◇SH1249◇実学・企業法務(第58回) 齋藤憲道(2017/06/22)

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実学・企業法務(第58回)

第2章 仕事の仕組みと法律業務

同志社大学法学部

企業法務教育スーパーバイザー

齋 藤 憲 道

 

4. 販売(営業)

(3) 営業の主要機能

5) 販売チャンネル

e. 無店舗販売と特定商取引法の規制(7つの取引類型の規制)
 固定した店舗を構えずに各地を行商(訪問販売を含む)して商品を販売する商人が昔から存在する。近年では、有形の店舗を構えず、テレビ・電話・FAX・インターネット等を利用して商品を取引する無店舗販売が増加傾向にある。
 消費者が購入した商品等に関して紛争が発生した場合、有形の固定店舗で購入したのであれば、消費者はその店舗に赴いて紛争解決の話し合いができる。しかし、無店舗販売の場合は、販売時の商品説明の適否や商品の品質・真贋等について争いが生じることが多く、さらに、店舗が実在しないか又は事業者の身元や行方が不明なこともある。
 このような背景から、1976年に①訪問販売・②通信販売・③連鎖販売取引における消費者トラブルの防止と消費者保護を目的として訪問販売法[1]が制定され、その後、同法に④電話勧誘販売(1996年)、⑤特定継続的役務提供(1999年)、⑥業務提供誘因販売取引(2000年)の3類型が追加されて、2000年に同法の名称が「特定商取引に関する法律」(通称:特定商取引法、特商法)と改題された。
 2012年に特商法に⑦訪問購入[2]の規制が追加され、合計7つの取引類型が規制されている。
 特商法は、各類型の特性に応じて、氏名等の明示の義務付け、不当な勧誘行為(不実告知、威迫等)の禁止、広告規制、書面交付の義務付け等の規制を行い、違反者に対して業務改善指示・業務停止命令を行うとともに罰則を科している。
 また、特商法は、消費者被害を救済するため、消費者のクーリング・オフや意思表示の取り消しを認め、損害賠償額の上限を設定等している。

e.-1 訪問販売
 訪問販売とは、販売業者又は役務提供事業者が、営業所・代理店等以外の場所で、又は、営業所等以外の場所で呼び止めて営業所等に同行して、売買契約の申込みを受けるか売買契約を締結して商品・施設利用権等を販売(又は役務を提供)すること[3]である。
 訪問販売では、事業者に氏名・会社名等を明示する義務が課され、契約を締結しない旨の意思を表示した者に対する勧誘が禁止され、取引の内容(商品等の種類、対価、支払い時期、引渡し時期等)等を記載した書面の交付義務が課される。
 一方、消費者は、法定期間内[4]であれば申込撤回や契約解除を行うこと(クーリング・オフ)[5]ができる[6]

e.-2 通信販売
 通信販売とは、販売業者・役務提供事業者が、郵便等により売買契約・役務提供契約の申込みを受けて行う商品・指定権利の販売・役務提供である。(ただし、電話勧誘販売[7]に該当するものは除く[8]。)
 通信販売を開始することについては、許認可等を受ける必要はないが、酒類[9]など商品によってはその取扱いに関する許認可が必要な場合がある。
 インターネット通信販売を行う事業者は、特商法の必要表示事項[10]を遵守し、誇大広告等[11]及び顧客の意に反して契約の申込みをさせる行為をしてはならない。例えば、パソコンによる契約申込に関しては、契約申込になることを容易に認識できること、及び、申込内容を確認・訂正できるようにすること、が求められる[12]

e.-3 電話勧誘販売
 電話勧誘販売とは、販売業者(又は役務提供事業者)が、消費者に電話をかけ又は政令で定める欺瞞的な方法(下記(注)参照)により電話をかけさせ、その電話で売買契約(又は役務提供契約)の締結を勧誘して、その消費者から売買契約(又は役務提供契約)の申込みを郵便等で受け、もしくは売買契約(又は役務提供契約)を郵便等により締結して行う商品販売(又は指定権利販売、役務提供)のことをいう[13]

  1. (注) 欺瞞的な勧誘方法の規制(特定商取引に関する法律施行令2条、下線は筆者)
  2. 1号  電話、郵便、信書便、電報、ファクシミリ装置を用いて送信する方法若しくは電磁的方法により、又はビラ若しくはパンフレットを配布して、当該売買契約又は役務提供契約の締結について勧誘をするためのものであることを告げずに電話をかけることを要請すること。
  3. 2号  電話、郵便、信書便、電報、ファクシミリ装置を用いて送信する方法又は電磁的方法により、他の者に比して著しく有利な条件で当該売買契約又は役務提供契約を締結することができる旨を告げ、電話をかけることを要請すること(当該要請の日前に当該販売又は役務の提供の事業に関して取引のあつた者に対して要請する場合を除く。)。

