コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(126)
―雪印乳業(株)グループの事件を組織論的に考察する㊱―
経営倫理実践研究センターフェロー
岩 倉 秀 雄
前回は、牛肉偽装事件後のガバナンス改革、コンプライアンス体制の再構築、行動基準等について述べた。
2002年6月の総会を控え、雪印乳業(株)は、株主オンブズマンの株主提案「安全担当社外取締役の選任等に関する定款変更の件」を受け入れ、社外取締役として、前全国消費者団体連絡会(略称消団連)事務局長の日和佐信子の就任と、「社外の目」を取り入れた企業倫理委員会の設置を決定した。
日和佐は、①自身の言動が制約されないこと、②消費者の目で経営をチェックしていくこと、③雪印にとってのデメリットの情報も開示すること、を条件に社外取締役を引き受け、企業倫理委員会委員長にも就任した。
また、企業倫理室を総務部企業倫理室から独立させてコンプライアンス重視の姿勢を明確にし、企業倫理委員会の事務局、新たな雪印乳業行動基準の策定、企業倫理ホットラインの窓口対応等を担当させた。
そして、食中毒事件後、再度不祥事を発生させたことを反省し、お客様モニター制度やお客様センターに寄せられた声、企業倫理委員会からの提言、全国消費者団体等の意見を踏まえ、新たな企業理念、ビジョン、コーポレートメッセージや全役職員の参画による雪印乳業行動基準を策定した。
今回は、リスク対応体制の見直しと企業倫理委員会の役割について考察する。
【雪印乳業(株)グループの事件を組織論的に考察する㊱:牛肉偽装事件後の経営再建⑦】(『雪印乳業史 第7巻』483頁~495頁より)
1. リスク対応体制の見直し
雪印乳業(株)は、食中毒事件後、品質保証を中心に危機管理体制を再構築してきたが、牛肉偽装事件後は、品質以外の企業倫理、コンプライアンスに関するリスクマネジメントの強化の重要性を痛感、商品事故対応体制を見直すとともに(公益通報者保護法の施行も踏まえ)従業員相談窓口を設置した。
商品事故への対応は、品質事故の情報を事実に基づいて判断し、重大化する懸念がある場合には、社長に直ちに報告、緊急品質委員会を開催して協議し、商品回収は、①健康被害、②法令違反、③拡大可能性の3点から判断することとした。
また、日々のリスクは、365日、毎日19時以降に商品安全保証室長が社長、担当役員、関係者に報告することとした。
従業員相談窓口は、2002年8月に企業倫理ホットラインを、2003年11月に社外相談窓口のスノーホットラインを開設し、公益通報、社内規定違反、社会的非難を受けそうな重大行為の他、業務上のささいな疑問、相談、提案等も制限を設けずに受け付けることとした。
2. 企業倫理委員会
企業倫理委員会は、企業倫理及び品質等に関する提言・勧告並びに検証を継続的に行うために、取締役会の諮問機関として設立され、委員には有識者や社内外取締役の他に、労働組合の代表も就任(第4期、5期、7期)した。
第1回の提言例は、表の通りである。
表.企業倫理委員会の提言例(2004年4月27日提出)
諮問 | 1.「雪印乳業行動基準」の徹底と公正で透明な企業活動について |
2. SQS(雪印品質管理システム)の取組みについて | |
提言 要旨 |
企業倫理委員会からの提言 |
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SQSに関する品質部会からの提言 | |
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任意表示のルールに関する企業倫理委員会表示部会からの提言 | |
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(『雪印乳業史第7巻』490頁記載の「平成16年度企業倫理委員会提言」を岩倉が簡略化した。)
なお、提言は、具体的施策に落とし込んで実施され、進捗状況は企業倫理委員会に報告されたが、特に雪印乳業行動基準の徹底については、行動基準の定着を推進する行動リーダーを各職場に選出して系統的・継続的な教育を実施するとともに、毎月の活動状況を企業倫理委員会に報告した。
グループ会社については、グループ会社社長会で経営トップのコンプライアンス意識を喚起するとともに、企業倫理推進担当者への教育にも注力した。
また、食中毒事件発生の6月と牛肉偽装事件発生の1月に、それぞれ「事件を風化させない日」と、「事件を風化させない月間」を設けて、親・子会社のコンプライアンス責任者を全国から招集して、外部講師による講演、行動基準定着活動事例発表会、再発防止のためのディスカッション等を行ったが、この活動は雪印メグミルクになった現在でも形を変えて継続している。
次回は、その他のコンプライアンス定着活動について考察する。