法務担当者のための『働き方改革』の解説(18)
定年後再雇用と同一労働同一賃金 ~長澤運輸事件判決の概要~
TMI総合法律事務所
弁護士 那 須 勇 太
Ⅶ 定年後再雇用と同一労働同一賃金 ~長澤運輸事件判決の概要~
本稿では、平成30年6月1日に労働契約法(以下「労契法」という。)20条に関して出た2つの最高裁判決のうちの1つである長澤運輸事件判決(最判平成30年6月1日労判1179号34頁)について紹介する。なお、本稿では、継続雇用制度によって有期雇用契約により再雇用された労働者で訴訟を提起した者を「Bら」、相手方となった会社を「N社」と表記する。
1 事案の概要
本件は、N社において60歳の定年を迎えて再雇用されたBらについて(以下、N社において再雇用された社員を「再雇用社員」という。)、職務内容も、業務の都合により勤務場所や職務内容を変更する場合があるとされている点も、正社員と同一であるにもかかわらず、正社員と異なる賃金体系が適用された結果、定年前よりも賃金が約24%から20%引き下げられたことが問題となった事案である。
2 正社員と再雇用社員の賃金の比較
正社員と再雇用社員との賃金体系の違いは次のとおりである。
賃金項目 | 正社員 | 再雇用社員 |
基本給(基本賃金) |
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12万5000円 |
能率給(歩合給) |
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職務給 |
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なし |
精勤手当 | 5000円 | なし |
住宅手当 | 1万円 | なし |
家族手当 | 配偶者:5000円 子1人につき5000円(2人まで) | なし |
役付手当 | 班長:3000円 組長:1500円 | なし |
超勤手当 | あり | あり(ただし、算定基礎となる基本賃金額が正社員と異なる) |
調整給 | - | 老齢厚生年金の報酬比例部分が支給されない期間について、月額2万円 |
賞与 | 基本給の5か月分 | なし |
3 第1審及び第2審の判断の比較
第1審はBらの請求を認容したのに対し、第2審は原判決を取消して請求を棄却した。本件における中心的な争点に対する第1審及び第2審の判断は次のとおりである。
争点 | 第1審 | 第2審 |
(特段の事情/その他の事情の有無に関する判断) |
(ⅰ) 定年の前後で職務の内容並びに当該職務の内容及び配置の変更の範囲が全く変わらないまま賃金だけを引き下げることが、企業一般において広く行われているとまでは認められない。 (ⅱ) Bらに対する賃金の引き下げは年間64万6000円を大幅に上回り、また、賃金水準を新規採用の正社員よりも低く設定することにより、定年後再雇用制度を賃金コスト圧縮の手段として用いることまでもが正当であると解しえない。 (ⅲ) N社が行った再雇用社員の労働条件の改善は、いずれもN社と労働組合とが合意したものではなく、N社が独自に決定して、労働組合に通知したものである。
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(ⅰ) 定年後の継続雇用たる有期労働契約は、社会一般で広く行われており、職務の内容等が変わらないまま相当程度賃金を引き下げることは、N社が属する業種又は規模の企業を含め、社会一般で広く行われている。 (ⅱ) N社の属する規模の企業の平均減額率をかなり下回っていること、運輸業については収支が大幅な赤字となっていると推認できること等に照らすと、年収ベースで2割前後の賃金減額をなされることが直ちに不合理とはいえない。 (ⅲ) N社は正社員との賃金の差額を縮める努力をしており、また、N社と労働組合との間で、再雇用社員の賃金水準等の労働条件に関する一定程度の協議が行われている。
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請求認容 | 原判決取消→請求棄却 |
上記のように、第1審及び第2審における判断は結論が完全に分かれたが、第1審及び第2審判決は、いずれも賃金項目ごとではなく、賃金総額によって、労契法20条における労働条件の相違の不合理性を判断している点に特徴があった。
(つづく)