コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(143)
―日本ミルクコミュニティ㈱のコンプライアンス⑮―
経営倫理実践研究センターフェロー
岩 倉 秀 雄
前回は、会社設立後のコンプライアンス体制と従業員特別相談窓口について述べた。
コンプライアンス部は、企業倫理の維持向上・法令遵守および内部監査を担当する部門として設立され、代表取締役専務が担当役員であった。
部の構成は、企業倫理体制の統括・従業員特別相談窓口業務を行なうコンプライアンス課と内部監査・検査・環境監査及び監査役監査の補助を行なう業務検査課の2課構成とした。
従業員特別相談窓口は、公益通報者保護法が施行される前から、組織が従業員からの相談を通してリスクを把握・対応するための仕組みとして、中期経営計画でも設置を謳っていた。
名称は、従業員に馴染み易いようにメグミルク牛乳から採り、「MEGホットライン」と名づけられた。
その位置づけは、役員・従業員が、法令、企業理念、行動指針ならびに内部規定に照らしておかしいと思うことを、通常は上司に相談することとし、通常のルートでは相談しがたい事項を相談する場合の特別相談窓口とした。
相談対応者は、コンプライアンス部長、コンプライアンス課長で、担当役員と相談しつつ、秘密厳守と不利益扱いの禁止を原則とした。
なお、セクシャルハラスメントについては、外部の専門相談窓口にも相談できる体制とした。
相談者は、当人の希望により、仲介者を置くことができることとし、連絡の手段は、専用の電話、メール、手紙(コンプライアンス部長宛の親展)とした。
また、制度の周知徹底は、文書による全場所への通知、社内イントラネットへの掲載、携帯用カード・手帳貼付用シールの配布、研修時の案内、内部監査時の確認・検証により行ない、その仕組みをMEGホットライン規則に規定した。
相談状況は、秘密厳守の上で、相談件数、相談の種類、対応内容等を後述するコンプライアンス委員会に整理して報告した。
また、相談案件のうち全社的に重要なものについては、他部署での発生を予防するために、文書で全社的に注意を喚起し対応を促した。
今回は、情報開示規則の制定とコンプライアンス委員会について考察する。
【日本ミルクコミュニィティ(株)のコンプライアンス⑮:コンプラインス体制の構築と運営②】
1. 情報開示規則の制定
危機管理体制の一環として、危機管理規程に基づく危機対策本部を設置する事態が発生した場合の情報開示の基本的な考え方と、それに基づく実施基準を情報開示規則として定めた。
これについては、危機管理の項で後述するが、その骨子は次の通りである。
危機対応における情報公開の考え方は、
- ① 当該案件の想定される危機を4つの判断基準(健康被害の拡大可能性、法令違反、社会的信用失墜の可能性、経済的損失拡大可能性)に基づき分類し、危機対策本部で協議して点数化し、その点数に基づいて対応行動を決定する。
- ② 危機のレベルを点数化した情報開示判定シートによる判定結果を基に、危機対策本部長(代表取締役社長)が、開示方法の最終的な判断を行なうとするもので、この規則は平成15年5月1日に施行した。
2. コンプライアンス委員会と活動組織の設置
コンプライアンスの徹底を図るために、会社のコンプライアンスに関わる重要方針・事業計画を立案、審議、決定、推進することを目的に、コンプライアンス委員会を設立した。
また、その運営のためにコンプライアンス委員会規則を制定し、平成16年9月1日に施行した。
この委員会の設立後は、委員会を核として日本ミルクコミュニティ(株)グループ全体のコンプライアンスの取組みが前進した。
なお、コンプライアンス委員会の位置付けについては、その後、経営方針に関わる意思決定は取締役会で決議することとしていることから、その位置付けを見直し取締役会で意思決定するための事前審議機関とした。
委員会の構成は、代表取締役社長が委員長、同専務が副委員長、常務取締役、執行役員、コンプライアンス部長が委員、顧問弁護士がアドバイザーとなり、監査役は出席して意見を述べることができるとした。事務局はコンプライアンス部が担当し、委員長が認めるグループ会社の社長やコンプライアンス担当責任者及び委員長が必要性を認めた者が同委員会に出席し意見を述べることができるとした。
グループ会社からは主に社長又はコンプライアンス担当役員が出席し、同委員会は、グループ全体でコンプライアンスに関する認識と情報の共有化を図り活動を推進する上で実質的に最重要の場となった。
委員会における審議事項は、①コンプライアンスの基本方針・事業計画に関すること、②メグミルク行動規範の周知・浸透・見直し等に関する事項、③コンプライアンスの組織体制に関する事項、④子会社、関係会社(取引先含む)に対するコンプライアンスの強化・推進に関する事項、⑤その他コンプライアンスに関する事項とした。
開催頻度は年2回、上期、下期にそれぞれ定期的に開催するほか、委員長が必要と認めた場合には臨時に開催することとした。
また、全体の体制としては、本社の委員会の決定に基づき、現場レベルで部署別にきめ細かい取り組みを実施し、コンプライアンスの浸透・定着を図る目的でコンプライアンス活動組織を設置した。
同組織は、本社部長・事業部長を部署全体のコンプライアンス活動に責任を持つコンプライアンス責任者、工場長・支店長・ロジスティクスセンター長を事業部長を補佐するとともに自部署のコンプライアンス活動に責任を持つ副責任者とした。
各活動組織には、コンプライアンス責任者・副責任者の指示に基づき職場のコンプライアンスを推進するコンプライアンスリーダーも設置した。
コンプライアンス委員会は筆者の在任中合計11回開催したが、年初の委員会では、主に前年度の総括と次年度の取組み方針・重点活動計画について審議し、上期末にはその年度の中間総括として各活動組織の重点活動計画への取組み状況やMEGホットラインの相談状況、研修の状況等を報告した。
(つづく)