◇SH2272◇経産省、公取委、総務省、「プラットフォーマー型ビジネスの台頭に対応したルール整備の基本原則」を策定 柏木健佑(2019/01/08)

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経産省、公取委、総務省、「プラットフォーマー型ビジネスの台頭に対応したルール整備の基本原則」を策定

岩田合同法律事務所

弁護士 柏 木 健 佑

 

1 デジタル・プラットフォーマーを巡る動向

 2018年12月18日、経済産業省、公正取引委員会及び総務省は、「デジタル・プラットフォーマー型ビジネスの台頭に対応したルール整備の基本原則」(以下「基本原則」という。)を策定した。「デジタル・プラットフォーマー」については、2018年12月12日、「デジタル・プラットフォーマーを巡る取引環境整備に関する検討会」において取りまとめた中間論点整理(以下「中間論点整理」という。)が公表されており、今回の基本原則は中間論点整理を踏まえて策定されたものである。

 いわゆる「GAFA」(Google、Apple、Facebook、Amazon)をはじめとするデジタル・プラットフォームに対しては、革新的なビジネスや市場を生み出し続けるイノベーションの担い手との評価もある一方で、その特性上、寡占化や独占化が懸念されることから、その規制の在り方に対して国際的に議論がなされている。EUにおいては、2018年4月に「オンライン仲介サービスのビジネスユーザーのための公正性と透明性の促進に関する規則案[1]」(以下「EU規則案」という。)が公表され、デジタル・プラットフォームに対する規制強化が企図されている。このような国際的な動向を背景として基本原則が策定された。

 

2 基本原則の内容

(1)「デジタル・プラットフォーマー」の意義

 基本原則では「デジタル・プラットフォーマー」の定義はなされていない。中間論点整理においては、「デジタル・プラットフォーマー」は「デジタル・プラットフォーム(オンライン・プラットフォーム)を運営・提供する事業者」を指すものと説明している。中間論点整理におけるデジタル・プラットフォーム(オンライン・プラットフォーム)は、「ICTやデータを活用して第三者に『場』を提供するデジタル・プラットフォーム」と説明されており、オンライン・ショッピング・モールをはじめとする様々なサービスが含まれるとされている。なお、EU規則案では、「オンライン仲介サービス」及び「オンライン検索エンジン」が規制対象とされているが、中間整理における「デジタル・プラットフォーマー」はEU規則案より広い概念を想定していると考えられる。

(2) 基本原則の各項目の概要

 基本原則の各項目の概要は、以下の表のとおりである。

  項目 概要
(1) デジタル・プラットフォーマーに関する法的評価の視点
  1. ▷ 利用者の安全管理や消費者保護等のための制度設計に当たって、コントロール・ポイント等として捉えた設計の在り方を検討
  2. ▷ デジタル・プラットフォーマーの特性(社会経済に不可欠な基盤、多数の消費者・事業者が参加する場そのものの設計・運営・管理、それに起因する操作性や技術的不透明性)を考慮
(2) プラットフォーム・ビジネスの適切な発展の促進
  1. ▷ プラットフォーム・ビジネスに対応できていない既存の業法について制度面の整備を検討
(3) デジタル・プラットフォーマーに関する公正性確保のための透明性の実現
  1. ▷ 透明性及び公正性の実現のため、①取引実態の把握、②専門組織等の創設に向けた検討、③一定の重要なルールや取引条件の開示等の規律の導入に向けた検討を進める
(4) デジタル・プラットフォーマーに関する公正かつ自由な競争の実現
  1. ▷ データやイノベーションを考慮した企業結合審査や、サービスの対価として自らに関連するデータを提供する消費者との関係での優越的地位の濫用規制の適用等、独占禁止法の運用や関連する制度の在り方を検討
(5) データの移転・開放ルールの検討
  1. ▷ データの移転・開放ルールの内容・適否について、個人のデータ管理やアクセスに関する権利としてのアプローチ等、様々な観点を考慮して検討
(6) バランスのとれた柔軟で実効的なルールの構築
  1. ▷ 自主規制と法規制を組み合わせた共同規制等の柔軟な手法も考慮し実効的なルールの構築を図る
(7) 国際的な法適用の在り方とハーモナイゼーション
  1. ▷ 我が国の法令の域外適用の在り方や、実効的な適用法令の執行の仕組みの在り方について検討を進める
  2. ▷ 国際的なハーモナイゼーションも志向する方向で検討を進める

(3) デジタル・プラットフォーマーと業法規制の在り方

 デジタル・プラットフォーマーに適用される業法規制の在り方については、基本原則(2)「プラットフォーム・ビジネスの適切な発展の促進」において主に定められている。当該基本原則の背景には、オンライン・ショッピング・モール事業者やソーシャル・ネットワーキング・サービス事業者による金融サービスへの参入等に代表されるように、デジタル・プラットフォーマーが異業種への参入や複数の業種の機能・サービスを統合して提供することが想定される中で、既存の事業モデルを前提とした従来の業法がプラットフォーム・ビジネスに適切に対応できておらず、既存の業法がプラットフォーム・ビジネスの障害となる一方で既存の業法がプラットフォーム・ビジネスに対して適切なコントロールを及ぼすことができていないという問題意識がある。このような問題意識は、金融審議会が2018年6月に公表した「金融制度スタディ・グループ中間整理 – 機能別・横断的な金融規制体系に向けて」[2]が、ITの進展等に対応して、従来の業態別の金融規制体系をより機能別・横断的なものとすることを志向していることも思い起こさせる。基本原則策定の端緒となった「未来投資戦略2018」[3]においても、既存の縦割の業規制からサービス・機能に着目した規制体系への転換の在り方について述べていることからも、今後サービス・機能に着目した規制体系への転換が進む可能性もある。

 また、デジタル・プラットフォーマーに対する規制という観点からは、基本原則(1)「デジタル・プラットフォーマーに関する法的評価の視点」において、デジタル・プラットフォーマーをコントロール・ポイントとして捉える制度設計に触れられていることも注目される。コントロール・ポイントとは、いくつかに分散して存在する対象の中で、政府による統制を効果的に実現するために規制を及ぼす対象をいうところ、デジタル・プラットフォーマーを巡る取引環境整備に関する検討会においては、デジタル・プラットフォーマーが、消費者保護の観点から広告内容の適切性についてチェックを行うことや、プラットフォームの利用者である事業者と消費者の間の紛争解決のための役割を担うことを期待する議論もあった。今後このような形でデジタル・プラットフォーマーが制度的な負担を求められることも想定される。

(4) 小括

 経済産業省、公正取引委員会及び総務省は、今後、基本原則に沿って、デジタル・プラットフォーマーの取引環境を整備するための制度や執行の在り方の検討を、早急に進めることとされている。今後進められる具体的な制度改正を注視する必要がある。

以上



[1] Proposal for a Regulation of the European Parliament and of the Council on promoting fairness and transparency for business users of online intermediation services

 

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