 電話勧誘販売について、特商法は事業者の行為を次のように規制している。
 ①消費者に対して事業者の氏名等を明示することを義務づけ(16条)、②再勧誘を禁止(17条)、③法定事項を記載した書面交付を義務づけ(18~20条)、④禁止行為(21条1~3号 不実告知、故意による重要事項の不告知、威迫困惑)、⑤主務大臣の指示対象行為(22条 契約に基づく債務又は契約解除によって生じる債務の履行拒否等、一定の重要事項不告知、省令で定める禁止行為[14])。
 また、特商法には、消費者保護を図るために次の民事ルールが設けられている。
 ①クーリング・オフ期間を8日間設定(24条)、②不実告知や重要事項不告知によって消費者が誤認して契約を締結した場合の契約取消し(24条の2)、③契約解除に関して損害賠償予定額・違約金の契約条項があっても損害賠償等の額を法定枠内に限定(25条)。

e.-4 自動販売機
 日本には、清涼飲料(缶・ペットボトル等)・乗車券・コインロッカー他の多くの商品を取り扱う多数の自動販売機が設置され、年間に約5兆円の販売が行われている[15]。無人の機械に商品又は現金が入っているので窃盗の対象になり易いが、外国に比べると日本の自動販売機ねらいの犯罪(窃盗罪)[16]は少ないとされる。
 自動販売機の設置・稼働に必要な契約条件は、設置場所(土台工事を含む)の提供と場所代(ロケフィー)・電気供給と電気料金の支払い・商品の補充・空き缶等の処理・売上代金回収(電子マネー対応を含む)・釣銭補充・収支計算・夏季冬季の冷温切り替え・事故盗難保険・契約期間等である。
 自動販売機の所有と管理に関しては、①自販機の製造事業者、②飲料・たばこ・切符等の中身商品の事業者、③自販機のリース事業者、④自販機のディーラー、⑤自販機のオペレーション(中身の配送、代金回収、釣銭補充、空き容器処理、機器の清掃等)を行う事業者、⑥自販機設置場所のロケーション・オーナー等が参加し、それぞれの取引相手との間でリース・売却・貸与・管理運営等の契約を締結して自動販売事業を行っている。1台の自販機で複数メーカーの商品を販売する混載機も多数存在する。
 自販機については、据え付け基準、食品安全基準、硬貨紙幣判別[17]の厳格化、犯罪防止のための堅牢化、容器リサイクル等の基準[18]が設けられている。

  1. (注) 事業譲渡の例
    2015年7月、サントリー食品インターナショナル(株)が、日本たばこ(株)(JT)から、自動販売機による各種食品飲料の販売を行う子会社((株)ジャパンビバレッジホールディングス、ジェイティエースター(株))の株式、及び、JT飲料ブランド「Roots」「桃の天然水」を約1,500億円で取得した。

e.-5 移動販売
 自動車や露店等を利用して行う移動販売が、食品[19]・理美容等の商品・役務の分野で広く行われている。移動販売では、初期投資が車体の購入・改造費、商品の取扱機材等で済むので、集客可能な場所を見つけて営業できれば、一定の利益を期待できる。
 道路で営業を行うには道路交通法に基づく警察署長の許可[20]を必要とし、公園内での営業には都市公園法(5条)に基づく地方公共団体・国土交通省の許可が必要である。一般に、これらの許可の取得は、さほど容易ではないと言われる。
 なお、食品の移動販売については、出店場所を所管する都道府県(実務は保健所が担当)の許可を得る必要があり(食品衛生法52条)、各営業許可施設に食品衛生責任者(1名)を置くことが義務付けられる(都道府県等の条例[21])。出店を許可する際の業務範囲・手数料・条件等は、食品営業自動車(車内で簡単な食品加工を行なう)と食品移動販売車(加工済み食品の販売のみを行なう)によって異なるので、所管の保健所等で確認する必要がある。



[1] 訪問販売等に関する法律

[2] 消費者の自宅を訪問して貴金属等を強引に買い取る「押し買い」を規制する。

[3] 特定商取引法2条1項

[4] 契約内容を明らかにする書面を受領した日から起算して8日(訪問販売、電話勧誘販売、特定継続的役務提供、訪問購入)又は20日(連鎖販売取引、業務提供誘引販売取引)を経過する日まで。

