◇SH2363◇債権法改正後の民法の未来72 追完権(1) 藤田増夫(2019/02/26)

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債権法改正後の民法の未来 72
追完権(1)

肥後橋法律事務所

弁護士 藤 田 増 夫

 

1 最終の提案内容

 追完権については、中間的な論点整理までは明文化することも検討されていたが、その後の中間試案以降は提案内容から外され、改正民法における明文化は見送られた。

 

【参考】中間的な論点整理(第8 債務不履行に関連する新規規定)

1 追完権

 債務者の追完権を認める規定を設けるかどうかについては、追完権により主張できる内容や追完権が必要となる場面を具体的に明らかにしつつ、追完権が債務者の追完利益を保護する制度として適切か否かという観点及び他の制度(例えば、催告解除の催告要件等)によって債務者の追完利益を十分に確保することができるか否かという観点から、更に検討してはどうか。

 

2 検討がされた背景(立法事実)

 債務者が債務不履行に陥った場合において、債権者には、契約解除権が認められているため、契約を解除し代替取引をすることで当初の経済目的を達成できるが、債務者には、債務を履行して反対給付を確保する利益を保障するための特段の規定が置かれていないため、当事者間の利益調整に不均衡を来すおそれがあるという指摘がある。

 そこで、債務者の債務を履行して反対給付を確保する利益を保障する観点から、債務者に追完権(債務不履行に陥った債務者が行う履行あるいは追完が、債務不履行により債権者に認められた損害賠償請求権等に優先し、それら損害賠償請求権等の効力を停止させる権利)を認めることが望ましいという考え方があることから、検討がなされた[1]

 

3 議論の経過

(1) 経過一覧

 法制審議会における審議の状況は、以下のとおりである。

会議等 開催日等 資料
第4回 H22.2.23開催 部会資料5-1、5-2(詳細版)
第21回 H23.1.11開催 部会資料21
中間的な論点整理 H23.4.12決定 中間的な論点整理の補足説明
部会資料33-2(中間的な論点整理に対して寄せられた意見の概要(各論1))
第40回 H24.1.31開催 部会資料34


(2) 立法が見送られた経過

 (ア) 第4回会議

  1. (A) 消極的意見
  2.   追完権の内容や追完権が必要となる場面が不明確であることなどから、規定する必要性が乏しいのではないかという消極的な意見が多数を占めた。具体的には、①追完権を権利として規定することの意味について、債権者の損害賠償請求権や解除権等の効力を停止させること以上に、債権者に対して強制力を伴う何らかの請求をすることを可能とするのかが不明確であるとする意見、②追完権が必要となる場面が不明確であるという意見、③債務者の追完利益を保護する必要性はあるが、その実現方法として、債務不履行をした債務者に救済方法を選択する法的な権利まで与える必要はないのではないかという意見、④追完権を規定する場合に債権者に認められる権利との優先関係等を定める規定が必要となって制度が複雑となるうえ、多様な紛争類型を適切に規律することは困難であり、かえって様々な紛争が起こるのではないかという意見等があった[2]
     
  3. (B) 積極的意見
  4.   積極的な意見としては、①比較法的に追完権は取引実務上の必要性に基づき定められた[3]ものであり、裁判外の紛争解決における規範としての必要性も含めて、日本においても同様の必要性が認められるのではないかという意見、②追完権に消極的な意見も、債務者の追完利益を保護する必要性を否定するものではなく、追完権の内容や適用範囲の不明確性を指摘するものと理解できるから、これらの点について、更に検討すべきではないかという意見があった[4]
     
  5. (C) 追完権が必要となる場面等
  6.   追完権が必要となる場面としては、解除を封じる場面、損害賠償請求を封じる場面、追完請求権の行使に対抗する場面があり得るところ、解除のうち催告解除については、催告を通じて債務者の追完利益を保障でき、無催告解除については、不履行の重大性の判断において債務者の追完可能性を考慮できると整理すれば追完権の必要性は乏しくなり、考慮しないと整理すれば必要性が生じ得る、損害賠償請求を封じる場面では、履行請求権と填補賠償請求権の併存を認める場合には必要性が生じ得るが、併存を認めない場合には必要性が否定され得る、追完請求の行使に対抗する場面については、追完方法の選択権の所在に関する制度設計の問題として検討すべきであるなどといった意見、不完全履行以外の不履行については、受領義務や弁済の提供の問題に解消され得るので追完権を認める必要はないという意見があった[5]
     
  7. (D) 追完権のほかに債務者の追完利益を保護する具体的な方法
  8.   追完権のほかに債務者の追完利益を保護する具体的な方法としては、①債権者の権利行使を損害軽減義務や信義則等により制限・調整することが妥当であるとする意見、②催告解除における催告制度をあげる意見、③無催告解除においては不履行の重大性の判断において債務者の追完可能性を考慮できると整理することが可能であるという指摘等があった。④これらの解除に関する意見・指摘を踏まえて、ウィーン国際売買条約のように、追完権は解除の効力を封じることはできないとする立法方法もあり得るのではないかとの指摘もあった[6]


[1] 部会資料5-2(109頁)

[2] 第4回議事録(48~53頁)、中間的な論点整理の補足説明(54~55頁)

[3] 追完権を規定している例としては、国際物品売買契約に関する国際連合条約(ウィーン売買条約)やユニドロワ国際商事契約原則等が挙げられるが、ウィーン売買条約は追完権の制度が債権者の解除権に劣後することを承認するが、ユニドロワ国際商事契約原則は一定の範囲で追完権の制度が解除に優先する場面を承認しており、債務者の追完利益を保障して、頭書の契約を維持する思想が明確に表現されている(民法(債権法)改正検討委員会編『詳解・債権法改正の基本方針Ⅱ――契約および債権一般(1)』(商事法務、2009)211頁参照)。

[4] 第4回議事録(48~53頁)、中間的な論点整理の補足説明(54~55頁)

[5] 第4回議事録(48~53頁)、中間的な論点整理の補足説明(54~55頁)

[6] 第4回議事録(48~53頁)、中間的な論点整理の補足説明(54~55頁)

 

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