消費者庁、「消費者契約法の一部を改正する法律」の公布
岩田合同法律事務所
弁護士 森 駿 介
政府は、本年3月2日、消費者契約法の一部を改正する法律案を国会に提出し、同法案は、同年5月24日に衆議院において修正議決された後、同年6月8日に参議院において全会一致で可決・成立した。同法は、同月15日に公布され、平成31年6月15日から施行される。
1 消費者契約法の改正経緯等
消費者契約法については、高齢化の進展等や平成13年の消費者契約法施行後の裁判例等の蓄積も踏まえて、平成26年8月に内閣総理大臣が内閣府消費者委員会に同法の規律の在り方について諮問し、同委員会の消費者契約法専門調査会(調査会)における審議及び同委員会の答申を経て、平成28年に第一次改正(同年5月成立・6月公布・平成29年6月施行)が行われていたところである。しかし、第一次改正で取り上げられたのは、調査会の報告書で「速やかに改正を行うべき」とされた論点のみであったため、第一次改正後に再開された調査会においてその他の論点について審議が続けられ、今次の第二次改正に至ったものである。
第二次改正については、成年年齢を20歳から18歳に引き下げること等を内容とする民法改正(本年6月13日成立)により、従来、未成年とされ、親の同意なしに締結した契約を取り消すことができた18歳、19歳が契約トラブルに巻き込まれる事態が増加することなどへの懸念から、社会生活上の経験が乏しいことに乗じる勧誘行為等の類型を新たに取消しの対象としたことなどが注目される。
2 第二次改正の概要
⑴ 取り消し得る不当な勧誘行為の追加等
契約の申込み又は承諾の意思表示の取消しを可とする不当な勧誘行為の類型等につき、以下のとおり新設・改正された。
- ① 社会生活上の経験不足の不当な利用
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-1 不安をあおる告知(改正法4条3項3号)
進学、就職、結婚、生計、容姿、体形等に対する願望の実現に係る不安をあおる。 -
-2 恋愛感情等に乗じた人間関係の濫用―いわゆるデート商法など(同項4号)
- ② 加齢等による判断力の低下の不当な利用(同項5号)
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加齢等により抱く生活の維持に係る不安をあおる。
- ③ 霊感等による知見を用いた告知―いわゆる霊感商法など(同項6号)
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霊感等の知見として、消費者に重大な不利益を与える事態が生ずる旨示して不安をあおる。
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④ 契約締結前に債務の内容を実施等(同項7号)
- ⑤ 不利益事実の不告知の要件緩和(改正法4条2項)
- 消費者に不利益となる事実を告げないことが故意による場合のみならず重過失ある場合も含めた。
⑵ その他
上記⑴のほか、事業者に対して自身の責任の有無や限度を決定する権限を付与する条項や、事業者に対して消費者による契約解除権の有無を決定する権限を付与する条項等、無効となる不当な契約条項の追加等(改正法8条1項、8条の2、8条の3)、及び契約条項作成時の配慮(同法3条1項1号)や消費者への情報提供(同項2号)に関する事業者の努力義務を明示する規定の新設・改正等がされた。
◆消費者庁作成の概要資料
3 改正作業の課題と消費者政策の今後
以上のとおり、消費者契約法については第一次及び第二次の改正が行われたが、その立案過程においては事業者と消費者の対立が先鋭化した。改正法は、それが拡大解釈されることを強く危惧した事業者側の意見もあって、不当な勧誘行為の類型が細かく定められるなどしたため適用対象が限定され、消費者保護の点で課題が残ったとの指摘もある。いずれにしても、上記に紹介したとおり適用対象となる行為は、誠実な一般的事業者からすれば、通常は該当しないものばかりであるため、改正法の施行によるビジネス上の支障は考えにくいであろう。
また、今般の一連の改正作業が関係者の対立によりルール形成の難しさを示すものとなったこともあり、本年3月1日に第1回会合が持たれた消費者委員会の「消費者法分野におけるルール形成との在り方等検討ワーキング・グループ」において、ルール作りやその実効性確保の方策などについて検討が進められている。今後の消費者政策に影響を与える動きであり注視したい。
以 上