公取委、働き方改革に関連して生じ得る
中小企業等に対する不当な行為の事例を公表
――「平成29年度における下請法の運用状況及び企業間取引の公正化への取組等」――
公正取引委員会は5月31日、「平成29年度における下請法の運用状況及び企業間取引の公正化への取組等」を公表し、その中で、「働き方改革に関連して生じる中小企業等に対する不当な行為の事例」を示した。
公取委は、「中小企業・小規模事業者の活力向上のための関係省庁連絡会議」(議長=内閣官房副長官)に参画し、平成30年度においても、中小企業等の取引条件の改善等に向け、引き続き下請法の積極的な運用を進めているところである。
そして、「取引の一方当事者の働き方改革に向けた取組の影響がその取引の相手方に対して負担となって押し付けることは望ましくない」などとして、今般、働き方改革と関連する下請法等違反のおそれのある事例を取りまとめたものである。
以下では、上記の「事例集」を中心に、平成29年度における下請法の運用状況等の概要を紹介する。
第1 下請法の運用状況
1 下請法違反行為に対する勧告等
(1) 勧告件数
平成29年度の勧告件数は9件で、勧告の対象となった違反行為類型は、いずれも下請代金の減額であった。
(2) 指導件数
平成29年度の指導件数は過去最多の6,752件であった。
2 下請事業者が被った不利益の原状回復の状況
平成29年度においては、下請事業者が被った不利益について、親事業者308名から、下請事業者1万1,025名に対し、下請代金の減額分の返還等、総額33億6,716万円相当の原状回復が行われた。
3 下請法違反行為を自発的に申し出た親事業者に係る事案
平成29年度においては、親事業者からの違反行為の自発的な申出は47件であった。また、同年度に処理した自発的な申出は46件であり、そのうちの5件については、違反行為の内容が下請事業者に与える不利益が大きいなど勧告に相当するような事案であった。平成29年度においては、親事業者からの違反行為の自発的な申出により、下請事業者1,068名に対し、下請代金の減額分の返還等、総額18億4,795万円相当の原状回復が行われた。
第2 企業間取引の公正化への取組
1 下請取引適正化推進月間の実施(略)
2 下請法等に係る講習会(略)
3 下請法等に係る相談(略)
4 下請取引等改善協力委員(略)
5 コンプライアンス確立への積極的支援(略)
6 取引実態調査等
(1) 大規模小売業者との取引に関する納入業者に対する実態調査
納入業者を対象に調査票(31,955通)を発送して行った調査の結果、納入業者が、主要取引先から問題となり得る行為を一つ以上受けたと回答した取引は、集計対象取引全体の15,9%であった。行為類型別の状況をみると、「協賛金等の負担の要請」が6.7%ともっとも多く、次いで「返品」が6.4%、「取引の対価の一方的決定(買いたたき)」が3.6%と続いており、これら三つの行為類型は他の行為類型に比べて問題となり得る行為がみられた取引の割合が大きかった。また、業態別の状況をみると、「ドラッグストア」、「ホームセンター」および「ディスカウントストア」は、その取引の20%超において問題となり得る行為が存在し、これら三つの業態は他の業態に比べて問題となり得る行為がみられた取引の割合が大きかった。
調査結果を踏まえ、違反行為の未然防止および取引の公正化の観点から、関係事業者団体に対して、本調査結果を示すとともに、業界における取引の公正化に向けた自主的な取組を要請した。また、大規模小売業者向けの講習会を実施している。
(2) 荷主と物流事業者との取引に関する書面調査
物流特殊指定の遵守状況および荷主と物流事業者との取引状況を把握するため、荷主30,000名および物流事業者40,000名を対象とする書面調査を実施した。当該調査の結果、物流特殊指定に照らして問題となるおそれがあると認められた596名の荷主に対して、物流事業者との取引内容の検証・改善を求める文書を発送した。
当該596名の荷主のうち、業種について回答のあった588名を業種別にみると、製造業がもっとも多く(280名、47.6%)、卸売業(130名、22.1%)、建設業(38名、6.5%)となっている。また、問題となるおそれがある行為677件を類型別にみると、代金の支払遅延がもっとも多く(232件、34.3%)、発注内容の変更(200件、29.5%)、代金の減額(115件、17.0%)となっている。
第3 働き方改革関連の事例集(別紙6「働き方改革に関連して生じ得る中小企業等に対する不当な行為の事例」の抜粋)
はじめに
政府においては、中小企業・小規模事業者の活力向上に向けた検討が省庁横断的に行われており、公正取引委員会としてもこの検討に参画してきたところである。政府を挙げて働き方改革を推進しているが、取引の一方当事者の働き方改革に向けた取組の影響がその取引の相手方に対して負担となって押し付けられることは望ましくないと考えられる。また、自らが取り組んだ業務効率化の果実が取引相手に奪われてしまい、享受できないこととなると、業務効率化への意欲を損ねることになり、このようなことが生じる場合には、社会全体としての働き方改革の勢いを失わせることにもつながるところであり、公正取引委員会としては、このような場合を含めて、取引の相手方に対して不当な不利益となる行為について、下請法・独占禁止法の違反に対しては、厳正に対処していく。
