◇SH2237◇コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(123)雪印乳業㈱グループの事件を組織論的に考察する㉝岩倉秀雄(2018/12/07)

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コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(123)

―雪印乳業(株)グループの事件を組織論的に考察する㉝―

経営倫理実践研究センターフェロー

岩 倉 秀 雄

 

 前回は、育児品事業と金融支援について述べた。

 育児品事業は、業界トップを競っていたが、2つの事件により12%近くまでシェアーが落ち込み、売上げの早期回復は困難になったことから、ビーンスターク・スノウ(株)を設立後、大塚製薬(株)のブランド力、品質管理技術と雪印乳業(株)の研究開発力、マーケティング力の相乗効果を狙って、大塚製薬(株)と事業提携を行った。

 また、2002年の債務超過を避けるために、①資本準備金の取崩しと減資、②株式併合、③金融支援(主力金融機関の債務免除デット・エクイティス・ワップ(債務の株式化)による優先株式の引き受け、借入金の残高維持など)、④第三者割当増資(全農、伊藤忠(株)等、取引先、資材業者等38社)を実施し、2003年3月期の決算において、事業構造改革に伴う一時的な債務超過は解消された。

 また、新再建計画に掲げた目標を達成し、2006年度決算で復配を実現した。

 主力3行に割り当てたデット・エクイティ・スワップには、普通株式への転換予約権が付与されていたことから、普通株式の価値の希薄化を軽減するため、D種優先株式を発行して発行済優先株式の消却を実施した。

 2005年9月末、金融支援を解消、格付け機関R&Iによる発行格付けが「BB+」から「BBB」へ2段階引き上げられ、社債を発行して資金調達することが可能になった。

 今回は、子会社の売却等、グループ経営の再編について考察する。

 

【雪印乳業(株)グループの事件を組織論的に考察する㉝:牛肉偽装事件後の経営再建④】

 食中毒事件前の雪印乳業(株)では、2000年3月から商法改正により大会社の決算が連結決算主体になることを踏まえ、1999年度よりグループ中核企業の雪印食品(株)、雪印種苗(株)、雪印アクセス(株)、雪印ローリー(株)、雪印物流(株)5社とグループ6社会を定期的に開催し、グループとしての重要経営課題の協議や情報共有化等の取組みを行っていた。

 現場レベルでは、グループファイナンスや人事交流・人材育成、グループ品質保証体制の構築等にも取り組んでいたが、2つの事件によりブランドへの打撃が大きく、子会社の経営も親会社以上に厳しい状況に陥ったが、更に、雇用調整等の資金確保のために優良子会社株の売却にも踏み込まざるを得なった。(『雪印乳業史 第7巻』454頁)

 

1. 雪印アクセス株の売却

 雪印乳業(株)は、食中毒事件後、経営の回復は厳しく、グループ会社で最も企業価値の高かった(株)雪印アクセス[1]の株式を、2001年9月、伊藤忠商事(株)等6社に分割して譲渡した。(雪印乳業(株)の持株比率は86.7%から51.7%に減少)

 また、牛肉偽装事件後は、債務超過回避を目指し独自に資金確保をするために、同社株を2002年7月から11月にかけて伊藤忠商事(株)等に売却、雪印乳業(株)の持株比率は10.25%まで減少、筆頭株主は伊藤忠商事(株)になった。

 その後、社名を(株)日本アクセスに変更(2004年4月)、2005年7月九州地区の営業を(株)九州雪販より譲り受け、2006年6月、伊藤忠商事(株)が公開買付で株式を取得して親会社となり、その後、西野商事(株)、ファミリーコーポレーション(株)と合併し、事業規模は2008年3月期で、売上高1兆円、総事業規模(売上高+物流事業通過額)2.5兆円を突破した。

 

2. グループ会社の再編、提携・売却

 雪印乳業(株)は、上記の他にも損失補てんや資金調達のために、乳食品事業に関係の薄い会社を中心に、他社との提携や売却、不採算会社の整理・解散を行った。

(1) 雪印ラビオ(株)の売却

 雪印乳業(株)は、牛肉偽装事件後、再建資金調達のために、グループ中核会社の1つである雪印ラビオ(株)[2]の株式を2002年11月、かねてから乳酸菌事業に関心の高かったカゴメ(株)に売却した。

 その後、2003年3月、商号をカゴメラビオ(株)に変更、同年12月、カゴメと営業機能を統一して生産子会社化し、2009年3月、カゴメ(株)に吸収合併された。

(2) 雪印物流(株)の売却

 雪印物流(株)は、総合物流企業を目指し1999年10月、北海道雪印物流(株)、東北雪印物流(株)、東京雪印物流(株)、中部雪印物流(株)、関西雪印物流(株)が合併して設立、順調に業容を拡大してきたが、食中毒事件後の売上減により打撃を受けたことと、経営再建資金確保のために、2003年10月、(株)エスビーエスに発行済み株式の90.22%を売却した。雪印物流(株)は、2004年7月、フーズレック(株)に商号変更し、更に2013年6月、SBSレック(株)に商号変更し、現在も雪印メグミルクグループの物流を担っている。

(3) スノークリスタルビルの売却

 雪印乳業(株)は、創業70周年記念事業の一環として、1997年大阪市北区梅田に自社ビル(スノークリスタルビル:地上18階地下1階)を建設し、100%子会社の雪印西梅田開発(株)が運営・管理していた。

 2005年、雪印乳業厚生基金解散に伴う総額100億円を超える拠出金や資金確保のために、同ビルの売却を決定、雪印西梅田開発(株)の保有する信託受益権を不動産関連会社に売却し雪印西梅田開発(株)は解散した。

 なお、業績不振で売却譲渡できない会社は整理せざるを得ず、2000年には111社あったグループ会社は、2008年には41社になっていた。

 次回は、牛肉偽装事件後の企業体質の変革と信頼回復の取組みについて考察する。



[1] 雪印乳業(株)の販売子会社、仁木島商事株式会社、島屋商事株式会社、雪印商事株式会社、及び東京雪印販売株式会社と対等合併し、社名を(株)雪印アクセスと変更。資本金26億2,000万円、雪印乳業(株)の持株比率86.7%、売上高6,610億円(2001年3月期)

[2] 発酵乳・乳酸菌の製造販売会社で、乳酸菌の研究開発に優れた会社だった。近年は、主力商品の「雪印ローリーA」が市場競争の激化で低迷し、工場も老朽化していたが、2000年6月CIの一環として社名を雪印ローリー(株)から雪印ラビオ(株)に変更した。しかし、雪印乳業(株)グループの2つの事件により打撃を受け、自立再建が困難な状況にあった。

 

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