[5] クーリング・オフ制度を設けている法律の例(括弧内は法定起算日からの権利行使期間):割賦販売法(8日、20日)、ゴルフ場等に係る会員契約の適正化に関する法律(8日)、金融商品取引法(10日)、宅地建物取引業法(8日)、不動産特定共同事業法(8日)、保険業法(8日)

[6] 特定商取引法3条~10条

[7] 特定商取引法2条3項『「電話勧誘販売」とは、販売業者又は役務提供事業者が、電話をかけ又は政令で定める方法により電話をかけさせ、その電話において行う売買契約又は役務提供契約の締結についての勧誘(以下「電話勧誘行為」という。)により、その相手方(以下「電話勧誘顧客」という。)から当該売買契約の申込みを郵便等により受け、若しくは電話勧誘顧客と当該売買契約を郵便等により締結して行う商品若しくは指定権利の販売又は電話勧誘顧客から当該役務提供契約の申込みを郵便等により受け、若しくは電話勧誘顧客と当該役務提供契約を郵便等により締結して行う役務の提供をいう。』

[8] 特定商取引法2条2項

[9] 所轄税務署に「通信販売酒類小売業免許」を申請しなければならない。(酒税法10条)

[10] 特定商取引法11条は、次の14項目を必要的表示とする。①販売価格、②送料、③組立費・梱包料等のその他の負担すべき金銭、④対価の支払時期、⑤商品の引渡時期、⑥代金(対価)の支払方法、⑦返品特約、⑧事業者の名称又は個人氏名、⑨事業者の住所、⑩事業者の電話番号、⑪法人の場合は代表者又は責任者氏名、⑫申込期限がある場合はその期限、⑬瑕疵責任の定めがある場合はその旨、⑭数量制限等の特別の販売条件がある場合はその条件。

[11] 特定商取引法12条は、著しく事実に相違する表示および実際のものより著しく優良・有利と誤認させる表示を禁止する。具体的には、①商品の性能・品質・効能等、②原産地・製造地・製造者、③国・地方公共団体・通信販売協会・その他著名な法人・団体・個人の関与、④特定商取引法11条の必要的表示項目。

[12] 特定商取引法第14条に基づく施行規則16条

[13] 特定商取引法2条3項、

[14]「迷惑勧誘、クーリング・オフ妨害、高齢者等の判断力不足に乗じた勧誘、顧客の知識・経験・財産の状況に照らして不適当な勧誘、書面に年齢等の虚偽記載をさせること等(特定商取引に関する法律施行規則23条)

[15] 日本自動販売機工業会によれば2015年末の実績は、設置台数500万台(うち、飲料254万、日用品雑貨86万、コインロッカー等自動サービス126万、他)、年間自販金額4兆8,811億円(うち、飲料2兆1,333億、乗車券等1兆8,288億、他)である。なお、2013年の米国の設置台数は645万台、自販金額427億$であった。

[16] 警察庁「犯罪統計書 平成26年の犯罪」によれば、窃盗罪全体(認知89.7万件、検挙13.1万件)の中で自動販売機ねらい(認知1.6万件、検挙0.1万件)の占める割合は1%程度であった。これは平成11年の自動販売機ねらい認知件数22万件から大きく減少している(法務省資料)。

[17] 一般に、光センサーと磁気センサーを組み合わせて真贋を識別する。

[18] 自動販売機の据付基準(JIS規格)、自動販売機据付基準マニュアル(日本自動販売機工業会)、食品・添加物等の規格基準(食品衛生法)、自動販売機の食品衛生に関する自主的取扱要項(業界自主基準)、自販機堅牢化基準(日本自動販売機工業会)、容器包装リサイクル法

[19] ラーメン、うどん、そば、カレー、お好み焼き、たこ焼き、弁当、惣菜等

[20] 所轄警察署長宛に申請書を提出する(道路交通法77条)。なお、この許可が道路法32条1項又は3項に係る道路管理者の許可を要する場合には、所管警察署長は道路管理者と協議しなければならない(道路交通法79条)。

[21] 食品衛生法48条で「食品衛生管理者」を置くことが求められていない食品営業施設について、各都道府県等が同法50条2項に基づく条例を設けて「食品衛生責任者」を置くべきことを義務付けている。この点について厚生労働省は、技術的指導として「食品等事業者が実施すべき管理運営基準に関する指針(ガイドライン)」を発出し、食品衛生責任者の設置について規定している。

 

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