法務担当者のための『働き方改革』の解説(3)
働き方改革の経緯、概要
TMI総合法律事務所
弁護士 近 藤 圭 介
弁護士 本 木 啓三郎
Ⅳ 働き方改革関連法の概要
1 長時間労働の是正・労働時間規制の見直し
(6) 産業医・産業保健機能の強化
働き方改革関連法では、産業医を選任した事業者は、①産業医に対し、労働者の健康管理等を適切に行うために必要な情報として厚生労働省令で定める情報を提供すること、②産業医の勧告を受けた場合には、当該勧告の内容その他厚生労働省令で定める事項を衛生委員会又は安全衛生委員会に報告すること、③産業医の業務に関する事項として厚生労働省令で定める事項を、作業場への掲示等の方法により労働者に周知することなどが義務付けられた。
また、労働安全衛生法又はじん肺法に基づく措置に関連して労働者の心身の状態に関する情報の目的外使用の制限、管理措置その他の取扱いに関する規律も新たに定められた。
さらに、これまで明確な規定が設けられていなかった労働時間の把握義務が明文化されると共に、①新たな技術・商品・役務の研究開発業務に従事する労働者、②高度プロフェッショナル制度の対象労働者に対して、医師による面接指導および当該医師の意見に基づく健康確保措置を講じる義務が新たに定められた。
(7) 勤務間インターバル制度の普及促進等
働き方改革関連法では、労働者の健康福祉を確保するために、終業から始業までの時間の設定(勤務間インターバル制度)に関する努力義務が定められた。
また、現行の労働時間等の設定の改善に関する特別措置法では、事業場単位で設置された労働時間等設定改善委員会に限り、その決議について労使協定に代替する効力が付与されていたが(労働時間等の設定の改善に関する特別措置法7条)、働き方改革関連法では、代替休暇・年次有給休暇の時間単位取得・年次有給休暇の計画的付与に関しては、全部の事業場を通じて一の委員会(労働時間等設定改善企業委員会)の決議についても労使協定に代替する効力が付与された。なお、これに伴い、これまで設けられていた一定の要件を満たす衛生委員会について労働時間等設定改善委員会とみなす規定が廃止された。
2 非正規従業員の処遇改善(同一労働同一賃金)
(1) 均等待遇・均衡待遇の強化(パートタイム労働法、労働契約法、労働者派遣法)
現行のパートタイム労働法および労働契約法においても均等待遇・均衡待遇の確保に関する制度が定められていたが、働き方改革関連法では、それぞれ以下のとおり変更が行われた。
現行法 | 改正内容 | |||
均等待遇 | 均衡待遇 | 均等待遇 | 均衡待遇 | |
内容 | ①職務内容、②職務内容・配置の変更範囲が通常の労働者と同一である場合における待遇の差別的取扱いの禁止 | 通常の労働者と待遇上の差異を設ける場合における、①職務内容、②職務内容・配置の変更範囲、③その他の事情を考慮して不合理と認められる差異の禁止 | 変更なし | 個々の待遇ごとに、当該待遇の性質および目的に照らして適切と認められる事情を考慮して判断されるべき旨の明確化 |
短時間労働者 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
有期雇用労働者 | - | 〇 | 〇 | 〇 |
派遣労働者 | - | - |
|
(2) 待遇に関する説明義務の強化(パートタイム労働法、労働契約法、労働者派遣法)
働き方改革関連法では、(1)の均等待遇・均衡待遇が確保されていない場合には労働者が実効的に争うことができるようにするため、使用者の説明義務が新たに設けられた。
すなわち、使用者は、短時間労働者・有期雇用労働者・派遣労働者の雇入後速やかに、その待遇の内容等を説明しなければならず、また、当該労働者から求められた場合には、通常の労働者との間の待遇上の差異の理由等についても説明しなければならないものとされた。
(3) 行政による履行確保措置および行政ADRの整備
さらに、働き方改革関連法では、(1)均等待遇・均衡待遇の履行を確保するため、行政による履行確保措置に加え、労働者が無償で争えるようにするための行政ADR(裁判外紛争解決手段)を整備するための改正が行われた。