公正取引委員会、「平成28年度における下請法の運用状況及び
企業間取引の公正化への取組等」を公表
岩田合同法律事務所
弁護士 上 西 拓 也
本年5月24日、公正取引委員会(以下「公取委」という。)は、「平成28年度における下請法の運用状況及び企業間取引の公正化への取組等」と題する資料を公表した(以下「本資料」という。)。本資料からは下請法(正式名称:下請代金支払遅延等防止法)が積極的に運用されている傾向を明らかに読み取ることができる。
以下では、下請法上の規律を概観したうえで、本資料の内容を紹介し、下請法違反リスクに対処するための自発的申出制度の活用可能性についても紹介する。
1 下請法上の規律
(1) 親事業者の義務及び禁止行為
下請法は資本金の大小を基準として、親事業者・下請事業者を形式的に認定することとし(図表1)、親事業者から下請事業者に対してなされる製造委託等につき、4の義務と11の禁止行為を規定している。その内容は次のとおりである。
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ア 義務
①書面の交付義務、②書類作成・保存義務(2年間)、③下請代金の支払義務を定める義務(受領日から60日以内)、④遅延利息の支払義務(年率14.6%) -
イ 禁止行為
①受領拒否、②支払遅延、③下請代金の減額(下請事業者に責任がない場合)、④返品(下請事業者に責任がない場合)、⑤買いたたき、⑥物の購入強制・役務の利用強制、⑦報復措置、⑧有償支給原材料等の対価の早期決済、⑨割引困難な手形の交付、⑩不当な経済上の利益の提供要請、⑪不当な給付内容の変更・やり直し(下請事業者に責任がない場合)
(2) 違反の場合の制裁
上記ア①または②の義務違反があった親事業者は、50万円以下の罰金に処せられる。
その他の義務または禁止行為に違反した親事業者に対しては、公正取引委員会は、下請事業者が被った不利益の原状回復措置その他必要な措置をとるべきこと勧告することができる。かかる勧告があった場合は原則として事業者名、違反事実の概要、勧告の概要等が公表される。一方、違反の程度等に照らし勧告に至らない事案についても、指導が行われることがある。
(3) 自発的申出制度
公取委は、平成20年12月17日に、「下請法違反行為を自発的に申し出た親事業者の取扱いについて」を公表し、一定の要件を満たす親事業者から公取委に対する下請法違反行為の自発的申出がなされた際は、勧告相当の事案であっても公表しないとしている(下記3で述べる)。企業は、下請法違反の事実が判明した場合には、勧告に伴う公表を避けるための手段として、かかる自発的申出制度を利用することができる。
2 平成28年度の下請法の運用状況
本資料によれば、平成28年度における下請法の運用状況は次のとおりである。なお、以下に記す平成28年度以外の数字も公取委の公表にかかる資料に基づくものである。
(1) 下請法違反に対する勧告・指導
勧告件数は、11件であり、平成27年度の4件から大幅に増加した。勧告件数は平成23年度にピーク(18件)を迎えて以降、減少傾向にあったが、反転増加したことが注目される。
一方、指導件数は、6302件であり、昭和31年の下請法施行以降、過去最多を記録した。近時、指導件数は過去より増加傾向にあり、平成27年度に最多の5980件を記録したが、6000件を超えたのは初である。
(2) 下請事業者が被った不利益についての原状回復額
下請事業者が被った不利益についての原状回復額は、23億9931万円であり、直近4年間は増加傾向にある。なお、過去最高額は平成24年度の57億94万円である。
かかる金額的な側面に着目しても、下請法が積極運用されていることを見て取ることができる。
(3) 下請法違反行為の自発的な申出
下請法違反行為の自発的な申出は、61件であり、年々増加している(図表2)。
なお、平成28年度中に公取委が処理した自発的申出(86件)のうち、勧告に相当する事案は10件あったとのことであり、その数は例年と比べて顕著に多い。
平成24年度 | 平成25年度 | 平成26年度 | 平成27年度 | 平成28年度 |
3 |
14 |
47 |
52 |
61 |
3 自発的申出制度の活用
上記2の各データから読み取れるように、下請法は積極的に運用されている。一方で、下請法違反行為に対する自発的な申出もその数を伸ばしている。
下請法違反リスクが高まる中、企業としては、下請法違反の事実が判明した場合、勧告に伴う公表を避けるための手段として、自発的申出を活用することも十分有効であるといえよう。
平成28年度においては、実際の勧告件数に対し、自発的申出により勧告を免れた事案(勧告相当の事案)が一定程度の割合存在するところ(前者11件に対し、後者10件)、自発的申出が有効に活用されている現状を認めることができる。自発的申出制度は、親事業者が公表を避けるという観点のみならず、下請事業者の受けた不利益を早期に回復するという観点からも望ましいといえ、今後のさらなる積極的な活用・実務への定着が期待される。
前述のとおり、自発的申出制度の利用に当たっては、一定の要件(下記図表3参照)を満たす必要があるところ、有効な自発的申出であることを確保する観点からは、公取委と綿密にコミュニケーションを取りながら進めることが肝要であり、事案発覚の早い段階から外部専門家の関与を求め、社内外で連携して処理することが必要である。
自発的申出について、下請法違反事実の早期解消によるメリットは十分に大きいと思われるため、ここに紹介する次第である。
下請法違反の自発的申出が認められる要件 | |
1 |
公取委が下請法違反行為に係る調査に着手する前に、当該違反行為を自発的に申し出ている |
2 |
当該違反行為を既に取りやめている |
3 |
当該違反行によって下請事業者に与えた不利益を回復するために必要な措置を既に講じている |
4 |
当該違反行為を今後行わないための再発防止策を講じることとしている |
5 |
当該違反行為について公取委が行う調査および指導に全面的に協力している |
以 上