ついては、事業者等がどのような行為が違反となるかについて具体的に理解することを助けるため、以下のとおり、想定例を示すこととした。想定例に記載されている行為は、下請法上の親事業者が、同法上の下請事業者に対して行う場合には、同法に違反することになる。さらに、下請法の適用の対象とならない取引であっても、当該行為が「自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に」行われ、独占禁止法の規定に該当する場合には、同法に違反することになる。
なお、具体的な行為が違反となるかどうかは、法の規定に照らして個別の事案ごとに判断されることに留意する必要がある。
1 買いたたき
1-1 事業者は、納期までの期間が通常より短い発注を行い、その結果として取引の相手方が休日勤務を余儀なくさせられ、人件費等のコストが大幅に増加するにもかかわらず、通常の納期で発注した場合の単価と同一の単価を一方的に定めた。
1-2 事業者は、取引の相手方から、社外秘である製造原価計算資料、労務管理関係資料等を提出させ、当該資料を分析し、「利益率が高いので値下げに応じられるはず」などと主張し、著しく低い取引対価を一方的に定めた。
1-12 事業者は、データベース用ソフトウェアの作成を委託している取引の相手方に対し、見積りをさせた当初よりも納期を大幅に短縮したことにより、取引の相手方が必要な体制を整備するためにフリーランスのプログラマーを緊急で募集する必要が生じ、通常よりも高い人件費が必要となるにもかかわらず、当初の見積単価により通常の取引対価を大幅に下回る取引対価を定めた。
2 減額
2-1 事業者は、自己の一方的な都合により設計変更、図面提供の遅延等をしたにもかかわらず、取引の相手方の納期延長を認めなかったため、取引の相手方が、休日勤務することで対応したにもかかわらず、結果として納期に間に合わなかったことから、取引の相手方に対し、納期遅れのペナルティの額を差し引いた取引対価しか支払わなかった。
2-4 事業者は、取引の相手方に対して物品の製造を委託しており、取引の相手方と書面において短納期発注に対しては「特急料金」を定めていた。ある発注が通常よりも短期のリードタイムであったため、特急料金を適用するものに相当したことから、取引の相手方はその分を上乗せした請求を行ったが、当該事業者は、予算が足りないなどの理由により、特急料金を支払うことなく、当該料金を差し引いた、通常の納期の取引対価しか支払わなかった。
3 不当な給付内容の変更・やり直し
3-1 事業者は、商品又は役務の受領前に、自己の一方的な都合により、あらかじめ定めた商品又は役務の仕様を変更したにもかかわらず、その旨を取引の相手方に伝えないまま、取引の相手方に継続して作業を行わせ、納入時に仕様に合致していないとして、取引の相手方にやり直しをさせた。取引の相手方は、これに対応するために長時間労働を余儀なくされた。
3-7 事業者は、取引の相手方に対して運送業務を委託しているところ、特定の荷主の荷物を集荷するために、毎週特定の曜日に取引の相手方のトラックを数台待機させることを契約で定めている。当該事業者は、その当日になって「今日の配送は取りやめになった」と一方的にキャンセルし、その分の対価を支払わなかった。
4 受領拒否
4-1 事業者は、発注した後になって、あらかじめ合意した納期を、取引の相手方の事情を考慮せず一方的に短く変更し、取引の相手方はこれに長時間勤務をすることで対応したものの、当該事業者は、その納期までに納入が間に合わなかったことを理由に商品の受領を拒否した。
4-2 事業者は、当初、発注日の1週間後を納期としていたが急きょ発注日から2日後に納入するよう取引の相手方に申し入れた。取引の相手方は、従業員の都合がつかないことを理由に断ったが当該事業者は取引の相手方の事情を考慮しないで一方的に納期を指示した。そこで取引の相手方は、従業員を残業させて間に合わせようと努めたが、期日までに納入できなかった。当該事業者は、納期遅れを理由に、取引の相手方が生産した部品の受領を拒否した。
5 不当な経済上の利益の提供要請
5-1 運送業務を営む事業者は、あるスーパーから、商品の各店舗への配送と当該商品を配送先店舗別に分類する仕分作業を受託していたが、取引の相手方に対し、配送のみを再委託した。当該事業者は、契約に定めがないにもかかわらず、当該仕分作業を指示して取引の相手方に行わせたが、この作業に対する対価を支払わなかった。
5-4 事業者は、取引の相手方に対して物品の製造を委託している。商品発注のために必要なデータを自社システムに入力するという作業は当該事業者自ら行うべきであるにもかかわらず、当該作業を取引の相手方に対して無償で行わせた。
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公取委、平成29年度における下請法の運用状況及び企業間取引の公正化への取組等(5月31日)
http://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/h30/may/180531.html -
○ 概要
http://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/h30/may/180531.files/180531gaiyou.pdf -
○ 本文
http://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/h30/may/180531.files/180531honbun.pdf
(「働き方改革に関連して生じ得る中小企業等に対する不当な行為の事例」は別紙6に所収)