債権法改正後の民法の未来 51
多数当事者間の決済に関する問題(一人計算)(2)
関西法律特許事務所
弁護士 山 形 康 郎
Ⅱ 提案の背景
現在の取引実務においては、決済手法が高度に発展、複雑化しており、現行民法の制定時に想定されていなかった手法による決済が数多くおこなわれている。特に、現代においては、多数の当事者が関与する取引の中での決済の仕組みが電子的な情報処理技術の裏付けのもと広く展開されているところである。
こうした状況を踏まえて、集中決済機関(セントラル・カウンター・パーティー、CCP(以下「CCP」という。))を介在させた決済に関連して、その法律関係を明確にするための考え方を民法に規定するとともに、こうした考え方を取る場合に、対象となる債権・債務に対する一定の安定性を確保するための方法を制度化することについての提案がなされた。
Ⅲ 議論の経過
(1) 経過一覧
会議 | 開催日等 | 資料等 |
第13回 | H22.7.27 | 部会資料10 |
第22回 | H23.1.25 | 部会資料22「民法(債権関係)の改正に関する中間的な論点整理のたたき台(2)」 |
中間的な論点整理 | H23.4.12決定 | 中間的な論点整理案 |
(2) 概要
- ア 本論点については、第13回会議において、主に議論がなされた。
-
一つの債権が二つの債権に分化するという法概念を民法に設けるとともに、第三者の取引安全を図る規定など関連制度についても民法に規定することが論点とされているところ、集中決済における債権の置き換えの場面で債権の消滅原因及び債権の発生を新たに観念することが適当であって、債権の消滅原因という債権債務関係の本質について規定するのは基本法典の役割であること、また、集中決済に参加する当事者としては非営利法人も含まれ得ることやCCPは必ずしも許認可を取得した法人に限られないことから、民法に規定を設けることを検討すべきであるという積極的な意見もあった。
しかし、以下に示すように、積極的意義に疑問を呈する意見、消極的な意見も多く見られた。 - イ 新たな概念を設けることについて
- CCP(前回図1のX)が無因でBに対する債権を取得するという法律構成について、新たな法的概念をもって説明せずとも問題はないという意見、仮に無因の債権取得に問題があるとすれば、CCPの債務引受と債権取得との間に対価関係があると説明することも可能であり、やはり問題はないとする意見のほか、CCPを中心とする集中決済制度は法律構成を含め安定的に運営されており、問題は生じておらず、現在の実務のようにCCPの債務引受と構成することでリスクが軽減されており問題はないと指摘する意見などである。
- ウ 新たな法的概念の規定を民法に規定することについて
-
特殊な取引形態に関係するものであり、関係当事者も限定された事業者であること、CCPも許認可を取得した法人が念頭に置かれていることなどから、特別法に委ねるべきであるという意見や、多数当事者間の決済は、今後も様々な形で変化・発展していく可能性のある取引であることから、民法に規定を設けるべきではないという意見も見られた。
また、積極意見が民法に規定するのは、あくまでも一つの債権が二つの債権に分化するという基本的な法概念のみであるという積極意見に対して、基本的な法概念を規定する以上、その概念は普遍性を持つのであり、CCPを介在させた決済手法に使われるだけでなく、これを利用して集中決済以外の場面で悪用される可能性もあり、そのおそれ、予期せぬ悪影響がないのか、を十分に検証する必要があるという意見も見られた。 - エ 第三者の取引安全を図る規定や、差押え・仮差押えの効力との優劣関係など、第三者との法律関係を明確にするための規定を設けることの要否について
-
①に対して、債権債務の置き換えに係る合意については、登記を効力要件とすべきであるという考え方に対して、決済の効率性という観点から反対を述べる意見があった。
また、①から③までのような規定以外のアプローチによる規定で問題を回避できるとの意見や、決済の安定性・効率性を高めるための私法上の基礎として商法上の交互計算に関連付けながら規定を設けるべきであるとの意見、①から③までのような規定については、特別法に規定すべきであるとの意見もあった。