めて8割を超えました」とされている(以上、数値について今回調査における質問3-2、前回・前々回調査における質問3-1参照)。

 長期ビジョンについては「具体的にどのような媒体で長期ビジョンをお示しになっていますか?」を問うており、前回調査から開示媒体別の回答比率が明らかになっている(今回調査における質問3-4など参照)。複数回答を可とする本調査によると、多い順に①ホームページ(86.0%、前回83.3%)、②中期経営計画(78.4%、前回74.3%)、③決算資料(67.0%、前回61.7%)、④統合報告書(62.1%、前回53.9%)、⑤株主総会招集通知(47.2%、前回40.9%)、⑥株主通信(45.7%、前回39.5%)となり、なかでも④統合報告書で提示する企業が急速に増えている。

 上記(2)自社のIR・ESG活動に関する質問4「統合報告書またはそれと同等の目的の機関投資家向け報告書を作成していますか?」によると、「作成している」とする回答会社の近年の推移は前々回350社・公表比率53%、前回390社・公表比率58%、今回457社・公表比率65%となる。統合報告書を始めとしてCSR報告書・サステナビリティ報告書などを用いて行われる「ESGを含む非財務情報」の任意開示会社については「行っている」が前々回74.8%(編注・公表比率からの推計495社。以下同様)、前回78.5%(推計534社ないし535社)、今回85.1%(推計603社ないし604社)と大幅に増えており(今回調査における質問1など参照)、GPIFでは「ESGを含む非財務情報の任意開示を行う企業が大きく増加し、85%に達しました」と総括した。

 ESG活動を巡り、自社における「主要テーマを最大5つ」聞く質問7によると、今回調査では最多回答となるテーマが①気候変動(77.9%、前回63.6%、前々回53.9%)となり、これまで第1順位の回答となっていた②コーポレートガバナンス(71.7%、前回71.7%、前々回70.8%)を上回った。次いで上位5つまでを掲げると、③ダイバーシティ(55.0%、前回43.2%、前々回44.0%)、④人権と地域社会(43.2%、前回37.0%、前々回34.7%)、⑤健康と安全(38.8%、前回40.6%、前々回32.6%)の順となる。前回調査比では①気候変動が14.3ポイント増、③ダイバーシティも11.8ポイント増と大幅に増えており、④人権と地域社会についても6.2ポイントの増加を示した。

 GPIFにおいては前々回調査より「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)に賛同されていますか?」について調べている(今回調査における質問5など参照)。賛同企業は今回382社(回答707社に対し、54.0%)にのぼっており、前回208社(回答664社に対し、31.3%)、前々回144社(回答647社に対し、22.3%)との比較においても今回急伸していることが分かる。続いて「TCFDに沿った情報開示をされていますか?」と問う枝問では、賛同382社中の回答375社において「①開示している」が249社(回答375社に対し、66.4%)にのぼった(同様に、前回139社・66.8%、前々回61社・43.3%)。前回比110社増・前々回比188社増となっており、賛同企業の急伸に対応するようにTCFD開示が進展・浸透している様子が窺える。また、賛同企業382社中「①開示している」との回答以外の126社(回答375社に対し、33.6%)が「②今後開示予定」とし、当該予定企業の方針について内訳をみると、126社のうち「2022年開示予定」が100社、「2023年以降開示予定」が11社となっていることから、TCFD開示を行う企業は今後も継続してさらに大幅増加する見込みとなっている。

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